第1075話、技師たちにアイデアを募ろう


 ウィリディス関係者の中で、割とフラフラしているのがユナ・ヴェンダートという女魔術師である。

 銀髪で表情に乏しいが、主張の激しい巨乳の持ち主で、趣味と興味は魔法全般という、かなり尖った人物だ。


 決戦などにはウィリディス軍に参加し戦うこともあるが、普段は主に研究畑の人間である。魔法文明時代の魔法やその技術を研究しつつ、ノイ・アーベントやリバティ村に出張して、日常に役立つ魔法や魔法具の研究、運用を行っている。


 彼女の姉弟子であるラスィアからの推薦があったので、俺は、ユナのもとを訪ねた。一応確認するけど、スーパーロボットに興味はあるかね?


 事情を説明している間、ユナは例によって淡々とした表情を崩さなかった。ひと通り聞いた後、彼女は答えた。


「スーパーロボットには興味はありませんが、シード・リアクターは調べたいです」


 世界樹の種子に、いたく関心をお持ちのようだった。要約すると、いまの研究に時間を使える環境を変えるのは嫌らしい。

 スーパーロボットに関わると、軍での時間が増えるのを懸念けねんしているのだ。


「魔神機と魔人機に関する研究をしているところなので、魔法を自由に使える人型メカというのは、大変興味深くあります」


 相変わらず、マイペースだった。

 とりあえず、世界樹の種子に興味がおありの様子なので、彼女の好きなようにさせる。魔法や魔法具の研究にかけては、ユナの情熱は凄まじいものがある。何か面白い発見があるかもしれない。

 さて、結局T-Aパイロット候補は白紙に戻ったが、それ以外にもいくつか潰しておこう。


 ベルさんがやってきたので、ついでとばかりに聞いてみる。


「ブラックナイトの改造プランはどうだい?」

「まあまあだな」


 黒猫姿の相棒は答えた。


「魔法文明時代のモンを見て、面白そうな機構は取り入れてみることにした」

「シード・リアクターはいいのかい?」

「オレ様自身、無尽蔵むじんぞうな魔力があるからなぁ」


 関心なさそうにベルさんは首を振った。


「あんまり強すぎても、天使どもに目をつけられちまうからなぁ。抑えるのが面倒なんだ」

「鬼に金棒。ベルさんの機体にシード・リアクターを積んだら、大帝国だって滅ぼせるんじゃないかな?」

「オレ様ひとりでそれをやれちゃうと、天使どもが介入してくる」


 ベルさんが鼻をならす。


「この世界を天使と悪魔の戦場にするつもりはない。お前さんらがとばっちりを食らうのは面白くないからな」


 つい、黒猫姿だと忘れそうになるが、ベルさんは悪魔界の大魔王のひとりである。天使と悪魔の大戦争の経験者であり、その戦いに飽き飽きしてここにいる。


「まあ、オレ様はホドホドにやるさ。今の生活は気に入っているんだ」


 なるほどね。俺とベルさんは工作室へ足を踏み入れる。

 そこにはウィリディス軍の技術班とも言うべき技師らが待っていた。白エルフのガエア、ドワーフのノークである。


「最近また新しい技術が導入されている」


 ディーシーが持ち帰った記録も含め、俺の発案したものなどを現場でより改造し、扱いやすくしている二人である。

 俺は告げた。


「マッドハンターなどのエース向けに、新技術を導入した機体を開発していくわけだが……余裕のある時に、それぞれ新規に人型メカを設計してもらいたい」

「新規の、設計ですか?」


 ガエアが要領を得ない顔になる。ノークは顎髭を撫でた。


「その意図は何です?」

「シード・リアクターなしで、スーパーロボットを作ったら、どうなるか」


 いわゆる、ブァイナ鋼とか結界水晶防御を取り入れたロボットを、エルフとドワーフの感性で作ったらどういうものができるのかに興味がある。


「君たち二人は、かつてマッドの証言だけで戦闘甲冑を作り上げた。ここウィリディスで色々なものに触れているし、それぞれ何かしらアイデアとか持っているんじゃないか?」


 エルフとドワーフの技師は顔を見合わせた。


「その集大成を、何の気兼ねなく作れる場って必要だと思う」


 基本的に、物作りが好きでやっている二人である。それぞれ種族の感覚の違いはあっても、根っこは同じだ。


「まあ、息抜きと思って、自由にやってくれ」


 色々な人のアイデアと、それの出し合いって大事だ。俺ひとりだとかたよるし、それはディーシーにしてもそうだろう。


「わかりました。考えてみます」


 ガエアが頷くと、ノークは煙草に手を伸ばした。


「自由に、ですかい。面白そうですな」

「よろしく頼む」


 俺は二人に託し、ベルさんと工作室から出た。


「期限はつけなかったんだな」

「あの二人、あれでお互いライバル心を持っているからね。それぞれ振ったら、たぶん相手より早く設計を仕上げようとするんじゃないかな?」


 エルフとドワーフは、種族的に優劣を競いがちだ。……そういえば、何故だろう? 魔法文明時代は、エルフたちと接していたせいか、ドワーフとの関係については俺もさっぱりわからない。

 アポリト文明崩壊後からの9900年の間に、何かあったんだろうな、うん。


「主様」


 俺を呼び止める声がした。漆黒しっこくの魔女姿は、シェイプシフターの杖ことスフェラだ。ウィリディス諜報部の総指揮者もある。


「何かあったか?」

「はい、主様。ディーシー様の残した置き土産の回収部隊の件で御報告がございます」


 魔女は恭しく頭を下げた。

 魔法文明時代末期、反乱軍に協力するかたわら、のちの世のために複数の秘密拠点をディーシーは作った。

 俺たちはそれらを回収しようと、部隊を編成し、順次送り出している。


「かつて試験運用したT-A二号機の所在をつかんだ大帝国が親衛隊を派遣しました」

「……ちょっと待て」


 俺は額に手を当て、考えるポーズ。


「T-Aに二号機だって? 初耳だ」

「地元では『守護神』、もしくは『鉄の巨人』という名で知られ、崇められているようです。何でも大竜の襲撃を、その巨人で撃退したことがあるとか」

「それを大帝国が手に入れようとしていると?」

「はい。T-Aとは知らないようですが、大竜を払いのける兵器として回収しようとしているようです」

「それはマズいな」


 T-Aの二号機ということは、シード・リアクター、ブァイナ鋼とか結界水晶などの技術が用いられたスーパーロボットである。これを大帝国に持っていかれるのは大変よろしくない。


「第一遊撃隊に非常呼集。親衛隊に先んじて、二号機を回収しよう。ベルさん、行くぞ」

「おう!」


 忙しくなってきやがった。

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