第1101話、例のミサイルと、試験艦


 敵の新型戦艦に対する報復は、速やかに、そして断固として果たさなければならない。

 何故なら、敵の士気を高めてしまうからだ。


「変に盛り上がって団結されると困る。敵には敗北を重ねてもらって、どんどんやる気をなくしてもらわないとね」


 戦いは兵器のスペックだけで語るものではなく、そこにいる人間についても目を向けなければならない。

 さて、俺は、帝国の新型戦艦――『十字架』とつけた、それを撃沈すべく、戦力を整えた。


「まずは例のミサイルを積んだ艦艇を呼び寄せる必要がある。――ディアマンテ」

『アリエス軍港で、改装が終わったばかりの第五駆逐隊があります。駆逐艦四隻にそれぞれ搭載、そちらに向かわせます』


 神風級駆逐艦の『初風はつかぜ』『雪風ゆきかぜ』『天津風あまつかぜ』『時津風ときつかぜ』の四隻からなる第五駆逐隊は、主砲を新型のヘビープラズマカノンに換装した改型となる。

 その改装かいそう工事の影響で、アリエス軍港に残っていたが、ちょうどいいのでこっちへ来させる。


「結構。『十字架』対策の火力はそれでいいとして、敵の攻撃を引き受ける壁ないし囮が必要だ」


 なにせ、敵艦のプラズマカノンは一門だけだが、土佐とさ級戦艦のシールドと装甲を貫通する破壊力がある。あんなもの、巡洋艦や駆逐艦では一発轟沈である。


「こちらも結界水晶防御を搭載したふねがいい」

「キング・エマンでも引っ張り出すかい?」


 ベルさんが、からかうように言った。ヴェリラルド王国本国に残してある王国艦隊旗艦には、結界水晶が装備されている。


「義父殿の旗艦だぞ。おいそれと借りれるかい」


 俺は皮肉っぽく返した。


「結界水晶防御の艦なら、他にもあるさ」


 アンバルⅡ級巡洋艦『ネフリティス』と同級は、古代文明時代に残ったディーツーが結界水晶防御付きの艦艇として建造した。


「『ネフリティス』と、あとは……戦艦級も欲しいな」


「いま、結界水晶防御を積んだ戦艦なんて、キング・エマン以外にあったか?」

「建造中の超戦艦には載せている。が、いま使える艦で、となると改生駒いこま級に一隻ある。こいつを使おう」


 魔法文明のインスィー級戦艦を修理、改装したのが、生駒級巡洋戦艦である。

 30.5センチプラズマカノンを主砲に搭載しており、戦艦としては小兵だが、インスィー級戦艦やクルーザー相手には充分な火力を持っている。

 俺は、この改装巡洋戦艦の一隻に、試験的に結界水晶防御を取り付けた。


 艦名は『つるぎ』。

 旧海軍の巡洋戦艦命名に乗っ取り、山の名前をつけてある。なお、旧海軍に同名の艦艇は存在しない。


「よし、あとは第一遊撃隊と合流させて、十字架撃破といこう」


 俺は、観測ポッドや偵察機からの報告を受けて、敵十字架の所在を確かめる。


「……ふむふむ、重巡とフリゲートが護衛についたか。これは面倒だな」

「こっちも数を増やすか?」


 ベルさんが言った。俺は首を横に振る。


「結界水晶防御艦が少ないから、あまり数を増やしても十字架の的を増やすだけだ。……どうだい、ベルさん、ブラックナイトで敵クルーザーを沈めるってのは」

「なるほど。そりゃ悪くない。オレもちょうど試したい新装備があるからな」


 ニヤリとするベルさん。おいおい、そりゃ初耳だ。


「何を作らせたんだい?」

「へへ、そいつはお楽しみってやつだ」


 もったいぶるなぁ、ベルさん。

 かくて、十字架撃破を目的とした特別攻撃隊は出撃した。



  ・  ・  ・



 大帝国特型バトルクルーザー『ラガード』は、シェード遊撃隊の護衛隊と合流し、次の作戦のために待機していた。

 エルフの里攻撃軍の今後の行動についての会議のために、遊撃隊司令のシェード将軍が第二艦隊旗艦に出頭している間、留守を任されていたのは、ラガード艦長のクローウン大佐だった。


「魔力レーダーに反応あり。敵艦隊、接近中」


 ダークエルフのレーダー手の報告に、クローウン艦長は、飲みかけの紅茶のカップを置いた。


「司令が不在だというのに! レーダー、詳細を報告!」

「戦艦級1、クルーザー3、護衛艦8。方位090。距離五万。二群に分かれ、高速接近中!」

「くそ、向こうはこちらをすでに捕捉済みか!」


 クローウン艦長はキャプテンシートにつく。


「全艦、戦闘配置!」

『戦闘配置、発令』


 艦内に警報が鳴り響く。準待機状態だった乗員は、素早く戦闘に備えてそれぞれの配置につく。

 現在、シェード遊撃隊としてここにいるのは、『ラガード』のほか、コサンタ級ヘビークルーザーが2隻と、ミラール級フリゲートが5隻だ。


「数の上では劣勢だが、この『ラガード』の防御シールドと火力があれば、負けはせん!」


 つい先日に、敵戦艦2隻を血祭りに上げた『ラガード』である。戦い方は、シェード将軍指揮のもとで確認した。負ける気がしない。

 戦術モニターが、敵艦隊の数と隊列を表示する。


 戦艦級を先頭に、クルーザー2、護衛艦4が単縦陣で続いているのを第一グループ。クルーザー1と護衛艦4のこれまた単縦陣で突っ込んでくるのを第二グループと仮称する。


「まずは最大の脅威きょういである戦艦を排除はいじょする! プラズマカノン、チャージ開始!」


 戦艦をも一撃で撃破する最大火力を初手で放って、敵戦艦をアウトレンジする。


『ラガード』の艦首に装備されている38センチプラズマカノンが、接近する敵第一グループを捉える。


 ――インスィー級戦艦……その改造型か。


 クローウン艦長は、向かってくる敵戦艦の拡大映像を見やり、心の中で呟いた。


「敵戦艦、増速ぞうそく! 距離を詰めてきます!」

「素早く射程内にこちらを入れようという魂胆こんたんだな! だがそうはいかん! プラズマカノン、発射ぁーっ!!」


 38センチプラズマカノンが、その破壊光線を放った。魔法文明艦艇は、足の速さが特徴であり、インスィー級戦艦もまた高速艦だ。だが、プラズマ弾の一撃は、それよりももっと速い!

 直撃、撃破――『ラガード』乗員の全てが確信した必勝の一撃はしかし、敵戦艦の展開している防御シールドで弾かれた。


「……外れた?」 


 当たったように見えたが、なにぶん肉眼では小さすぎてわからない。艦長の期待はしかし、報告によって否定された。


「いえ、直撃です! しかし、シールドで防がれました!」

「ありえん! 戦艦のシールドも貫通できる威力なのだぞ!」


 まして、インスィー級戦艦の防御障壁は、最大出力だったとしても貫通できる、というのが、『ラガード』のプラズマカノンの威力だった。

 だが信じられない出来事は続いた。


「敵戦艦、本艦に急速接近中!」


『ラガード』の砲撃を弾いた敵戦艦は、砲戦を仕掛けるでもなく、一直線に向かってきた。まるで、それ自体がひとつの砲弾のように。

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