裏切られ魔術師、最強軍を作る。オルドア大陸戦記

第1121話、一掃、しかし……

　ウィリディス第二艦隊が戦線に到着した。

　戦艦『大和（ヤマト）』を先頭に『武蔵（ムサシ）』『加賀（カガ）』『土佐（トサ）』『伊勢（イセ）』、そしてドレッドノート級、生駒（イコマ）級が続く。

「やられた分は、お返ししないといけない」

　俺は、第二艦隊旗艦『大和』のシップコア『藤（ふじ）』に通信機で呼びかけた。

「遠慮はいらない。魔導放射砲の使用を許可する」

『承知しました、閣下。――収束魔導放射砲、発射用意！」

　別名、決戦砲。俺のバニシング・レイの艦艇搭載版ともいうべき超兵器を、大和級は六門搭載している。

　こいつを用いて、敵艦隊を一掃してやる！

　スティグメ帝国艦隊は、大和以下第二艦隊へと艦首を向ける。また例の長距離砲を使うつもりだろう。

　だが、もう遅い！

『魔導放射砲、発射！』

「大和」が強力な青い光を放った。

　バニシング・レイの数倍威力の攻撃が六門、それが一斉に発射されれば、さながら巨大な彗星のようであり、スティグメ帝国艦隊の全艦を飲み込んだ。

　光が防御シールドを溶かし、敵艦を喰らう。塵（ちり）となって消し飛ぶスティグメ帝国艦。その光が遥か彼方へと飛び去った跡には、艦艇だったものは欠片も残っていなかった。

「主殿、敵艦隊は消滅した」

　ディーツーが報告すると、場にいたエルフたちが、そのあまりの威力に絶句する。ディーシーが薄ら笑いを浮かべた。

「大した威力だな。凄まじいの一言だ。あれ一隻あれば充分じゃないか？」

「あれは使い捨てだ。次の専用魔石がなければ魔導放射砲は撃てない」

　だから『武蔵』という僚艦があって、他にも同様の装備を戦艦群に搭載しているのだ。

「敵残存航空機ならびに魔人機隊、戦場を離脱中」

　戦術モニターにも、敵が引き始めたのが表示される。

「艦隊を失って、恐れをなしたか？」

「母艦を失ったのだ。妥当（だとう）なところだろう」

　ディーシーは鼻をならす。

「さて、問題はこいつらがどこへ逃げるか、だな」

「ああ、どこから来て、どこへ行くのか」

　俺は、シェイプシフター通信士に言った。

「偵察機を出して敵を追尾させろ。スティグメ帝国とやらがどこにあるのか、手掛かりくらいは掴めるだろう」

『了解です』

　シェイプシフター通信士がさっそく、偵察隊に命令を伝える。

　俺はエルフの里近辺のマップを見下ろす。

「大帝国はどうなった？」

「今のどさくさに紛れて撤退（てったい）を開始した」

　ディーツーがホログラム状の記録を表示する。

「セア・ヒュドールの冷気フィールドに打つ手なしと見たのだろう。このまま追撃を――」

『閣下、アリエス軍港より緊急電であります！』

　先ほどとは別のシェイプシフター通信士が振り返った。アリエス軍港と言えば、ヴェリラルド王国上空にある浮遊島軍港であり、我がウィリディス艦隊の母港である。

　大帝国との艦隊戦で損傷したディアマンテ級ほかを帰投させたのだが――

『トキトモ領内のアンノウン・リージョンより、多量のモンスターが出現！』

　アンノウン・リージョン――あの謎の闇に包まれた領域だ。地元出身のサキリス曰く、入ったものは二度と帰ってくることはなく、時々、ダンジョンスタンピードのような魔獣の吐き出し現象が起きると言われている。

　ここ最近おとなしく、またキャスリング領からトキトモ領への移行、その後のゴタゴタで放置していたのだが。

　モンスターの大群が出現し、さらに――

「アンノウン・リージョンから、所属不明艦隊が出てきた？」

「所属不明艦隊と言うと」

　ディーシーが顔をしかめた。

「まさか、スティグメ帝国か？」

「タイミングがよすぎるとも思うが……いや、違うな」

　俺は顎に手を当てる。

「エルフの里に現れたスティグメ帝国。ここで世界征服を宣言……。そう宣言したからには、艦隊はここだけじゃないだろう。敵は航空艦艇を持っている……つまり、世界同時攻撃！」

　電撃的奇襲により、各地の防衛態勢が整う前に制圧しようというやつか。

「奴らがどこから来たのかわからなかったが……もしかしたら、トキトモ領にあるアンノウン・リージョンに似た場所が他にもあって、そこから出てきたのかもしれない！」

　俺はディーシーとディーツーを見た。

「ディーツー、ここは任せる。スティグメ帝国の第二陣を警戒、里の防衛態勢をとれ」

「了解した。大帝国陸軍はどうすればいい？」

「撤退するならさせておけ。里の防衛を優先だ」

　大帝国侵攻軍の掃討に注力していたら、スティグメ帝国にエルフの里に侵入された、というのは避けたい。二兎を追う者は一兎をも得ず、というしな。

　エルフの里には水晶結界があるが、敵が魔法文明時代の生き残りであれば、あの結界を突破できる手段がある可能性が高い。アポリト本島の結界も、連中の艦艇などは通過できたからな。

「俺は、トキトモ領へ戻る。エルフの里に主力を派遣して、戦力が手薄だからな。ノイ・アーベントが危ない」

　第一遊撃隊に、ヴェリラルド王国への帰還を命じる。

「ジン様」

　エルフ魔術師のヴォルら、白エルフの軍人たちが不安そうな顔をしている。

「悪いが行ってくる。第二艦隊は、里に残して警戒させる。何かあれば知らせてくれ」

「はい、女王陛下にもそのようにお伝えいたします。……里の防衛に尽力いただき感謝いたします。ご武運を」

「ありがとう。ディーシー、行くぞ」

　本当は第二艦隊も連れて戻りたかったんだが、青の艦隊の損耗（そんもう）が激しい。エルフ艦隊は弱小なので、いま攻められたらヤバイのだ。

　俺はディーシーを連れて、転移魔法で跳躍した。

　目を開ければ、そこはギルロンド司令部ではなく、ヴェリラルド王国は、アリエス浮遊島軍港の専用転移室。

　ちなみに、転移室などと言っているが、特に装置や魔法があるわけではない。転移魔法は、その転移場所に人や物があると大事故になる。

　だから、常に誰もいない、物がない部屋を用意しておけば、俺が転移先を想像するだけで、事故なし転移が可能になるのである。

　転移室を出て、軍港司令部へ向かう。途中、軍港では先に戻っていたディアマンテ級巡洋戦艦や損傷した艦艇の魔力再生式修理作業が進められていた。

　……とはいえ、今回の事態の収集には間に合わないだろう。修理を中断して出撃しない限りは。

　俺はアリエス軍港司令部に到着した。銀髪軍人姿の旗艦コア、ディアマンテが待っていた。

「お帰りなさい、閣下」

「ただいま、ディアマンテ。状況は？」