第1096話、偵察戦闘機レイヴン


 ウィリディス白亜屋敷にて、俺はエマン王に、大帝国の次の攻撃目標を知らせた。


「連中の狙いは、エルフの里の地下にある古代文明の施設。ここを押さえられれば、大帝国はその戦力をさらに増強することになります。それは阻止しなくてはなりません」

「うむ。対大帝国同盟戦線が、構築されている最中だ。敵に強化を許すわけにはいかない」


 エマン王も同意した。

 エルフの里防衛に、国王の裁可を得た。

 続いて、ウィリディス――ヴェリラルド王国からどの程度の援軍を派遣するかだが。


「主力は第二、第三艦隊と、現地近くの青の艦隊が当たります。ほか各方面からも部隊を抽出しますが、敵に戦艦が多数含まれています。こちらの戦艦の数が不足しており、第一艦隊から第三戦隊、第四戦隊のどちらかを引き抜きたく思うのですが……」

「敵の戦艦の数は?」

「現在判明しているのは50隻です」

「第一艦隊から戦艦を引き抜いても、足りぬのではないか?」

「はい。そこは戦術でカバーいたします」


 俺が答えると、エマン王は鷹揚おうように頷いた。


「よかろう。王国の守りは必要だが、有事の際は、すぐに戻せるのであろう?」

「はい」


 ポータルによる移動。これは大帝国にはない、こちらの有利な点だ。ポータルがあればこそ、敵より先んじて移動したり、布陣できたりする。


「エルフと我が国は同盟関係にある。大帝国を大人しくさせるためにも、徹底的にやれ」

「心得ました」


 エマン王への報告を終え、俺はただちにアリエス浮遊島軍港へと移動した。島にある航空基地を目指す中、途中に建造ドックのほうにも立ち寄っておく。



  ・  ・  ・



 ここで建造されているのは、艦艇型ゴーレム――ゴーレム・エスコートの最新型であるⅤ型である。

 全長82メートルと、初期のゴーレム・エスコートより大型化した船体を持つ。量産性を維持いじしつつ、多目的な任務に対応できる無人艦艇を増産している。


 このⅤ型エスコートは、通常の護衛任務に投じる型と、空飛ぶ潜水艦である通商破壊フリゲートの後継として用いるステルス型が並列して作られている。


 超戦艦計画で、ステルス艦隊構想が進められている中、これら量産型ステルス艦による偵察や哨戒しょうかい、敵輸送ルートの破壊など、より積極的に進めていく予定である。

 飛躍的に艦艇の保有数が増えたウィリディス軍。建造や運用に魔力コストも上がったが、魔法文明時代のディーツーの遺産である秘密拠点群が、9800年近くでためこんだ膨大な魔力プールのおかげで、それらも補いがついている。


 ただ、減らせるところは減らす。装備の共通化もそうだ。作る部品を絞ることで、消費コストを減らす努力をしている。

 たとえば、これから作るゴーレム・エスコートは、通商破壊フリゲートと船体や基本装備を共有化する。巡洋艦の主砲も、すべて20.3センチヘビープラズマカノンに統一する――などだ。


 さて、ドックの視察を終わらせ、俺は島の地表部にある第三航空基地へと足を運んだ。

 そこには、新型ステルス偵察機の試験が繰り返されていた。


 俺のいた世界のジェット戦闘機に似たシルエットを持つTF-4ゴースト――それをベースにして作られた新型機だ。

 姿としては米海軍のF/A-18ホーネットに近い。主翼が中ほどで下方に折れているところや、エンジンが左右離して配置されているところを除けば。

 先に来ていたベルさんが、俺に気づいた。


「おう」

「どうだい、新型は?」

「よさそうに見えるがな……」


 そう言って見上げた視線の先には、試験飛行中のステルス偵察機。敵がいるわけでもないのに、派手に旋回したり、回避機動を繰り返している。


「……見えない敵と戦っているのか」

「あれ、アーリィー嬢ちゃんだよ」

「ワァオ」


 さっそく、新型機を乗り回しているお姫様。ウィリディス製品は一度は使わないと落ち着かない病にかかっているのかもしれない。


「……奥様は、大変よい腕をしています」


 ふっと柔らかな声をかけられ、俺はそちらに顔を向けた。


「やあ、リムネ」


 パイロットスーツ姿のオリエンタル美少女――リムネ・ベティオンがヘルメットを小脇に抱えてやってきた。元水の魔神機操縦者は、本人の志願もあってウィリディス軍にいる。


「久しぶりです、ジン様」

「うん。体調はどうだい?」

「問題ありません。新しい体にも慣れましたわ」


 リムネは微笑んだ。新しい体とか言っているが、魔力を生成していた人工臓器を摘出して、普通の人間の体になっただけで、特別なことはしていない。


「お父さん!」


 リムネのほかに、もう一人――赤毛の少女パイロットが、俺に挨拶あいさつした。


「やあ、フラウラ。元気か?」

「元気だよ」


 俺が来たせいか、楽しそうな顔をするフラウラ。今年13歳。見た目も年齢そのものなので、嫌でも子供なのがわかるし目立つ。

 レウたちと同じ魔法人形であり、魔力適性が高く、魔人機や魔法兵器と相性がよい。俺としては子供に戦わせるのは、あまりよく思っていないが、本人たちが強く望んでいる結果、こうなっている。


 実際、魔法文明時代で二年ほど戦場にいて、ヘタな素人よりよっぽど軍隊というのがわかっている。


「『レイヴン』の様子を見にきたの、お父さん?」


 ――ポータル運用型ステルス特殊偵察機、TRF-01レイヴン。それがこの新型ステルス偵察機の名前だ。


「そう。こいつを早速、使う予定ができたんでね。実際どうなのか確かめにきた」

「いい機体だよ!」


 フラウラは快活かいかつだった。まるで授業参観に親がきてテンションがあがっている子供のようだ。

 リムネが、フフっと笑った。


「偵察戦闘機……本来は、偵察や観測任務がメインなのでしょうが、いざという時は戦うことも逃げることも可能という贅沢ぜいたくな航空機ですわね」

「こいつの主な役目は、索敵と、ポータル誘導だぞ。戦闘は二の次だ」


 俺が指摘すると、リムネは小首をかしげつつ笑みを絶やさない。


「ですが、防御性能も武装も一線級です。偵察だけではもったいないですわ」

「一機作るのに、すさまじく資材を使ってるんだ。壊されたらたまらんよ」


 俺が言えば、ベルさんが苦笑した。


「こいつ、壊れるか? 少なくとも敵から攻撃されても、そうそう落ちないだろ」

「内部のメカが故障することはあるかもしれない」


 中の機材はデリケートなものもある。いくらブァイナ鋼と、結界水晶防御を採用して対弾性が上がっているとはいえ、肝心のポータル運用や観測機材が使えないではお話にならない。

 超戦艦の艦載機としての運用が初ではないが、レイヴン・ステルス偵察機の出番は近い。

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