第1117話、エルフ・ウィリディス軍の反撃


 水の魔神機セア・ヒュドールを乗っ取った。

 古代樹の氷漬けゾーンが、大帝国の侵攻軍のほうへ移動したのを見て、俺はほくそ笑んだ。


 いやはや、自分たちが頼りにしていた武器を、逆に向けられるのはどんな気分だね、大帝国の諸君。

 進撃し始めていた敵侵攻軍が先頭から、冷気フィールドによって凍らされていく。

 西側に展開している大帝国軍の前衛は三つに分かれているが、中央の主力部隊に対して、セア・ヒュドールがその猛威もういを奮っている。


「よし、好機到来! 魔人機大隊、PS大隊に攻撃命令!」


 俺の命令を受け、エルフ通信士、シェイプシフター通信士が、それぞれ受け持ち部隊に攻撃を伝達した。



  ・  ・  ・



 大帝国軍エルフの里攻略軍司令部。

 水の魔神機の反転の報告は、指揮官であるフェール中将のもとに届いた。


「魔神機が、こちらを攻撃してきただと!?」

「は、はい! 広範囲冷凍魔法が中央軍に影響を与え始めております!」


 つまり味方兵が凍らされているのだ。敵エルフどもを凍らせる攻撃が、こちらに向けられている。


「どういうことなのか!? 通信できんのか!」

「呼び出しておりますが、操縦士から応答はありません!」

「馬鹿な! 何を血迷ったかっ!」


 フェールは怒鳴った。


「操縦士は裏切ったのか! くそっ! シェード将軍に大至急、連絡だ。急げ!」


 通信参謀が駆ける中、幕僚たちにも動揺が走る。

 セア・ヒュドールによる冷気フィールドでエルフの防衛網を凍らせて、突破するという単純ながら効果的な戦法が、瓦解がかいした。肝心のセア・ヒュドールの転進によって。


「閣下、中央主力を後退させなければ、我が軍の損害が拡大します!」

「後退だとっ!」


 敵を前にして――フェールは歯噛みする。

 昨日出現した沼により、進撃ルートを大きく変える必要があると思われた。沼を進撃するのは困難を極めるのが予想され、不用意に進めば敵のキルゾーンにやられてしまう。


 しかし、シェード将軍は、こちらが移動困難な沼を迂回するだろうと敵は判断するから、地形の問題さえ解決するなら、中央が一番手薄であると言う。

 だから沼を凍らせて進撃する、裏をかいた作戦だったのだが……物の見事に裏切られた。

 魔神機操縦士の反逆が、すべてを台無しにしたのだ。


「閣下! 緊急報告であります! エルフ軍が反撃に出ました。左翼、右翼軍が攻撃を受けています!」

「何だと!?」


 中央が迂回されるから、敵は両翼の兵を増強している――そのシェード将軍の読みに従えば、強力な敵の両翼が攻勢に出た。

 ますます厄介な事態となった。



  ・  ・  ・



 魔人機大隊、PS大隊=パワードスーツ部隊は、中央ではなく、それぞれ両翼の大帝国部隊へ攻撃を開始した。


 まず先手をとったのがパワードスーツ部隊だ。全高二メートル半ほどの鋼鉄の機動歩兵が、ディーシーのテリトリー内転移により、敵側面を襲撃する。


『ひるむな! 我らの森から、侵略者を追い出せ!』


 エルフの里出身エルフであるヴィスタは、パワードスーツ部隊を率いていた。ウィリディスにきて、機械兵器などにも積極的に取り組んでいた彼女が、いよいよその力を発揮した。

 森の中での精密かつ猛烈な弾幕。さらに縦横無尽に駆ける機動歩兵が、ロケットランチャーやマギアライフルで、大帝国兵を混乱させた。


 ウィリディス軍パワードスーツ『ヴィジランティ』がブースターを使った高速機動を行えば、エルフ軍パワードスーツ『ホワイトガード』が巨大な古代樹を足場や壁とした立体機動を展開して、敵の頭上から魔法弓弾による弾幕を浴びせた。

 中央部隊が、セア・ヒュドールの冷気フィールドにより後退。帝国部隊の混乱は加速する。

 そこへ今度は魔人機大隊が突撃した。


『進め! 敵を蹴散らせぃ!』


 ベルさんのブラックナイトⅢ率いるA大隊が、動揺している大帝国左翼部隊へ乗り込む。大型ブレードで帝国魔人機を切り裂くブラックナイト。その足元では、大帝国兵が踏み潰されないよう逃げまとう。

 A大隊はシャドウフリート陸戦隊が中心だ。その黒いアヴァルクやカリッグといった大帝国機のような魔人機で、戦線を食い散らかす。


 だが帝国機も反撃する。ドゥエル・ランツァの巨大槍が、突っ込んできたカリッグの分厚い装甲を貫通すれば、ドゥエル・ヴァッフェの投げた斧がアヴァルクの頭に突き刺さる。

 だが全体的にA大隊は押している。


 さて――俺は、戦況モニターと、偵察ドローンの映像を交互に見やる。

 一方の敵右翼には、B大隊――ファントムアンガーの魔人機大隊が攻撃する。


『敵をかき乱せ。そうすれば勝手に混乱する』


 マッドハンターのバーバリアンⅡが脚部のスラスターを噴かして、ホバーのように古代樹の森を進む。

 バーバリアンⅡは、俺の使っているタイラントをベースにした量産型だ。魔法装備はオミットされた部分もあるが、魔人機として高い性能を持っている。

 ちなみに、バーバリアンⅠはパワードスーツである。


 ロングレンジライフルを撃ちながら、バーバリアンⅡは突出する。その正確な射撃は、武器を手にしたドゥエルら帝国魔人機をまったく寄せ付けない。


『さすがシールド貫通弾だ』


 魔人機には防御障壁があって、通常の射撃武器は無効化される。しかしその障壁を突破できる魔破まははがねでできた弾は、確実に敵魔人機を葬っていく。

 バーバリアンⅡに続き、随伴ずいはんするアヴァルクも高速機動で追走する。ライフルやブレード、斧などで敵ドゥエル機を潰しながら、戦果を拡大させていく。


 やるもんだ。俺も素直に感心した。

 さすが歴戦のファントムアンガーだ。まともに数えたら、敵のほうが数が多いのだが、混乱に乗じて敵の撃破数を稼いでいる。

 下にいる大帝国兵など、高速で移動しまくる魔人機から逃げるしかなく、隊形も乱れまくっていた。


 そこをパワードスーツ部隊が再度強襲した。

 魔人機に比べて小さいとはいえ、人間からしたらパワードスーツは、オーガのような大鬼を相手にしているようなものだ。その近接の剣やハンマーで殴られれば、重甲冑の兵とてミンチになっしまう。


 エルフ・パワードスーツが魔法弓の爆裂弾や雷撃矢の雨を降らせれば、統制を失った帝国兵を次々に仕留めて、その攻撃から逃れた者を逃走させた。


 森といいながら、スケールが大きすぎる古代樹の森は、大型機械兵器でも過不足なく動ける特殊な土地だ。

 戦車のような長射程武器は向かないものの、機動戦が可能。

 そして機械化を進めつつも、自分たちの森でどう戦うのか、それに特化した装備を選んだことはエルフたちの善戦につながった。


 まあ、それでも大帝国との数の差が開き過ぎて、エルフ単独では防衛しきれなかっただろうけどね……。

 不足の分は、俺たちウィリディス軍がここにいる。

 それにしても――


「ベルさんはともかく、ヴィスタも凄いな」


 戦果半端ない……。

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