第1120話、進撃! スティグメ帝国艦隊


 エルフの里である世界樹めがけて、スティグメ帝国を名乗る吸血鬼艦隊から航空機群がせまる。

 迎え撃つは、世界樹直上を守る青の艦隊とエルフ艦隊、そしてエルフ航空隊だ。


 ドラケンⅡ、ファルケ戦闘機が、敵のスカルヘッド、飛行サメ、コウモリ型といった異形の敵機を迎撃する。

 まずは先制のミサイルが、異形の航空隊を襲い、無数の火の玉を空に上げる。それでも果敢かかんに突進を続けるスティグメ帝国機。遠距離から近距離格闘戦へと双方、もつれこむ。


 光弾や機関砲が飛び交う。直撃を受けた機体が火を噴いて古代樹の森へと落ちていく。

 青の航空隊、エルフ航空隊機は、敵機の挙動に大きく混乱させられた。

 ほぼボール型のスカルヘッドは、被弾面積が小さい上に空中での急激なターンで、戦闘機とは思えない回避機動をとる。

 またブラックバット戦闘爆撃機も、翼を羽ばたかせるように可変させることで急激な失速回避や方向転換で、ウィリディス機の射線をはずす。


 飛行サメことガレオス戦闘機は、突然姿を消して、回避したり、または後ろに回り込んで突然現れるなど、トリッキーな動きを見せた。


 浮遊島ギルロンド司令部で戦況を見ていた俺は、自然と表情が険しくなっていくの感じていた。


「大帝国の航空機よりも強いな」

「第三艦隊に戦闘機の支援を要請しよう」


 ディーシーが進言した。エルフの里戦域とは遠く離れた地点に展開するアーリィーの空母機動艦隊は、ポータルを使うことでその航空隊をあっという間に派遣できる。


「そうしよう。……しかし、ベテラン揃いの第三艦隊航空隊も、これは手こずるだろうな」

「主殿」


 戦域管制をしていたディーツーが振り返った。


「エルフの里の地下に秘蔵の航空隊が隠してある。こいつらを投入したらどうだろうか?」

「秘蔵の航空隊だと?」


 なにそれ、初耳。


「ニムから聞いていないのか? エルフの里の守護を目的としたスペシャル航空隊だ」

「いやいや、聞いてないぞ。……それはいったい?」

「おそらくこの世界に現存する、最古の航空隊だ」


 ディーツーはニヤリと笑った。


「何せ9900年前、吸血鬼と戦ったシェイプシフター航空隊だからな」


 新生アポリト帝国と反乱軍の戦い。そこをくぐり抜けてきたシェイプシフターパイロットたち――かつて俺があの時代に連れて行ったシェイプシフター兵の分身体。

 知識と経験を蓄えたベテラン航空隊が、エルフの里地下施設にて、待機していた。



  ・  ・  ・



 それは、年季の入ったファルケ戦闘機だった。白エルフ航空隊機を示す緑のラインの入ったファルケ小型戦闘機は、秘密ゲートから次々と発進した。

 18機。決して多くない機体数だが、それらは世界樹上空の航空戦に飛び込んだ。


 ファルケは、ブラックバット戦闘爆撃機へプラズマ砲から光弾を叩き込む。しかし急旋回で回避するブラックバット。外れ――だが二機目のファルケが、回避したコウモリ機の先に光弾を収束させ撃墜した。

 的の小さなスカルヘッドも、真上からの高速一撃離脱で避ける間も与えず破壊。


 オールド・ファイターズの参戦は、地味ながら、スティグメ帝国有利な戦況を徐々にウィリディス、エルフ連合側に引き戻しつつあった。


 そんな中、スティグメ帝国艦隊が、世界樹に接近しつつあった。

 同帝国第六艦隊の指揮官である、デェーヴァは口をへの字に曲げた。


「家畜の分際でやるわね。もう少し圧倒できるものだと思ったけれど、これならもっと部隊を連れてくるんだったわ。――艦長」


 デェーヴァは司令官席を立った。


「『パルテノス』で出るわ。魔人機隊を発艦させなさい」

「はっ、デェーヴァ様!」

「あと、あの艦隊も片付けて」


 スティグメ帝国第六艦隊の前には、青い艦体色の艦艇と、ややレトロな外装のエルフシップが立ちふさがる。

 戦艦級3、空母3、巡洋艦8、小型艦20ほど――スティグメ帝国第六艦隊のほうが隻数はやや多い。


「承知しました。見事蹴散らしてご覧に入れます!」


 第六艦隊は戦闘隊形をとりつつ、進撃した。



 ・  ・  ・



 青の艦隊は正面から迎え撃つ位置へと動いた。

 先日配備されたレナウン級巡洋戦艦3に加え、古参のリーベルタース級空母『ノードゥス』、Ⅰ級軽空母2、歴戦のデファンス級軽巡洋艦『デファンス』、アキリーズ級重巡洋艦3、モガミ級高速巡洋艦4、ウォーデン級護衛艦12隻からなる艦隊だ。


 レナウン級巡洋戦艦は、本来は、ウィリディスの簡易量産兵器計画によって、他国向けの艦艇として計画された。だが回収した魔法文明時代の戦艦を輸出に当てることになった結果、ウィリディス軍艦艇として就役した


 武装面では、改装された魔法文明戦艦と同じ30.5センチ連装プラズマカノンを6基12門を搭載している。

 このレナウン級の配備によって、それまで巡洋艦と空母戦隊のみだった青の艦隊の戦力は大幅に増強された。その巡洋艦も、モガミ級が4隻配備されたのも大きい。

 これらは、同規模の大帝国艦隊と正面から撃ち合っても互角以上に渡り合えたはずだった。


 だが、スティグメ帝国の艦艇との実戦経験はない。

 これは無理もなかった。何故なら9900年の時を経て、いま初めてその姿を現したのだから。


 正面からの砲撃戦が展開されると思われたその時、先制したのはスティグメ帝国艦隊だった。

 飛行クジラと軍艦をミックスしたような姿のスティグメ帝国艦は、その艦首にある目のような部位から、強力な光弾を発射したのだ。

 クジラ戦艦、クジラ巡洋艦、そしてドラゴン巡洋艦から放たれた先制攻撃は、青の艦隊に殺到した。



  ・  ・  ・



 ギルロンド司令部。俺は、青の艦隊が敵の先制により痛打されるのを見た。

 直撃を受けたレナウン級三番艦『レジスタンス』がシールドを破られ艦体に大穴が開いて爆発、轟沈。二番艦『レパルス』も右舷側をえぐられ爆発、炎上。

 アキリーズ級巡洋艦『ウラニア』沈没。『ダナエ』『ナイアド』損傷。モガミ級巡洋艦『加古カコ』『青葉あおば』が大破と、先制パンチというには大打撃を被ったのだ。


 レナウン級はやや装甲の薄い巡洋戦艦であるが、魔法文明時代のインスィー級戦艦と互角以上に戦える艦だ。それを一撃で、1隻撃沈の1隻中破とは……。


 あっさり防衛線が崩れたものだ。もう、二、三、同じ攻撃を食らったら、青の艦隊は全滅するだろう。

 あの敵の戦艦、全長300メートルくらいはあるようで、大きさだけなら大和級や土佐級より大きい。


「主殿、第二艦隊が到着だ」


 ディーツーが報告した。大帝国の侵攻方面から、スティグメ帝国艦隊へと矛先を向けたウィリディス第二艦隊の主力が駆けつけたのだ。

 敵の主砲は40センチ? それ以上か。……んなものは関係ない。こちとら46センチ砲の大和ヤマト級戦艦でお相手しよう。


 見てろよ、一気に消し飛ばしてやる。目には目を、歯には歯を、だ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る