第1079話、子供たちの交流
ヴィル少年を引き取るついでに、リオという女の子も連れていくことになった。
聞けば、リオはヴィル少年とは幼馴染みらしい。茶色い髪に、そばかすのある13歳。口数が少なそうなヴィル少年と違い、活発そうな印象を与えた。
リオには家族もいたが、都会に出る機会を窺っていたようで、両親を説得していた。俺にご迷惑では、と言ってきたが、本人の意思とご家族さえよけれな、と判断は丸投げにした。
出稼ぎみたいなもの、という感じで、とリオが両親を説得していたので、これは俺が給料を出さなきゃいけないやつかな、と思った。まあ、働いてくれるなら、俺としては構わないんだがね……。
結局、村の復興のこともあって、リオの旅立ちは許可された。
なお話し合いの間に、ヴィル少年は家に戻ったのだが、見事に襲撃で破壊されており、両親の
物資と最低限の救援の後、俺たちは撤収した。あまり長居して外交問題に発展しても困るからだ。
辺境とはいえ、ケーネンワルト国や、地元領主ともめたくないのでね。……もっとも、大帝国が侵攻を始める気配が濃厚であり、オブリーオ村に関わっている暇はないかもしれないが。
・ ・ ・
機動巡洋艦『ユニコーン』艦内、ブリーフィングルーム。
俺は、回収されたT-A二号機の戦闘記録を確認した。ディーツーのコピーコアが積まれたT-Aは、ド素人のヴィル少年をサポートし、大帝国のドゥエル・ヴァッフェを撃退した。
背中に積んだギガントナックルユニットは使わなかったが、通常のパンチ――結界水晶付きは、魔人機の防御障壁を貫通し撃破に貢献した。
「ミサイルが、もったいないな」
クリエイトミサイルを、機体各所に装備しているT-Aだが、そのミサイルは防御障壁を貫けず、
「対魔人機戦は、意外と向いていないか?」
「クリエイトミサイルの弾頭を変更すればいいだろう」
ディーシーは言った。
「どうせ魔力生成するものだ。
「ただ、小回りの効く射撃武器が欲しいな」
ディーツーが軍帽を被り直した。
「ミサイルを除けば、射撃武器はブーストパンチとマギアブラスターだが、どちらもあまり小回りが利かない」
「マギアブラスターなんて、完全にオーバーキルだろうしな」
ベルさんがニヤリとした。俺も頷く。
「あの破壊力は、取り回しに要注意だな。強力過ぎるのも考えものだ」
味方を巻き込み兼ねない。
「取り回しのいい射撃武装を追加するくらいかな、今のところは」
「パイロットはどうしようか?」
ディーツーが聞いてきた。
「例の少年は保護したが、別に彼をパイロットにするためではないだろう?」
「まあね」
よくあるロボットアニメで、戦闘に巻き込まれた民間人の少年がロボットのパイロットになる、という展開がある。今回のヴィル少年もその例によく似ているが、T-A型は、最初に乗ったパイロットが専属になるという機能はない。……ないよな?
・ ・ ・
『ユニコーン』艦内、食堂。
保護されたヴィルとリオは、ウィリディス式味付けの料理を食べていた。
「うんまい、なにこれ!」
リオが声を弾ませるが、一行に食が進まないヴィルに気づき、肩を落とした。
家族を失い、家を失い、故郷を失った。ヴィルの心は沈む。昨日まであったものが全てなくなった。
「……村を守ろうと思ったんだ」
ポツリと声が出た。巨人に乗って、村を破壊した敵をやっつけた。だが終わってみれば、両親は死に、村人たちからの冷たい視線。
「でもあれは――」
言いかけ、リオは口をつぐむ。ヴィルは頑張ったのは間違いない。だが村人たちと話した後がよくなかった。
家族を失った気持ちはわからないではないが、そこで八つ当たりも同然の言葉を浴びせたのはヴィルだった。同じく傷ついていた村の大人たちの心を逆撫でし、味方を減らしてしまったのは彼自身なのだ。
だが、それを指摘することはリオにはできなかった。ヴィルも傷ついている。家族の死に
「よう、お前があのT-Aを動かしたって?」
ふっと少年の声がする。見れば、トレイにランチを乗せた灰色髪の少年兵がやってきた。ヴィルの正面の席に、有無を言わさず座る。
「あのT-A、凄ぇ武器載せてんな! クルーザーを一撃なんてよ」
不良じみた顔立ちの少年兵は、パンをかじり、スープを一口。フォークを手にとって、パスタにかかる。
「てぃーえー?」
「何だよ、自分が乗った機体の名前も知らねえのかよ」
軽く睨まれ、ヴィルは顔を逸らす。基本的に、大人しい性格のヴィルは、この手の怖そうな人間が苦手なのである。
そんなヴィルを見やり、少年兵――ベール・エツィオーグは頭をかいた。ヴィルの隣に座るリオを見る。
「なあ、オレ、やっちまった?」
何をやったというのか、さっぱりわからないリオは首をかしげる。
せっかく声を掛けたのに、相手が
「あー、また、ベールが新人いじめてるー!」
こういう心外な言葉には、苛立つのである。
「んだと!?」
ピンク髪をポニーテールにした少女――プリムがビシリと、ベールを指さしている。
魔法文明時代の強化兵士であるプリム。大帝国で飛行魔術師として育てられたエツィオーグであるベールと、境遇が似ている少女である。
「お前、人を指さしちゃいけないって兄ちゃんたちに教わらなかったのか?」
「兄ちゃんたちが何だって?」
そこへその兄ちゃんたち――レウ、ロン、リュトの三人がランチを手にやってきた。プリムと同じく魔法人形として育てられ、ジンに引き取られた子供たちだ。
ベールは口を尖らせる。
「おい、お前ら、妹の面倒くらい見とけよ。コイツ、またオレのこと指さしたんだぞ」
「コイツじゃないわよ!」
プリムがお怒りだが、レウがその頭を
ロンとリュトが、ベールを挟んで両側に座った。
「で、ベールのアニキは何をやってるんです?」
「例のT-Aに乗った奴がいるってんで、挨拶をしようと思ってよ」
「そいつは奇遇だ」
赤毛のリュトが相好を崩した。
「おれらも、オヤジ殿から様子を見てこいって言われてましてね」
エツィオーグ、魔法人形の少年少女たちの視線が、ヴィルに集まった。大変居心地が悪くなる少年だった。
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