第1104話、嫌がらせ攻撃


 ディグラートル大帝国のエルフの里攻撃軍は、第四艦隊を失うも、なお進撃を続けていた。

 第二艦隊と、陸軍を乗せた揚陸艦隊。


 俺は、後者である揚陸艦隊への攻撃を計画した。問題は、この部隊には魔法文明時代のスーパウェポンである魔神機が護衛についているということ。

 風の魔神機セア・エーアールと、土の魔神機セア・ゲーの二機が、観測ポッドによって確認された。


 正攻法でやれば、性能差で数をひっくり返されて、こちらが大損害を被ってしまう。航空機で攻めればセア・エーアールに。地上戦力で攻めればセア・ゲーに、という具合だ。


「で、あるなら、正攻法で攻めなければいい」


 小規模の奇襲、アウトレンジからの継続的な嫌がらせ攻撃を仕掛けた。

 アーリィーの第三艦隊に命じて、小規模な攻撃隊を複数、時間をズラして発進させた。搭載した対艦ミサイルによる超長距離攻撃。


 敵艦の位置は、観測ポッドやレイヴン偵察機が捕捉しており、肉眼では見えない遥か彼方から、ミサイルを撃った攻撃機は、敵の攻撃にさらされることなく退避行動が取れた。


 さて、そのミサイル攻撃だが、護衛についているのがシェード将軍の部隊ということだけあって、きっちり迎撃してきた。

 セア・エーアールと、空中対応のリダラシリーズ魔人機が、魔力レーダーで発見したミサイルを撃墜げきついしていった。


「さすがに、やるもんだな」


 俺は、機動巡洋艦『ユニコーン』の艦橋にいて、偵察機の送ってくる映像を眺める。同じく見ていたベルさんが腕を組んだ。


「ちまちまやり過ぎじゃないか、ジン? 一度に百とか二百のミサイルを撃っちまったほうが早いぜ?」


 いまのところ、攻撃隊は、四から六発程度を、複数回、さまざまな方向から放っている。敵からはランダムな方向から飛んできているように見えるだろう。いちいち迎撃位置につくために魔人機が右往左往しているのが見えた。


飽和ほうわ攻撃というやつだな。敵が対処できない数の攻撃を同時に叩き込むってやつ」


 確か、俺のいた世界で、ロシアが、アメリカの空母部隊を撃破する方法として、多数のミサイルを放つ飽和攻撃戦術を研究していたという話を、どこかで聞いたことがある。


「俺もまとめてミサイルをぶっ放したいところなんだがな。エーアールがいるから、まとめて撃墜される恐れがある」


 風の魔神機の風魔法攻撃は、非常に範囲が広い。まとめて掃除されてしまっては、むしろ敵に楽させてしまう。


「こっちは嫌がらせ攻撃に徹する。同じミサイルを無効化されるにしても、パイロットや攻撃にさらされている兵たちの疲労度は段違いになる」


 いつ、どこでミサイルが飛んでくるかわからない。警戒している魔人機パイロットたちは、絶えず緊張にさらされるし、揚陸艦隊の乗組員たちも、ミサイル飛来のたびに警戒配置ないし待機を強いられる。

 エルフの里で暴れる予定の陸軍兵にとっても、艦内で何もできずに攻撃されないように祈る行為が、延々と続けば、夜も眠れなくなるだろう。


「夜も仕掛けるのか?」

「嫌がらせ攻撃というのは、そういうことだよ」


 敵兵を眠らせない、緊張させたままにしておく、というのは、その人間のパフォーマンスを大きく削ぐ。戦う前から疲れてしまえば、いざ本番でその能力を発揮するのは難しい。

 日露戦争における日本海海戦、ロシアのバルチック艦隊が、地球を半周してはるばるやってきた日本海で、東郷平八郎率いる連合艦隊に撃滅されてしまったのも、だいぶお疲れモードだったのもそこそこ影響している。


「とはいえ、ここまでミサイルが一発も通らないと、戦っているパイロットはともかく、揚陸艦隊の乗員たちが慣れて、気にしなくなってしまうだろうね。彼らにも緊張状態を保ってもらうために、もう少し細工が必要だ」


 俺は、アウトレンジ・ミサイル戦法を継続しつつ、次の嫌がらせ攻撃にゴー・サインを出した。

 空ばかりに注意が行っている今、真下から攻撃されたらどうなるかな?


 現在、敵揚陸艦隊は、森林地帯上空を航行している。剣や弓で戦っている連中なら、攻撃すらできない空中を飛んでいる帝国艦隊だが、ポータル移動した遊撃隊魔人機部隊――AS-03ベヒモスが森に潜伏して待ち伏せていた。


 ベヒモスは重量級魔人機だが、そのメイン武装は、対艦用プラズマカノンを魔人機用にこしらえたヘビィ・プラズマランチャーである。

 対艦用の火砲を携帯し、艦艇では不可能な場所や地形で運用できるのが、ベヒモスの長所だ。


 森に隠れていたベヒモス隊は、上空にさしかかった揚陸艦隊を見上げ、肩に担ぐヘビィ・プラズマランチャーを構えた。

 そして、ほとばしる青い光弾。


 陸軍兵を乗せた揚陸艦、その護衛のフリゲートに、次々にプラズマ弾が命中。対艦用の強力な一撃は、装甲の薄い揚陸艦を容易く撃ち抜き、可燃物に引火、すさまじい爆発となって艦を引き裂いた。


 よしよし。モニターでその様子を見ていた俺は、完全な不意打ちを敵に食らわせたことにほくそ笑んだ。

 一撃を放ったベヒモス隊は、さっさと撤収行動に移った。この奇襲を利用して、一挙に敵艦隊を撃滅――という気持ちになるのだが、何せ相手はあのシェード将軍だ。戦果拡大を狙ったら、それなりの成果は見込めるが、ベヒモス隊も無視できない損害を受けるだろう。


「……ほらな」


 敵揚陸艦から、ドゥエルタイプ魔人機が飛び降りた。ベルさんが口笛を吹く。


「ヒュゥ、中々、反応がいいじゃないか」

「攻撃に備えて待機していたんだろうね。……もしかしたら、艦が被弾した時にすぐ脱出できるように、パイロットにはコクピット待機が命じられていたかもしれない」


 だとしたら、嫌がらせ攻撃は効果覿面てきめんだろう。何せパイロットは狭いコクピットに長時間すし詰め状態だ。

 敵魔人機のほか、土の魔神機セア・ゲーまでが降下してきた。


 しかし、ベヒモス隊は所定のポータルに飛び込んで緊急離脱。ポータルも解除して追撃を防ぎつつ、損害なしで撤収を成功させた。


「いいね。機体を出してしまうと、収容する時間が掛かるから、余計に揚陸艦隊の足が遅くなる」


 先行する大帝国第二艦隊との距離がますます開く。いざ救援を求めても、すぐには駆けつけられない距離になる。

 ベルさんは口もとを皮肉げにゆがめた。


「どうかな。ベヒモス隊の急襲で、揚陸艦隊は第二艦隊に救援を求めてるんじゃないか?」

「まあ、それでもいいんだけどね」


 第二艦隊と揚陸艦隊が合流したら、防備はそれなりのものになるだろう。空母部隊の艦載機をうまく扱えるなら、こちらの嫌がらせ攻撃に対しても、ある程度防ぐことができるかもしれない。


 ま、その時は、その迎撃戦力を削る策に切り替えるだけなんだけどね。制空権を失うことがどういうことか思い知ってもらうだけのことだ。

 ベヒモス隊の襲撃後、大帝国揚陸艦隊の進軍速度は、明らかに落ちた。その間も、こちらの第三艦隊航空隊による、嫌がらせミサイル攻撃は継続された。


 俺は、そのミサイルの中に、ステルス装置を積んだ特殊ミサイルを混ぜて使用させた。魔力レーダーにも目視でも確認しづらいミサイルが紛れ込んだことで、迎撃が間に合わず、被弾、爆発する揚陸艦が相次ぐ結果となった。

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