第1081話、準備と調査報告


 観艦式かんかんしきとは、軍艦を並べて、偉い人や一部の人たちにその偉容を見せつける式典である。

 要するに軍事パレード、その海軍バージョンだ。


 もっとも、俺たちが王都でやろうとしているのは、海の船ではなく、空を行く航空艦ではあるのだが。

 いまだ剣と魔法の時代に生きている貴族たちに、航空艦艇や航空機その他を披露ひろうして、大帝国戦に向けてのアピールを行う。

 これが今回の王都でのズィーゲン会戦祝勝会と共に開かれる観艦式の目的だ。


「参加するのは第一艦隊、第二艦隊、第三艦隊の主な戦力だな」


 アリエス浮遊島軍港に戻った俺は、旗艦コアであるディアマンテにそう告げた。銀髪美貌びぼうの女軍人姿のコアは口を開いた。


「かなり大掛かりですね」

「貴族たちに、自分たちのいる国は強いんだ、とわかってもらうためだからね」


 参加する艦艇のリストを作成する俺。


 ウィリディス軍から、ヴェリラルド王国軍の所属としてスライドさせた戦力がある。これらに増産した艦艇を加えたのが第一艦隊。先日、完成した旗艦級超弩級ちょうどきゅう戦艦を含めて九隻の戦艦に、量産型空母などで編成されている。

 第二、第三艦隊はウィリディス軍――つまり俺の指揮下にあるが、実質、王国軍として行動している。


「遊撃隊や、その他の部隊は参加させないのですね?」

「さすがに全艦艇を王都に集結させるわけにもいかない」


 式典やっている最中に敵がやってきて、防げませんでした、というのは笑い話にもならない。

 ユニコーン級機動巡洋艦を旗艦とする独立遊撃隊のほか、ファントム・アンガー、青の艦隊、シャドウ・フリートなどに向けて準備を進めている艦も、配備前の練成も兼ねて、こちらに留めておく。


「とはいえ、半端な数では貴族たちの不安も払拭されないだろう」


 そのために、主力である第一、第二、第三艦隊を投入しての観艦式だ。


「戦艦一隻だけでも、初めて見る者には充分過ぎる効果はあるでしょう」


 ディアマンテは言ったが、俺は付け加える。


「そこに戦艦を十数隻、空母、巡洋艦が王都の空を覆えば、嫌でもわかるんじゃないかな。大帝国と戦えるって」

「少々、脅し過ぎではありませんか? 恫喝どうかつと受け取る者もいるやもしれません」


 そうさなぁ。……そういや、宇宙人の巨大円盤が町の上空に現れたら、パニックになるって映画を昔見たことがあるが、頼もしさより恐怖が勝るという可能性もあるのか。


「エマン王は、やる気なんだけどね」

「そこで提案なのですが」


 ディアマンテが、コンソールを操作して、ホログラフィックを表示させた。


「第一艦隊だけでも充分お披露目として効果があるでしょう。ここでひとつ、危機感をあおるのはどうでしょうか?」

おどし過ぎがどうこうと言っていなかったか?」


 俺が皮肉ると、ディアマンテは続けた。


「第二艦隊を、シーパング国艦隊として、観艦式に参加させるのです。自分たちの国だけではなく、他の国でも同じような兵器が存在しているのを目の当たりにすれば、彼らの脅威の感情は、自国に向くことはないでしょう」

「脅威は、自国の団結を生む。同盟国とはいえ他国が同じような戦力を有しているなら、むしろ今以上の結束に繋がる……。名案だ、ディアマンテ」

「恐れ入ります」


 一礼するディアマンテ。テラ・フィデリティア時代、艦隊の旗艦として存在していた彼女だから、観艦式の手順にも詳しいだろう。


「俺は式の名前は知っていても、経験がないから、そのあたり大いに助けてもらうぞ」

「承知いたしました。子細、段取りなど、私のほうでまとめておきます」

「よろしく頼む」


 話は変わりますが――ディアマンテは、映像を切り替えた。


「ディーシーが古代文明時代に残した秘密拠点の調査の件ですが……ご報告は受けていらっしゃいますか?」

「レポートは読んだ」


 俺は、毎朝欠かさず読んでいる報告書を思い出す。


「秘密拠点を七つ解放した。そこにある兵器も含め、戦力化のメンテも始まったとも」


 ただ――悪いニュースもある。


「ベース・イオタが完全に消滅していたと聞いた。詳細な報告が上がったのか?」

「はい。基地のあった場所はクレーターとなっております。おそらく何らかの非常事態に見舞われ、自爆したものと考えられます」

「自爆、か……」


 朝のレポートには隕石がたまたま直撃した可能性と書かれていた。


「何か、自爆の根拠が?」

「ディーシーが想定した基地の自爆装置の効果範囲が完全に一致しました。隕石が直撃した場合だとしても、その効果範囲と合致する可能性は天文学的確率となります」


 つまり、あり得ない可能性ということか。


「すると、何が原因だと思う?」

「それについては、何とも。ただカモフラージュと警備システムを突破してきた点から、偶然ぐうぜん迷い込んだ生物ではないと考えられます」

「ダンジョンコアの監視を抜けるようなやつ……。凄腕の魔術師か、あるいは――」


 あの不死身のディグラートルが、ディーシーの秘密拠点を発見して、調査しようとした、とか。


「よりによってベース・イオタか……」


 俺は頭をかいた。ディーツーから聞いた情報では、あの基地にはディーシーコピーであるディースリーがいて、幽霊空母の一隻『プネヴマ』が駐留していた。


「『タブシャ』のほうは、ベース・デルタで回収できました」


 ディアマンテが慰めるように告げた。


「ステルス空母の解析と、運用は充分可能です」

「不幸中の幸いだな」


 もう一隻の幽霊空母は、ウィリディス軍が手に入れた。超戦艦プランならびに超艦隊計画にも、その技術は大いに活用されるだろう。


「浮遊島の各遺跡から回収した兵器も、連合国ほか味方陣営に配備も進んでいる」


 大帝国の主力が本土で守りを固めている間に、こちらも反撃の準備が整いつつある。クルフの率いる大帝国を打倒すべく、進攻する日もそう遠い日ではないだろう。


「そういえば、まだ報告はないのか? アポリト本島の調査のほうは」


 ディーツーに確認したアポリト浮遊島本島の所在。ゲルリャ遺跡の地図には、世界樹のあった島、八カ所は記されていたが、中心とも言える中央本島の場所は不明だった。

 先日、ディーツーが合流し、中央本島の場所を聞いたので、調査隊を派遣したのだが……。


「どうも難航しているようです。9900年の間に地上の地形も変わっているようで、特定に時間がかかっています」

「本島といったって、数十キロもある代物だぞ?」


 それが見つからないというのも、にわかに信じられない話だ。


「これこそ、隕石でもぶつかって吹っ飛んだとか」

「その可能性も無きにしも非ずですね」


 ディアマンテは微笑した。


「調査隊は引き続き、本島の発見に務めます」


 よろしく。

 俺は次の報告に目を通す。やることはいっぱいあるのだ。

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