第1077話、オブリーオ村救助


 小隊長がやられた!

 ドゥエル・ヴァッフェに乗る帝国兵は、巨人からのパンチで隊長機が、いとも簡単に吹き飛ばされるのを目撃した。


「おのれ! 小隊長のかたきぃ……?」


 帝国パイロットは目を疑う。鉄の巨人は、腕をこちらに突き出している。

 それはいったい何の動きだ? 帝国兵が困惑した次の瞬間、巨人の腕が飛んできた。

 魔人機の防御障壁を貫き、飛んできた鉄拳がドゥエル・ヴァッフェに激突、機体に大穴を開けた。帝国兵もまた絶命し、ドゥエル機は爆散した。


『残存するドゥエル機へ』


 残っている魔人機隊に、空中艦隊より通信が入る。


『巨人から距離をとれ。これより艦隊が地上砲撃を開始する!』



  ・  ・  ・



「敵が下がっていく……?」


 鉄の巨人こと、T-Aのコクピットで、ヴィルは呟いた。

 下がっていく敵魔人機。やった! 敵が逃げてく!――そう喜びそうになるヴィルだったが、上から口調の女の声がまたも響いた。


『気をつけろ。空中より敵クルーザーが接近している!』

「クルーザー……?」


 あの空を飛ぶ大きな物体か。ちなみに、ヴィルは村から出たことがなく、『船』や空中船を見たことがなかった。


「どうすればいいの?」

『……照準しょうじゅんはこっちでやるから、レティクルが赤になったら引き金を引け』

「レティクルって?」


 まったく知識がないので、わからないヴィルである。女の声は少し苛立ったようだった。


『我が合図するから、そしたら撃て』

「わ、わかった!」


 さっきからこの声の主は何だろう、とヴィルは思った。初めて乗るから、わからないことだらけなのに。

 だが敵のほうが早かった。クルーザーから無数の光が瞬き、魔法弾がT-Aに殺到した。 22センチ魔法弾の砲火が集中。T-Aのモニターが無数の光に満たされ、吹き飛んだ周囲の土砂と衝撃により機体が揺さぶられる。


「うわぁー! 撃たれてるっ!」

『情けない声を出すな。こちらの結界水晶は完璧だ。効きはしない』

「そうなの……?」

『仮に結界がなくとも、T-Aの装甲ならば戦艦の砲撃を食らってもビクともせん』


 ヴィルは、女の声に少しだけ落ち着く。確かに狙われているが、それだけだった。少しだけ気持ちが静まった。


『ほら、ロックしたぞ。引き金を引け。マギアブラスターだ』

「マ、マギアブラスター!」


 引き金を引く。その瞬間、胸部からまばゆい光がほとばしった。



  ・  ・  ・



「巨人より高エネルギー反応!」

「なに!?」


 親衛隊のエダル大佐は、旗艦のコサンタ級クルーザーの艦橋にいた。魔人機を撃退した敵に対し、艦砲射撃を見舞い、その戦果を確認しようとした矢先だった。

 圧倒的な光が押し寄せクルーザーの防御シールドに直撃。防ぐかと思われたその光はシールドを突き破り、クルーザーを飲み込んだ。


「うっ、うわあああああああ――」


 艦橋にいた者、いやクルーザー乗組員全員が光によってちりと化した。コサンタ級ヘビークルーザーは轟沈した。



  ・  ・  ・



 機動巡洋艦『ユニコーン』が戦場に到着した。

 俺は艦橋にいて、光が大帝国クルーザーを一撃で撃沈するさまを見た。


「T-A二号機が動いている?」


 その攻撃は、大帝国のコサンタ級ヘビークルーザーを粉砕した。


「……ディーツー、あれは?」

「マギアブラスター。魔力を収束し放つ、T-Aの最強武装だ。一撃で戦艦を撃沈する火力を持たせて作ったが……まあ、見ての通りだ」


 T-A型スーパーロボットの製作者であるディーツーは、淡々と告げた。


「アポリト攻略戦で、帝国軍が巨人機を使っていたが……」


 俺は、改造クルーザーや戦艦が、その巨人機の攻撃で大破させられたのを見ている。だが、それと比べても、T-A型のマギアブラスターの威力のほうが上のように思える。


「大帝国と戦っているのはいいが、誰が動かしているんだ?」

「地元の人じゃないかな?」


 艦長席のアーリィーが言った。ベルさんが唸る。


迂闊うかつに近づいたら、こっちも攻撃されるんじゃね?」

「ディーツー、T-Aと交信はできるか?」

「ああ、製作時にウィリディスコードを打ち込んである。搭載しているコピーコアと交信できるぞ」

「よし、なら、こちらが味方であることを知らせた上で、帝国軍の残りを片付けよう」


 艦載機発進! 『ユニコーン』のカタパルトデッキから、可変型魔人機であるドラグーンが発艦はっかんを開始する。

 さらに敵地上部隊の掃討のために、こちらも魔神機リダラ・ドゥブと、グラディエーター・クスィフォス分隊を出す。


 サキリスが操る黒騎士に続き、ダークエルフ志願兵たちのグラディエーターが飛び出す。


「よし、第一遊撃隊、全艦突撃だ! アーリィー、任せるぞ」

「了解。前部、側面主砲、照準! 敵クルーザー!」


 機動巡洋艦『ユニコーン』とアキリース級重巡『エイジャックス』が主砲の三連プラズマカノンを撃ちまくる。

 多数の主砲による連続射撃に、大帝国はたちまち防御シールドを消耗。反撃の火線を放つ頃には、シールドが消滅し、艦体にいくつもの爆発が起こる。


 さらに地上のT-A二号機がマギアブラスターを撃って、無傷の敵クルーザーをまた一隻撃沈した。

 敵地上部隊も、サキリスのリダラ・ドゥブが急接近。サンダーランスですれ違いざまにドゥエル・ヴァッフェの胴体を貫く。

 後続のグラディエーター・クスィフォスも防御障壁突破弾を装填そうてんしたヴァリアブルハンドガンの二丁拳銃撃ちで、流れるように敵魔人機を撃破していった。


 大帝国部隊は壊滅した。

 T-A二号機を敵に奪われるという事態は避けられたのは、まずはひと安心だ。俺は司令官席から立ち上がる。


「遊撃隊各艦、ドラグーン中隊は周辺警戒。『ユニコーン』は村の近くに固定、住民の救助と支援活動を行う。アーリィー、指揮を頼む」

「ジンは?」

「俺は、二号機を回収に行く。……ベルさん」

「あいよ」


 ひょい、と黒猫が俺の肩に乗った。

 さてさて、T-A二号機を動かしたパイロットはどんな奴かな?

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