第1095話、戦艦50隻!
大帝国、エルフの里への侵攻計画を発動。
シェイプシフター諜報部のスフェラからの報せに、俺はその時がきたかと思った。
「皇帝があのクルフだからな。エルフの里が、アポリト浮遊島の一部だってことは知っている」
その地下の設備、工廠などの存在も。
こちらが一足先に解放したが、一大生産拠点にもなるだろう場所を、クルフがそのまま放置するはずがない。
スフェラが資料を見せた。
『大帝国は三百隻近い艦艇を動員する予定です。陸戦用の部隊も用意しており、エルフとの本格衝突と、その後の制圧は確定かと』
「三百隻……」
アーリィーが口を開いた。
「大艦隊だね。本国には四百隻くらいだっけ?」
『現在のところ四百五十隻あまりですね。例のアポリト本島施設を使っていると思われ、なおこの数は増加すると思われます」
「その、本島の場所は?」
俺が問うと、スフェラは頭を下げた。
『依然として所在は掴めておりません』
「そろそろ、生産拠点も叩いておきたいな」
不明の本島のほか、大帝国は、本国にほど近い場所にある浮遊島遺跡のひとつを兵器拠点として活用している。この場所のわかっている拠点を、近いうちに潰したい。
「まあ、それはそれとして、このエルフの里を攻略する連中が先だが」
「引きこもりが攻勢に転じた」
ベルさんが口を尖らせた。
「やっぱ、先日の
奴とは、クルフ・ディグラードルだ。大胆にも観艦式を直接見に来た。
「影響はあるだろうね。ヴェリラルド王国がどの程度の戦力なのかを、確かめたから、というのもあるだろう」
とはいえ、王国貴族のほか、王都の民もあの観艦式は目撃している。つまり、クルフが来ていようがいまいが、どちらにしろ諸外国にもその情報は知れ渡ることを意味する。
だから俺は、全戦力を式典に参加させるようなことはしなかった。
シャドウ・フリート、ファントム・アンガー、青の艦隊なども出していないから、あの観艦式でこちらの手の内を全部見たつもりなら、甘いとしか言いようがないがね。
『こちら、大帝国が投入する艦艇のリストになります』
スフェラが新たな資料を提示した。
うむ、何々……戦艦50、重巡50、空母20、フリゲート140、その他輸送船など――
「戦艦50かぁ。これ、観艦式で見せたうちの戦艦が出てきた時の対策かな」
性能では、こちらの主力であるドレッドノート級戦艦が、魔法文明時代の流用である敵戦艦よりも格上だ。その個々の性能差を、数で補おうという魂胆が見え隠れしている。
「『キング・エマン』は王国から動かせないし、第一艦隊も全部は無理。そうなると――」
第二艦隊、第三艦隊、あとはエルフの里近辺に展開する青の艦隊がメインとなるだろう。青の艦隊に戦艦はなく、巡洋戦艦を三隻を配備したが、それでも大帝国が投入する50の戦艦群を相手にするには不足している。
「あとは、ファントム・アンガー、シャドウ・フリートからも、ある程度引き抜けるだろうが……」
「でも、ジン。浮遊島遺跡から回収して作り直した艦艇が、戦線に加わっているよね?」
アーリィーが言った。
確かに、それら再生された艦艇が、連合国などへの輸出したもの以外に、ウィリディスの各艦隊に配備が進んでいる。
魔法文明戦艦は、イコマ級巡洋戦艦に。
同重巡洋艦は、ミョウコウ級重巡、モガミ級高速巡洋艦。
同空母は、インディペンデンス級空母に改装されている。
あと、ディーツーの土産であるアンバル改あらためアンバルⅡ級軽巡洋艦や、アンバル改軽空母もだ。
「イコマ級は、大帝国の主力戦艦のインスィー級がベースだからな。火力は増しているとはいえ、ドレッドノート級に比べたら格が落ちる」
これらを集めて、第二艦隊の戦艦と合わせても、数の上では50隻の半分くらいだろう。……他国への輸出艦がなければ、せめて数の上では互角にできただろうけどね。
「それでも巡洋艦は数ではほぼ近いところまで揃えられるし、空母に関しては、むしろこっちのほうが多い」
「やりようによっては、どうにかなるってか?」
ベルさんの声に、俺は微笑で返した。
「もちろん。俺は負ける心配はしていないよ」
エルフの軍も防衛戦には参加するだろう。どこまで使えるかはわからないが、多少は戦力差を埋める一助になるだろう。
「とはいえ、やはり50の戦艦が厄介だな」
まともにやれば、こちらの損害もそれなりに出るだろう。大帝国が本土に艦隊をまだ残している以上、あまり損害は出したくないんだよな。
……超戦艦が、間に合えばなぁ。
テラ・フィデリティア式魔力建造のおかげで、形はできている。あとはこれを実際に使いこなすための乗員の訓練や、制御コアの稼働試験などがあるが……まあ、このあたりはコア次第で繰り上げが可能だ。
ポータル偵察機も初期型が完成し、いまパイロットを含めて試験と訓練が繰り返されている。
大帝国の侵攻スケジュールにもよるが……、今回はちょっと間に合わない可能性もあるな。
それでも、普通は半年、一年単位かかるものが、もう実戦投入一歩手前なんて、充分チート過ぎるスピードなんだがね。
「しかし、やはり時間稼ぎはしておきたいね」
俺は、世界地図を見やる。
「大帝国は、艦隊をエルフの里に向けて進撃させてくる。俺たちはそれを迎え撃つわけだが……」
「防衛戦だから、そうなるね」
アーリィーは頷いた。
「エルフの里の近くに艦隊と地上戦力を展開して、迎撃ラインを形成する」
彼女が地図の上をなぞる。俺は、その手前を指さした。
「攻めてくるのを待つこともない。のんびり進んでくるところを襲撃し、その戦力を減らす!」
俺のいた世界での第二次世界大戦。日本海軍が戦前に策定した、米海軍との艦隊決戦戦術。数で勝る米太平洋艦隊を、決戦前に奇襲、夜戦でその数を削ぎ、艦隊決戦を互角以上に戦う――すなわち
「戦場はこちらが決める。敵さんに、攻撃の場所を選ばせてやる必要はない」
「それもそうだな」
ベルさんがニヤリとした。
連合国で大帝国と戦っていた頃、俺は神出鬼没の魔術師なんて言われていた。数で不利なんて戦場をひっくり返すのは、俺の十八番だ。
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