第1099話、特型バトルクルーザー


 炎上する大帝国空母。リムネ・フラウラ組のポータル展開からわずか一分で、四隻の空母が被弾。次の一分でそのうちの三隻が撃沈され、残る七隻の空母も被弾、または轟沈した。


 この時、大帝国第四艦隊、第二群空母戦隊は、敵機の襲来に備えて、9機の戦闘機を空中にて待機させていた。


 また魔力レーダーによる索敵で、敵を探知後、三分以内に発艦できる迎撃機も用意していた。

 決して油断していたわけではないが、結果としてはこれも油断となった。


 戦場はエルフの里。仮に敵が仕掛けてきたとしても、早くても明日以降だと考えていたのだ。

 しかし現実は、その想定よりも早い段階での空襲だった。それも突然、艦隊の間近に現れるなど、帝国将兵の誰もが予想だにしていなかった。


 ウィリディス第三艦隊航空隊の出現から、わずか三分で空母10隻がちりと消えた。

 リムネ・フラウラ組のレイヴン偵察戦闘機から、『敵空母群、壊滅かいめつ』の報告を受けた頃、俺とベルさんが担当した第二艦隊突撃部隊は、敵第四艦隊を、こちらもまた全滅させていた。


「突撃部隊は、所定のルートを通ってエルフの里へと迎え」


 俺は通信機で命令を発した。

 行きは大ポータル、帰りは自力でのお帰りである。突撃部隊を出した後、俺は大ポータルを消している。戦闘のドサクサで、敵艦の1隻でもポータルを潜るようなことになったら面倒だからだ。


『やったな、ジン』


 前席で偵察機を操縦しているベルさんが言った。


『リムネ嬢ちゃんのところも、敵空母を叩いた。これでエルフの里に向かっている敵艦隊の半分は喰えたんじゃないか?』

「輸送船団とその護衛がいるから、正確には半分に届いていない」


 索敵装置をにらみつつ、俺が言うとベルさんは鼻で笑う。


『細けえな。漸減ぜんげん作戦としちゃ、成功だろうよ。……で、次はどうする? 母艦に帰投するかい?』

「残っている敵第二艦隊の様子を、ちょっと見にいかないか?」

『いいけど、見に行ってどうする気だ?』

「忘れたのかい、ベルさん。俺たちが今乗っているのは偵察機なんだぜ」


 それも完成間もない新型で、しかもまだ実戦での機体データが充分ではない機体だ。


『テストもついでにやっちまおうってか? 熱心なことで』

「反対かい?」

『まさか』


 ベルさんは笑った。


誘導ゆうどうしてくれ。そちらへ飛ばす』



  ・  ・  ・



 第二艦隊突撃部隊は、戦線を離脱りだつしていた。

 生駒イコマ級巡洋戦艦2隻を先頭にして、妙高ミョウコウ級重巡洋艦4隻が続き、最後尾を土佐トサ級突撃戦艦が航行していた。


 場所は山岳地帯であり、無数の山の間を抜けるように一列で飛行している。

 その時だった。


 一隻の空中艦艇と思われる未確認飛行体を発見。突撃部隊を追跡しつつあった。

 旗艦『土佐』のシップコアは、索敵の結果、戦艦級の物体と確認した。


 突撃部隊に随伴ずいはんできる速度の空中艦艇である。大帝国の新型艦の可能性が高い。


 それに追跡されるのもよろしくない。『土佐』のシップコアは、最後尾である『陸奥ムツ』と『長門ナガト』に迎撃を命じた。2隻はただちに反転し、未確認艦艇への攻撃態勢に入った。


 だが、先制したのは、未確認艦艇のほうだった。

 艦首に備えた一門の砲が野太い光線を発射。その一撃は『陸奥』に直撃し、その防御シールドを貫いた。艦の右舷側をえぐり、対40.6センチプラズマ弾にも耐える装甲をも溶かした攻撃で、『陸奥』は大破。その戦闘力を奪った。


『「ムツ」は退避せよ。敵艦の相手はこの「ナガト」が務める!』


 僚艦である『長門』のシップコアは、全砲門を未確認艦艇に向けて突撃を敢行した。

 40.6センチプラズマカノン32門の集中砲火。どんな強固な戦艦とて打ち砕くその圧倒的火力が未確認艦艇に殺到した。


 しかし、未確認艦艇は無傷だった。

 強力な防御障壁は、40.6センチプラズマ弾の嵐を、すべて、完璧に阻止したのだ。

 砲火が途絶えた瞬間、未確認艦はプラズマカノンを発砲。『長門』の一番、二番砲塔を吹き飛ばし、艦首部を激しく損傷させた。


 爆発は艦内を巡り、後部の機関にもダメージを与えた。結果、『長門』の行き足が止まってしまう。艦首の砲塔がすべて使用不能になり、惰性で進む『長門』に、未確認艦は、船体各所の砲塔から魔法弾を雨あられと撃ち込んだ。


 先ほどのプラズマカノンには遠く及ばない砲撃だが、多数の魔法弾が殺到し、大破した『長門』の艦体を叩き、新たな爆発を引き起こした。

 反撃もままならず、一方的に攻撃され、撃沈も時間の問題だった。


 だがそこに艦体から煙を吐きながら『陸奥』が、『長門』の陰から現れた。

 退避指示を無視したか。姉妹艦の危機に舞い戻った『陸奥』は残存する砲塔を、未確認艦に射撃しながら突撃を敢行した。


 未確認艦は攻撃を中止し、防御障壁で『陸奥』の砲撃を防ぐ。だが『陸奥』は止まらなかった。


 陸奥のシップコアは、すでに計算していた。どのみち『陸奥』のダメージは大きく、離脱もままならない状況だと。それならば――と死なば諸共の体当たりを仕掛けたのだ。


『陸奥』の艦首が、未確認艦の防御障壁に衝突する。このまま障壁を貫通し、敵艦に突っ込み相打ちにもちこめば――


 大爆発が起きた。衝突した『陸奥』は爆炎に包まれ、四散した。

 煙が晴れた時、そこには青い防御障壁に守られた未確認艦の健在なる姿があった――



  ・  ・  ・



 大帝国の特型バトルクルーザー『ラガード』の艦橋に、マクティーラ・シェード将軍はいた。

 シェード遊撃隊と付けられた特殊部隊に与えられた試作巡洋戦艦は、敵戦艦――『長門』と『陸奥』――を撃沈した。大破し、突撃してきた戦艦が自滅した後、残る1隻も撃破したのだ。


 これまで散々にやられてきた大帝国の宿敵、その敵を倒したのである。オノール参謀長以下、幕僚ばくりょうたちは声を弾ませた。


「将軍! やりました! 敵戦艦を撃破しました!」

「……そうだな」


 しかし、当のシェードは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。オノール参謀長は首をかしげる。


「将軍、如何いかがされましたか?」

「……今回も敗北だな」


 敗北? 思いがけない言葉に幕僚たちは驚き、顔を見合わせる。


「わからないかね? こちらは第四艦隊を失った。攻撃軍の半分を喪失したのだ。対してこちらの戦果は戦艦をたった2隻撃沈しただけだ」


 どこをどう見ても、数字は残酷だった。


「25隻の戦艦と10隻の空母の対価がわずか2隻のみとは、シャレにもならない」

「そ、それは……」


 幕僚たちは声を落とす。シェードの表情は晴れない。


「私ではジン・アミウールには勝てん」


 どういう手口か知らないが、第四艦隊を一方的に撃破しながら、損害なしで切り抜けた戦術。

 彼こそ、神出鬼没の魔術師だ――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る