第1068話、スーパーロボット、T-A


 そのズングリムックリなロボットは、一般的なゴーレムのデザインを踏襲とうしゅうしたためか、日本でのスーパーロボットたちと比べたらお世辞にも格好いいとは言えないと思った。

 もっとも、武骨で、がっちりしたシルエットは、一部のマニアには受けそうではある。


 ディーツーが製作したというスーパーロボット『T-A』は、果たしていかなるものなのか。


「コンセプトは『いかなる攻撃にも耐える防御力を持った、単機で敵部隊を殲滅せんめつするロボット兵器』だ」

「……ほう」


 それは拠点防衛、あるいは敵拠点へ突撃して暴れ回る強襲型か。……見た目、スマートに見えないT-Aは、拠点前に陣取る防御型の印象だ。


「では、その自慢の防御力について聞こうか」

「うむ、まず魔力式の防御障壁を標準装備。さらに結界水晶による二重の防御機能を搭載している」

「結界水晶か」


 エルフの里を守る結界、それを展開する水晶だ。現代における防御障壁しょうへき系では最高の防御性能を有し、外部からの侵入をシャットアウトする。


 確かに優秀だが、これ自体は、俺が空中戦艦――エマン王から依頼されたヴェリラルド王国の旗艦となる戦艦に搭載させているので、まったく新しいわけではない。

 それに、結界水晶は攻撃を防ぐ一方で、こちらからも攻撃できない欠点がある。


「なに、主殿。T-Aが凄いのはここからだ。その装甲には、ブァイナこうとDW材の混成で作られている。この耐久力があれば、実は障壁など不要なくらいだ」

「……なんだブァイナ鋼って? それとDW材? 聞いたことがないぞ」

「でも主殿も知っているはずだぞ。この世界樹の下にある構造体、その表面を覆っている超合金、それがブァイナ鋼だ」

「っ!?」


 地下構造体への入り方がわからなかったころ、その床というか天井を壊そうとした。だが、物理攻撃も魔法攻撃もまったく歯がたたず、ベルさんの魔王パワーを持ってしても切り取ることすらできなかった魔法金属らしきものだった。


「あれはブァイナ鋼って言うのか」

「アポリト浮遊島の地下都市部を覆う金属なのだが、どうも文明でも初期のものらしく、ディーシーがスキャンした時も詳細はわからなかったのだ」


 ディーツーは苦笑した。


「が、あれから残った技術者と共同で解析した結果、ようやく正体が掴めたのでな。試行錯誤してどうにか使えるようにした」

「そうだったのか」


 しかし、あの堅牢けんろうな金属を装甲に使えたなら、確かに防御障壁がなくと傷ひとつつかないだろう。


「で、DW材とは何だ?」

「ああ、ダンジョン・ウォール……つまりダンジョンの壁や天井に使われている物質だ。あれも大抵の攻撃や破壊に強く、強さだけなら下手な防御障壁より硬い」


 あー、ダンジョン構造体か。ワーム系モンスター以外では、突き破ることがほぼ不可能という謎物質だ。……そういや、いつぞやダンジョンの壁を装甲に使ったら無敵じゃないかって思ったことがあるが、それを取り入れたようだ。


「ブァイナ鋼とDW材を混ぜたこの超装甲を破壊できるものがあるのか……私にもわからん」

「つまり、現在考えうる最高の装甲というわけか」

「そうだ。ただし、ブァイナ鋼は魔力を通した分だけ硬度が増すという特徴があって、まったく魔力を通さないと、たとえばバニシング・レイクラスの攻撃なら破壊は可能だ」

「……おい、俺のバニシング・レイクラスって、耐久最低値がほぼ最高攻撃力をぶつけないと駄目なんだが」


 なんつー、装甲だよ。ここまで来ると、スーパーロボットにありがちなチート超合金と遜色そんしょくないだろう。


「こりゃ、確かにいかなる攻撃をも無効化できるだろうな」


 他には?


「ダンジョンコアを内部に制御システムとして搭載している。機体の再生や魔法の使用などで、パイロットをサポートする」

「自己再生機能持ちか」


 やれやれ、動くダンジョンか。


 もっともコア搭載の発想自体は俺が、すでにやっている。ディーシーを載せられるようにしたのがそれで、テリトリー化によるダンジョンコアの魔法のほか、機体を動かす魔力収集などで活躍している。

 ダンジョンコアほどではないが、ゴーレムコアやコピーコアは、ウィリディスの戦闘機をはじめ魔人機で広く搭載されている。

 それを考えれば、ダンジョンコア搭載は高価ではあるが、想定の範囲内と言える。


「そして動力源には、世界樹の種子を利用している」

「世界樹の種子?」


 それは初耳だった。


「いったい何だいそりゃ?」

「文字通り、世界樹の種子だよ。千年に一度かな、世界樹が一個から数個程度、種子を作るんだが、これが無限に魔力を生み出す代物でな。魔力で動く機械の動力には、これ以上ない素材だ」


 千年に一度……。あれから約9900年も経っているから、最低一個でも九個はあるということで、数個というからには――


「もちろん、回収できる分は回収した」


 使っていい、とディーツーは言った。さすが、抜かりがない。


「もっとも、サイズがあるから魔人機や単座航空機には載せられないが。最低でもT-Aサイズが欲しいな。艦艇に載せたらどうだろう、と思っている」


 なるほど、検討しよう。馬鹿でかい世界樹だけあって、種子もそこそこの大きさがあるようだ。


「こんな外見だが、浮遊石を内蔵しているから飛行機能もある」

「なるほど。……で、肝心かんじんの武装は?」

「腕にブースターがついていて、それを飛ばすことができる。結界水晶を仕込んでいるから、結界を敵にぶつける攻撃だな」


 ……ロケット的なパンチだと思ったぜ。まあ結界フィールドをぶつけるというので、一応は納得した。


「背部にマウントされているギガントアームを腕部とドッキングさせることができる」

「パンチ強そう」

「機体の各所に、魔力生成式のクリエイトミサイル発射機を内蔵している。これを敵集団の中で発射することで、敵をまとめて攻撃できる」

「クリエイトミサイルってことは、魔力がある限り、弾切れがないやつだな」

「その通り。世界樹の種子を利用したシード・リアクターがあるから、実質のところ無制限だ」


 ミサイル撃ち放題! なるほど単機で敵集団を殲滅するってわけね。


「そして胴体には、無限の魔力を応用したマギアブラスト・キャノンを装備。魔法文明時代の戦艦すら一撃で撃沈可能だ」


 いわゆる必殺武器か。これ、劣勢な反乱軍が、数で勝る新生アポリト帝国相手に欲しかった兵器だよなぁ……。

 まとめると、ブーストパンチ、多数のミサイル、強力なるブラスター兵器を搭載した重装甲がウリのスーパーロボットということになる。


「これは、動かせるのか?」

「そのために作ったものだからな」


 ディーツーは請け負った。


 なお、このT-Aで使った装甲やらリアクターやらの予備在庫があるので、少数ながら量産してもいいし、新型機を設計して作ってもよいとのことだった。

 気が利いているね。うーん、スーパーロボットねぇ。これらの素材を使ったら、どんなロボットができるのか。俺の中の創作魂に火がついた。

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