第1103話、エルフの里攻撃軍の主力とは?


『ラガード』爆沈は、大帝国エルフの里攻撃軍にも伝わった。

 それを受けた第二艦隊司令部の反応は冷淡なものだった。


 敵戦艦2隻を撃沈せしめた切り札が早々になくなったと知ったヒュース提督ていとくは、シェード遊撃隊に、陸上部隊を輸送する揚陸ようりく艦隊の護衛につくよう告げた。そして、当のシェードを除外して今後の艦隊行動を各戦隊指揮官と話し合った。

 蚊帳かやの外に置かれたシェードは、それならばと上陸部隊の指揮官と揚陸艦隊の司令官の三人で以後の行動を話し合うことにした。


「ヒュース提督も露骨ろこつですなー」


 上陸部隊の指揮官フェール中将は、禿げあがった自身の頭をピシャリと叩いた。


「私は、シェード将軍が指揮を取るべきだと思うんですがね」


 フェール中将は陸軍の将軍である。空軍改め海軍のヒュース提督をあまりよく思っていないようだった。


「そういえば、シェード将軍は、どちらの所属なんです? 今も陸軍なのですか?」

「皇帝陛下直属の特別軍、らしい」


 苦笑するシェード。海軍から艦隊を任されることもあれば、陸軍からも部隊を送られ、独立部隊として行動している。


「親衛隊とは違うのですか?」

「そのあたり、私もわかりません。もしかしたら、親衛隊なのかもしれない」


 ただ命令系統に、親衛隊の文字はひとつとして見かけたことがないし、言われたこともないが。


「例の魔神機が、将軍のもとに配備されていますよね?」

「『ラガード』は沈められたらしいですが、魔神機は三機ありますね」


 シェードが答えると、フェールは首をひねった。


「エルフの里攻撃に、それらを投入しますか?」

「投入してほしい、ということですか、フェール中将?」

「どうなんでしょう。正直に言って、エルフの戦力がどんなものかわからないんですよ」


 フェールの目が光った。


「これまでの雑魚と同様なら、今の戦力でも過剰過ぎるのですが、例のシーパングが兵器の支援をしているとなると……話は変わります。まあ、それでも互角以上に戦えるとは思いたいですが」

「……」

「ただ、いざという時は頼りにしたい」

「それには同感ですな」


 これまで黙っていた揚陸艦隊の司令官、フームス少将が口を開いた。


「もっとも、私としては陸軍さんの支援よりも、揚陸艦隊の護衛として、ですが」


 この三人の中で、最年長であるフームス少将は、すでに老人の域に入っている指揮官である。


「第四艦隊がすでにやられた。ヒュース提督は自分の艦隊がエルフの里攻撃の主力であり、その警備を強化していますが――」

「馬鹿な、攻撃の主力は我々陸軍だ!」


 フェール中将が語気を強めた。


「いかに船があろうと、実際に制圧するのは、陸軍でなければできない」

「あー、もちろんわかっておりますとも、フェール中将閣下。閣下の上陸部隊こそ、エルフの里攻撃の要です。だからこそ――」


 フームス少将は声を落とした。


「それを運ぶ我が揚陸艦隊の護衛こそ重要。もしこれを叩かれるようなことがあれば――」

「叩いてくるでしょうね。敵は狙ってきますよ」


 シェードは断言した。


「彼――ジン・アミウールならば、こちらの意図を把握して、狙わないはずがない」

「ジン・アミウール……!」


 フェールとフームスの表情に緊張が走る。悪名高い連合国の英雄魔術師は、大帝国軍人ならば、悪魔の如く忌み嫌っている。


「ヒュース提督が自分の艦隊の護衛に注力し、後方の揚陸艦隊を疎かにするなら、必ず攻撃してくる」

「里につく前に攻撃されたら……」


 フェールは深刻な顔になる。エルフの里を制圧する地上軍がいなければ、占領せんりょうすら不可能となる。その時点で攻略作戦は失敗だ。


 フームスもまた口をへの字に曲げた。


「第二艦隊の空母群を、こっちに回してくれれば、防空も期待できるのですが……」

「そこは、私の遊撃隊で何とかするしかないでしょう」


 シェードは頷いた。


 ――もしかしたら、それを期待してヒュース提督は、私を揚陸艦隊の護衛につけたのか?


 だとすれば、最善ではないが次善の策を講じたことになるが……。


 ――いや、単に私のことが嫌いなだけだろう……。


「ともあれ、我々は皇帝陛下の命令に従い、エルフの里を制圧しなくてはならない。そのために最善を尽くしましょう」

「そうですな」


 フェール陸軍中将とフームス海軍少将は頷いた。



  ・  ・  ・



「なるほどね……。魔神機かぁ」


 機動巡洋艦『ユニコーン』内の司令官執務室に俺はいた。魔力通信機で交信しているのは、第三艦隊を任せているアーリィーだった。


『空母がいない揚陸艦隊に攻撃隊を送ったけど、魔神機と魔人機が迎撃してきた』


 第四艦隊を叩いたことで、これ以上の艦隊の損害を恐れた敵第二艦隊は、自隊の警戒と防御態勢を強化した。

 一方で、陸軍をせた上陸部隊の警備は手薄という失態をやらかしていた。エルフの里攻撃の主力である部隊を失えばどうなるのか、敵指揮官は失念してしまったようだった。


 だが、本当に見落としているのか、と俺は疑念を持った。あまりにうますぎる展開は、罠かもしれないという思ったわけだ。

 そこでアーリィーの空母機動部隊に、ロングレンジのミサイル爆撃を命じたが……。きっちりと迎撃された。

 航空隊のミサイル攻撃は、風の魔神機セア・エーアールの風魔法で防がれてしまい、ダメージを与えられなかった。


「全力攻撃を命じなくてよかった」

『うん。もし肉薄ありの攻撃を命じていたら、攻撃隊の損害もひどいことになっていたと思う』


 敵輸送艦の防御力などたかが知れているから、徹底的に叩け、なんて命令していたら、魔神機の餌食になるところだった。


「こちらの損害は?」

『攻撃機が四機ほど。風の魔神機から逃げ切れなかった機体がやられた』


 たった四機の喪失そうしつだが、ミサイルは結構消費したな。

 魔神機といえば、マクティーラ・シェードの遊撃隊に配備されたと、SS諜報部から聞いている。


「シェード将軍が、護衛についているとなると厄介だな」

『どうする? 下手に攻撃隊を繰り出しても、損害しかでないと思うよ』


 アーリィーは、きっぱりと告げた。何か対策がない限り、手を出せないと彼女は言っているのだ。それは正しい。


「魔神機には魔神機か、それに匹敵するものをぶつけるのが常道だろう」


 ベルさんのブラックナイト、サキリスのリダラ・ドゥブとか。T-A型スーパーロボットは……パイロットがいないんだよな。


「ただ、いま慌てて一気にケリをつける必要もないんだ。魔神機は数は限られているし、交代のパイロットはいない」


 じっくり、時間をかけて、疲れさせるというのも手ではあるよな。

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