第1097話、フレスベルグは飛ぶ
大帝国のエルフの里侵攻作戦が発動された。
本国より、三百隻もの大艦隊が出撃。エルフの里にある浮遊島遺跡へ進撃を開始した。
一週間の
エルフの防衛軍も、こちらと共同戦線を張るが……正直、航空艦はあまり期待できない。以前、頼まれてエルフたちに艦艇を建造して送ったが、駆逐艦クラスが六、小型の攻撃艇が十二、軽空母が1と、大帝国の艦隊の規模に遠く及ばない。
……もう少しマシな兵力を用意してあげるべきだったな。
さて、大帝国艦隊が、エルフの里に到達するまで、現在のペースだと二日後だ。本格的な衝突の前に、こちらも攻撃を仕掛ける。
ステルス空母『タブシャ』に俺はいた。護衛には機動巡洋艦『ユニコーン』以下、第一遊撃隊がついている。
「――というわけで、今回はレイヴン偵察戦闘機の初実戦となる」
パイロットスーツ姿の俺のほか、人型のベルさん、そしてリムネとフラウラがいた。
「進軍中の敵艦隊の近くに、こっそり忍び寄って、こちらの特別攻撃隊を送り込む。それだけのお仕事だ」
三人は何も言わなかった。任務説明、確認事項のブリーフィングはすでに終わっている。
「トラブルがあった場合は、作戦を中止して帰投。無理をするような段階ではないから力み過ぎないように」
ベルさんは『もう聞いたよ』という素振りをみせ、リムネはにこにことした表情を崩さなかった。フラウラは少々緊張しているようだった。
「はい、それじゃ、お仕事をやりましょう」
パンパンと手を叩いて解散。リムネとフラウラが離れ、俺とベルさんは、
「ベルさんが志願するのは意外だった」
「お前さんがやろうとしていることを、間近で見たかったからな」
ベルさんは、レイヴン偵察戦闘機の前席への
「前にリムネの嬢ちゃんが、こいつを偵察機だけにしておくのはもったいないって言っていた。それでちょっと乗ってみたかったってのもある」
「おいおい、頼むよ。何事もなければ、俺たちは一発も撃たずに帰ってくるつもりなんだからさ」
俺は後座の梯子を駆け登ると、シートに座った。
レイヴン偵察戦闘機は、複座型、つまり二人乗りだ。前の席が操縦と攻撃担当。後ろが偵察、観測機材の操作と、ポータル運用ほか魔法制御を担当する。
どすっ、と前の席にベルさんが座った。俺がヘルメットを被ると、すでにアイドリング状態だった機体の最終チェックが行われる。
シェイプシフター整備員の補助を受け、機体各部の可動を確認。計器、装置にも異常なし。機体制御コアであるナビとのクロスチェック終了。
俺はヘルメット内蔵のマイクに呼びかけた。
「二番機、準備は?」
『こちら二番機、いつでもどうぞ』
魔力通信機からリムネの声が返ってきた。俺は、キャノビーの左手方向にある僚機を一度見やり、それから正面に向き直った。
「了解、待機せよ。……タブシャ航空管制、こちらフレスベルグ1。準備完了、発艦許可を求む」
『フレスベルグ1、こちらタブシャ管制。発艦を許可する』
「了解。……ベルさん」
『おう』
レイヴン偵察戦闘機が動き出す。ベルさんとて、ウィリディスでの戦闘機操縦は長い。完成して日が浅い機体とて、操縦だけなら基本フォーマットは同じなので問題はない。
もっとも、機体ごとの特性やクセはあるから、本当なら日々それらに慣れるための訓練が必要ではあるのだが。
カタパルト接続。その後、レイヴン偵察戦闘機は空へと射出された。
俺の乗る一番機に続き、フラウラが操縦、リムネが電子管制官を務める二番機が空母から飛び立った。
俺は僚機の
「ベルさん、ハイ・ブーストを使用。一気に距離を詰めよう」
『了解。ハイ・ブーストモード。ブーストカートリッジ、接続っと……!』
レイヴン偵察戦闘機のエンジンが高速航行形態になる。
爆発的なスピードを獲得する一方で、搭載魔力タンクの魔力消費も凄まじい。そのため、高速航行形態用に専用の魔力タンクを積んでいる。この専用タンクを使用することで、機体本体の魔力はそのままだ。
なお、専用タンクは魔力転送によって装填されるようになっているので、実質、転送エリアに準備してある分だけ使用可能。機外にいくつも予備タンクをぶら下げる必要はなかった。
二機のレイヴン偵察戦闘機は、最大加速で一挙に大帝国艦隊の進撃ルート上へ直進した。
・ ・ ・
俺とベルさんの乗るレイヴン偵察戦闘機は、ただいま、大帝国艦隊を視認できる距離を飛行していた。
『敵さんは、こっちが見えてないようだな』
「ああ、ステルス・フィールドは問題なく作動している」
俺は、透明化装置のスイッチが入っているのを再度、確認した。
敵艦隊の索敵圏外で、ハイ・ブーストを解除。元よりステルス素材で作られたレイヴン偵察戦闘機だが、これに加えて、姿を消す装置を積んでいる。
「透明化魔法と同じだ。ここにいるが、姿は見えない」
『
「ベルさんと同じだな」
普段から、人様の行いをこっそり覗くのが趣味という、お上品な魔王様だからね。……もちろん皮肉だよ。
『なら、オレ様の覗きテクニックでもご
「隠すのか見せびらかすのか、どっちかにしてくれ」
俺は、大帝国の艦隊、その艦列を見やる。
総勢三百隻ほど。しかし艦隊ごとに距離をとって航行しているから、俺たちの見えている範囲の大帝国艦隊は、百隻あまりだ。
おそらく、大帝国第四艦隊だろう。
「これを見ていると、アポリト艦隊を思い出すな……」
現在の大帝国が、アポリト魔法文明の艦艇を主力にしているせいで、余計にそう思う。魔法文明時代に見た艦隊の勇姿を思い出して、ちょっぴりほろ苦い。
『感傷か? 敵は敵だぜ』
「そうだな……。ベルさん、第四艦隊の背後に回り込んでくれ。大ポータルを展開する」
『了解!』
それが今回、俺がわざわざレイヴン偵察戦闘機に乗り込んで前線に出張っている理由である。
大型艦艇移動サイズのポータル発生器を、偵察機に積めなかったから、俺が直接、戦場にポータルを作ってやろうってわけ。
なお、リムネ&フラウラ組の二番機は、航空機用ポータル装置を積んで、こちらは襲撃ポイントへ移動中だ。
レイヴン偵察戦闘機は透明化のまま、大帝国艦隊をやり過ごして、その後方へと移動する。
「さて……やるか」
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