第1074話、パイロット候補を探せ


 自由という言葉で放り出されるよりも、やれることがある軍に残る。

 魔法文明時代から転移した子供たちが、全員、ウィリディス軍に志願したのはそれなのだろうかと俺は思う。


 レウ、サントン、ロン、リュト、プリム、フラウラ、イリス、そして前からこの時代にいたアレティ。


 あと、転移した元水の女神巫女のリムネもまた軍に志願した。移植された魔力増幅器官を摘出てきしゅつし、生体再生治療により、残り半年だった寿命をかなり延ばすことに成功した。

 このあたりは、さすが機械文明時代の超医療技術。リムネは、魔神機を操る力こそ失ったが、依然として魔力には高い素養があり、魔人機レベルならば問題なく扱うことができるという。


「この救われた命、ジン様のために使わせてください」


 黒髪のオリエンタル美少女は言うのである。俺は本人の意思を尊重そんちょうする派だから、やりたいというならやらせるが……。少々複雑な心境だ。

 リムネあたりは分別がついているとは思うが、他の子供たちは……特に11、12歳のイリスやプリムあたりは、選んでいるのか微妙なところがある。


 選択肢を与えても理解できなければ意味がない。他の兄弟姉妹と離れたくないとか、そういう感情もあるんだろうな、と思う。


 いっそ戦うな、というべきだったか。だが本人たちのやる気――唯一やれることだと当人たちが思っていることをするな、というのは、果たして正しいのか?


 戦中でなければ軍の関係ないところで自由を学べただろう。だが俺が戦争にどっぷり浸かっているのを見て、子供たちが役に立ちたいと思うのは、ある意味自然だ。それを頭ごなしに駄目というのは説得力に欠ける。


「自分で選んだんだ。オレ様は、それでいいと思うがね」


 ベルさんは、そう言った。


「大人だろうと子供だろうと関係ない。自分のことは自分自身にやらせろ」


 黒猫の姿をした魔王は言った。


「世界を見てみろ。親を亡くしたガキどもは掃いて捨てるほどいる。そいつらは生きていくために、何でもやる。誰の責任でもなく、自分自身で決め、全部それが返ってくる。いいことも悪いこともな」

「決められない子供もいると思うぞ?」


 物心ついた頃にすでに奴隷になっていたり、さらわれたりした子供とか。大人からいいように使われ、強制させられている子供たち。


「だろうな。それは否定しない。だがお前の引き取った魔法人形たちはどうだ? 少なくとも選ぶことはできる環境にある。お前は強制していない、そうだろ?」

「強制はしていない」


 ただ強制的に戦いには関わらせないようにすべきか、と考えたことはある。……強制か。これじゃ何が正しいかわかんなくなるなぁ。

 結局、思うところはあれど、俺は子供たちの意見を尊重した。



  ・  ・  ・



 アリエス浮遊島軍港、それに併設される兵器開発工場。


 俺はそこにいた。ここでは新たに魔人機、レアヴロードが、生産されている。

 魔法文明時代の反乱軍の機体だが、ディーシーが持ち帰った記録により、ウィリディス軍で配備を進めているのだ。

 少なくとも、大帝国がそのまま使っているリダラタイプ、ドゥエルタイプよりは性能がいい。


「――とはいえ、君らには、性能向上型を用意するつもりだからね」


 俺が視線をやった先には、異世界パイロットであるマッドハンター、アーリィー付き近衛隊の隊長だったオリビア・スタッバーン、ダークエルフのラスィアがいた。


「ぶっちゃけ、魔神機に負けたくないんだよね」

「それには同感だ」


 マッドハンターは腕を組んで、レアヴロードを見上げる。彼は以前、大帝国が使う魔神機ドゥエル・ファウストと交戦し、機体を大破させられている。

 現状の魔人機では、マッドハンターほどの卓越したパイロットといえど、機体の性能差、武器の性能差を覆すのは限界があった。

 俺は、チラとマッドハンターを見やる。


「で、君も少し魔力についてお勉強は進んでいるかな?」

「マニュアルを読めば何とかなる、というものでもないだろう」


 マッドハンターは生真面目に答えた。


「魔法という概念がいねんは、俺のいた世界ではオカルトだった」

「ふむ、でもこの世界にいる君にも魔力はあるんだよ、マッド」


 そこで俺はオリビアとラスィアを見た。


「君らは技量ではマッドに劣るが、開発中の新型は、魔法が使える君らで性能の底上げを期待できる」

「お言葉ですが、侯爵閣下。ラスィアはともかく、私の魔力適性などさほどありませんよ」


 オリビアは苦笑した。剣の腕ひとつで近衛騎士になったような女性である。


「魔力適性が低くても、機体の性能を引き出せるように工夫はする。心配するな」

「それなら安心です」


 真面目だが少々単純なところがあるオリビアは、ニッコリと笑った。基本的に、自分が職務を全うできれば、それ以上のことは望まないところがある。……幸か不幸か、仕事人間ゆえ、いまだ浮いた話がないのが玉に瑕。


 そして異性の話がないのはラスィアも同様だ。さすが魔法文明時代の生き残り種族のダークエルフ。魔法の適性は人間以上。魔人機も軽く扱えるレベルの上に、彼女自身、高位魔術師なので、魔力による底上げに一番期待できる。


「ちなみに、君たち、スーパーロボットには興味があるかい?」


 俺は聞いてみた。ここにメンツを集めたのも、新型の話をするだけではない。T-Aやこれから作る予定のT-B以降のパイロット候補を選ぶためでもある。


 ……俺? 俺はタイラントがあるし。……まあ、他にいなければその時はやむを得ない。

 スーパーロボットがどういうものか三人に話したのだが、反応はいまいちだった。


「俺は、魔人機でいいよ。決戦兵器ってのには、どうにも抵抗があってな……」

「ひょっとして……以前話していたシステムの部品にされた改造兵士の少女のことか?」

「覚えていたか。ああ、特殊な決戦兵器絡みだったから……」


 ふだん表情の少ないマッドハンターが、苦い顔をした。こりゃ、ちょっとしたトラウマになってるな。


「パイロットにヤバイ改造とかはないが……無理強いはしないよ」


 俺は残る二人に振ってみれば――


「近衛ですから、そういう最強兵器にはさほど……」

「私も遠慮しておきます」


 オリビアもラスィアも辞退した。うん、まあ、そんな気はしていた。


「ベルさんには相談なされなかったのですか?」

「あの人はあの人で、別のものを用意するからいいんだ」


 信用できる候補として、まず三人に声をかけたが空振り。


 魔力の適性でいうなら、元魔神機パイロットのリムネとか、魔法人形の子供たちだが、スーパーロボットに乗せるのに躊躇ためらいがある。まずは、大人から声をかけるべきだろう。


「サキリスは? 彼女も魔神機に乗れますよね?」

「彼女はそのリダラ・ドゥブがあるから」


 もう魔神機パイロットとして当てている。兼任したら、一度に片方しか使えなくなる。


「ユナはどうです?」

「……」


 ユナ・ヴェンダート。マスター・ダスカの弟子であり、魔術教師もやっていたAランク冒険者。


「能力は認めるが……彼女はポイロットより、他の分野のほうが輝くと思うよ」


 人には向き不向きがあるんだ。

 それはそれとして、どうしたものか。

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