第1069話、エルダーエルフ様、ウィリディスへ
エルフの里の地下で、ディーツーが保っていた兵器は、俺たちウィリディス軍と、エルフたちに分配された。
アンバル改級『ネフリティス』以下、艦艇の大半はウィリディス側に。
リダラ・グラス改など魔人機の大半は、エルフたち。
ウィリディス戦闘機は、双方、半分ずつと行った具合だ。
もちろん、ウィリディス側にも魔人機をいくらかもらったし、エルフ側も少数の艦艇を渡している。
この分配は、双方の軍備、兵力が大きく影響している。
艦艇については、多数の運用設備を有するウィリディス軍に対し、エルフ側は運用能力、施設ともが不足していて、もらっても使いこなせない。
魔人機は、シェイプシフター兵が大半を占めるウィリディス軍より、魔力が豊富なエルフの方が、相性がよいという適性からの判断である。
戦闘機については、双方運用が可能ということで、それは折半。ただエルフ側は航空機パイロットの練成が始まったばかりで、まだ数が足りなかったが……。
分配兵器についてはエルフ側との協議の結果そうなったが、スーパーロボット『T-A』やシード・リアクターなどは、ウィリディス側に――というか、俺に託されることになった。
「大帝国との戦いにおいて、この力はジン様こそお使いすべきです」
ニムが言えば、カレン女王もまた。
「エルダー様のおっしゃる通りです。我々はあなた様に頼ることしか、この危機を乗り越える術はありません。どうか、お役立てください」
……日頃の行い、か?
俺の従者だったニムはともかく、カレン女王からも、超兵器とその素材を委ねられてしまうとは。
これ、エルフの生殺与奪を俺に渡しているのと同じじゃないか……?
委ねられたスーパーロボットなどがあれば、エルフの里を滅ぼすことだって可能だろう。……いやまあ、俺がそんなことをしないとわかっているから、だろうが。
要するに、そう信じられるくらいの信頼は得ているということだろう。
それとも、スーパーロボットなどなくても、俺たちがエルフの里を滅ぼすに充分な力を持っているとわかっているから、かな?
まあ、せっかくスムーズに回収できたのだから、ありがたく使わせてもらおう。
さて、ここで問題がひとつ発生。
誰あろうニムである。
「私は、ジン様にお仕えする身。エルダーとしての役割は果たしました。これからは一エルフとして、あなた様にお仕えいたします」
「え……!?」
俺もびっくりだが、カレン女王の驚きはそれ以上だった。
「え、エルダー様!? そんな……」
「カレン女王、エルフを統べるのは、あなたです。これまで通り、お任せしますよ」
エルフの里において、エルダーエルフはエルフの歴史であり、精霊に近い
「エルダーと言っても、数百年に一度起きて、
きっぱりと、ニムは言い切った。もとから冷静な彼女だから、ピシャリと言い放てば、反論する気分にもなれない。
カレン女王は、しばし迷った挙げ句、ニムのウィリディス行きを了承した。
「エルダー様が、そうお望みであるならば、わたくしたちに止める権限はありません。これまで、里を見守ってくださったことに感謝し、以後の人生に幸あらんことをお祈りいたします」
「……やはり、女王の血だな」
ニムは、カレン女王をしばし見つめ呟いた。
後でニムから聞いたところ、彼女が生命維持装置にて眠りにつく前、初代女王であるカレンに、同じようなセリフで見送られたのだそうだ。
初代女王カレンも、その立場でなければ未来の俺に会いたがったらしい。
だが、それをするとエルフを導く者がいなくなってしまうこと、俺と特に縁がないのに、生命維持装置で未来の俺に仕えたがるエルフが多かったために、初代カレンは諦めたのだそうだ。
・ ・ ・
ウィリディスにやってきたニムは、さっそく俺の従者ポジとなった。
元々、魔法文明時代に、俺の身の回りの世話をしていたから、ウィリディスのメイド衣装にもすぐに適合した。
メイド長のクロハは「あ、また金髪美女」と何故か、目まいを起こすようにふらついたが……何だったんだろうな。
サキリスやエリー、ダークエルフのラスィアたちのグループに、エルダーエルフが加入。
ニムはダークエルフのラスィアと初顔合わせの時は、一瞬警戒感を露わにしたが、昔とは事情が違うことを思い出し、すぐに打ち解けた。
うちのメイド団が、また豪華になるなぁ。元アーリィーの従者たち、つまり王族に仕えた者たちもいるから、そんじょそこらの貴族のメイドよりも色々と『強そう』である。
シェイプシフターメイドも含めて、ニム、サキリス、エリー、ラスィアは戦闘もこなせる。魔人機や戦闘機を操るメイドなんて、俺んとこ以外にあるか? いやない。
俺はウィリディスの白亜屋敷にて、エマン王とジャルジーとランチを共にした。ずいぶん俺の中では久しぶりなのだが、王と公爵にとっては、さほど時間が経っていない。
「――いやはや、エルフが魔法文明時代に作られた存在だったとは」
エマン王が、切り分けられたステーキにフォークを入れれば、ジャルジーも頷いた。
「相変わらず兄貴の冒険譚は楽しいな。正直、うらやましい」
「ユーモアは削ったつもりだったんだがね」
吸血鬼となった新生アポリト帝国。反乱軍と一文明の
それとも、あまりに
「……ディグラートルが、魔法文明時代の生き残りである、か」
エマン王は目を閉じた。
「不老不死……。さてどうしたものか」
「親父殿、これまでと何も変わりません」
ジャルジーは発言した。
「こちらは連合国ほか多くの国と共同し、大帝国と戦い、その戦力を叩き潰す。国として存続できなければ、いかに不老不死と言えど個人に過ぎません」
俺は同意した。当面の方針は変わらない。
「それにしても、スーパーロボットか……」
ジャルジーが眉をひそめた。
「この性能が本物ならば、とても強力な戦力を手に入れたことになります。大帝国の使う魔神機なる兵器も恐れる必要はなくなった!」
「確かに強力な兵器であろう」
エマン王はしかし厳しい顔だった。
「しかし、その力、御せるのか? もし悪意ある者の手に渡れば、小国ひとつ、簡単に滅びてしまうのではないか」
王の
世界を我が手に、などと野心を抱いたら最後、それを止める術はあるのか。……いや、やり方次第だとは思うが。
「正しく使うこと、それが第一でしょう。そして、わかっていても運用しないといけない」
航空艦隊だって同じだ。大帝国が空中艦隊で連合国を圧倒したのは記憶に新しい。ウィリディス軍にも、その力はある。
「俺が危惧しているのは、魔法文明時代から生き延びたディグラートルの存在。彼も、もしかしたらスーパーロボットを保有しているという可能性ですね」
確証はない。だが備える必要がある。こちらにできることは、あいつにもできると考えたほうが、いざという時に対処できるのだから。
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