第1073話、ほとばしる妄想

 

 お絵描きの妄想が、実現する的な流れになりつつあるのをよそに、俺は超戦艦プランで用いられる技術を利用した艦艇設計……という名のお遊びをはじめた。

 とはいえ、割と真面目なもので、大帝国が魔法文明艦艇を多様するようになっている以上、ウィリディス艦艇の攻撃力アップは必要だった。


 その辺りは、ディーシーが持ち帰ったヘビープラズマカノンを、艦艇武装に採用することで一応の解決ではあるが、超戦艦と艦隊を編成することができる護衛艦艇も欲しい。


 せっかく超戦艦にステルス機能があるのに、周りの艦がステルスできないと、常に単艦行動を強いられてしまうかもしれない。それでは、宝の持ち腐れにもなりかねない。

 そんなわけで、俺の中でトレンドになりつつある魔法文明時代のコサンタ級重巡洋艦とウィリディス艦艇をミックスしたような巡洋艦を設計する。


 ヘビープラズマカノンを主砲に、結界水晶式シールド、ステルス機能……ついでに転移機能も盛り込めないか?

 艦載機運用はどうか? ……うーん、艦載機なしとありの二タイプを考えるか。超戦艦と違って、複数建造するとなれば、少しはコストのことも考えないとな。


 あー、そうそう。ポータル運用の機会が増えるし、そうなるとそれに対応した艦艇の数も増やしておかないといかんな……。

 ポータル運用艦艇と言えば、ユニコーン級機動巡洋艦だが、それをベースに、新技術を使った後継艦を設計しよう。


 ユニコーン……ときたら、ペガサスは……あるもんな。ワルキューレ……戦士――艦載機を導く戦乙女。


 などとテンションが高い時の発想とはそういうものである。元となるものがあると、できあがるのが早い。

 艦艇のことを考えるのがひと段落したので、次のことを考える。

 超戦艦プランの中で運用を考えたポータル運用偵察機構想。


 仮コードは『フレスベルグ』。死体を飲み込む者――先ほどのワルキューレ、つまり北欧神話にだいぶ引っ張られている。

 偵察機であるからには、高い索敵能力が必要だ。長時間航行を可能にする航続距離。そして敵に発見されないステルス性。万が一発見された際の防御性能と、高速離脱能力。


 だが一番重要なのは、ポータルの運用能力だ。

 ……いっそディーシークラスのダンジョンコアを載せれば、テリトリー内の自力転移もできるのではないか?

 しかし、複数作る予定の機体に、そんなハイスペックなコアを載せるのは――


「いいのではないか?」


 と、当のディーシーさんはおっしゃった。


「我のコピーコア……まあ、数を用意するなら、ある程度ダウンスペックになってしまうが、レア物の超戦艦で使うものなのだろう? 偵察機もハイコストで何が悪い」


 ディーシーは、データパッドに向かう俺の背中に抱きつくようにくっついた。俺の耳元に息のかかる距離だ。


「何を遠慮する必要がある。主のやりたいものを全部注ぎ込め。……どうせ妄想だろう?」

「……何か違う意味に聞こえるのは気のせい?」

「気のせいだろう。我には主のものを入れる穴はないぞ」


 コロコロと笑うディーシーさん。やっぱり下ネタじゃないですか、やだー。


「お前、人をからかうのがうまくなったよな」

「主の知らないところで、三年ほど人間研究をしてきたからな。あれは有意義な時間だった」


 というわけで偵察機である。

 ベースはウィリディス軍の戦闘機の中でも大型の部類になるTF-4ゴースト。先ほど上げた機能を全部盛りするには、それなりの大きさが必要なのだ。小さい機体は積むところがないからね。


「……何とか必要なものを積めそうだけど、複数の機能を同時に使ったら、魔力の消費がデカイな」


 ウィリディス系、魔法文明系もだが、燃料は基本魔力を使っている。大気中の魔力を吸引して燃料の足しにしているとはいえ、使用する魔力の消費が吸収量を上回れば、航続距離が下がる。


「魔力吸引器の性能を上げるか、パイロットの魔力に頼るんだな」


 ディーシーが言えば、俺はうなる。


「パイロットの魔力は、防御シールドとか離脱の時のハイ・ブーストくらいだと思ってたんだけどね」


 魔人機は、パイロットの魔力で性能の底上げが可能だ。それを偵察機にも応用しようと思ったが……。


「そうなると、サキリスのような魔力の泉スキル持ちや、魔法人形の子供たち……後はエルフか。パイロットに向いているのは」


 ディーシーは首をひねった。


「まあ、シェイプシフター兵向きではないな」

「シード・リアクターを載せられれば、魔力量を心配しなくてもいいんだが」

「ゴースト戦闘機の大きさではとても積めんよ」


 それでなくても、すでにこの偵察機の容量はいっぱいだ。


「それにコピーコアと違って、シード・リアクターに使える種子の数は限られている。量産できない以上、いくら少数といえど偵察機に回す余裕はない」

「だよなぁ」


 現状、世界樹の種子は量産できない。何に使うのか、より厳選しないといけない。


「となると、やっぱスーパーロボットかなぁ」


 超戦艦が艦艇無双用なら、スーパーロボットは大帝国の魔人機や大型ゴーレムなどに対応する。

 ディーツーが独自開発を進めたT-Aは、攻防に秀でてはいるが、機動力に関しては、並というか、むしろ魔人機に劣るのがわかっている。


 ゴーレムをしたせいか、胴が短く、さらに短足のようなスタイルなのも、ひと目で『こいつは動きが鈍そうだ』という印象を与えるのもよろしくない。

 各部位のバランスを取りつつ、T-Aの攻防を維持しつつ、機動性、運動性を上げる。スタイルも鋭角的に、そして格好良さを目指そう。


 ブァイナ鋼とDW材の超合金装甲、結界水晶式シールド、無限動力シード・リアクター、制御システムにダンジョンコア、浮遊石……。


 武装に関してはT-Aと同様のものに加え、特注の剣などを持たせたい。現状、ミサイルやブラスター兵装はあれど、近接武器がパンチしかないのだ。後は、操縦者の魔法をロボットのほうでも発現できるようにしておくとか、か……?

 パイロットに魔力を求める仕様……。まあ、魔神機みたいなものだ。


「人型にこだわることはないか……?」


 ふと思う。シード・リアクターの莫大ばくだいな魔力を超加速に投入。超装甲で敵の攻撃に耐えつつ、敵集団に突入したら、圧倒的多数のクリエイトミサイルを一斉にばらまく。


 一撃離脱の強襲機! 攻撃機、いや攻撃艇になるのかな? シード・リアクターを搭載するには、それなりの大きさになるだろうが、一考の価値はある。

 ノリノリで構想を描き起こしていたら、ディーシーが、しみじみと言った。


「そういう兵器は、反乱軍の時に欲しかったな……」


 俺の知らない三年間、反乱軍と共にあって戦った彼女である。常に兵力に劣る反乱軍にこそ、こういう兵器が必要だったかもしれない。


「仕方ないよ。世界樹の種子はその頃、手元になかったんだろ?」


 シード・リアクター、超装甲も、ディーシーが俺と共に帰還した後、現地に残ったディーツーが完成させたものだ。


 どう頑張っても、反乱軍時代に、それらの兵器は素材すらないので生まれようがなかったのだ。


 こうして、コスト度外視のハイスペックな装備の構想を妄想している間に、時間は過ぎていった。楽しい時間は、あっという間に終わるのだ。

 明日から、また日常に戻るのだ。

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