第1067話、約9900年前に残したモノ


 俺と魔法人形の子供たちは、アポリト本島決戦後の生き残った者たちの残した写真を眺めていた。


 兄弟姉妹だけではなく、十二騎士――ゴールティン、ディニ・アグノス、エリシャ・バルディアの三人の写真もあった。


 ディニとエリシャは結婚したらしく、それぞれがひとりずつ赤ちゃんを抱えていた。双子かなこれは。


 これにはヴァリサもニッコリだ。女帝のクローンとして生まれ、しかし反乱軍の指導者として生きた彼女を支え続けた忠臣たちの無事な姿は、何よりの朗報だろう。


「おや……」


 ニムが写っていた。一緒に写っているのは俺に仕えてくれたエルフメイドのほうのカレンだ。彼女は頭に王冠を載せていた。


 初代エルフの女王ってか? うわぁ、やべ、涙腺るいせんゆるむわ……。


 さらにページをめくると、元反乱軍の者たち――人間と白エルフたちの姿があった。これらは復興作業の記録だろう。ゴールティンやディニ、魔法人形の兄弟姉妹たちと一緒に写っている知らない人たち……。


 あ……。


 そんな人間たちの中に、メギス艦長の姿があった。そうか、彼も生き残ったんだな……。知っている者の姿を見ると、やっぱり嬉しくなるな。


 アルバムの最後は、元十二騎士と魔法人形の兄弟姉妹たちの集合写真だった。


『親愛なるジン・アミウールと家族たちへ』


 と端に書かれていた。



  ・  ・  ・



 兄弟姉妹の思い出に浸る子供たちを残し、俺はディーツーと工場見学に戻った。


「私はここの管理を行い、来たるべき未来の危機に備えた」


 ディーツーは語る。


「もっともあの戦いの後、しばらく世界から魔力が消えたから、本格的な準備は再び世界に魔力が戻ってからだが」

「結局、魔力消失空間発生装置の効果は、世界中に広がったのか……」

「魔法文明はほぼ消滅した。まあ、名残りはあって、人間たちが魔法を完全に忘れる前に魔力は戻ってきたが」

「残った人間たちは、さぞ苦労しただろうな」

「ああ、それまで当たり前のように使っていた魔法が使えなくなったのだからな。その代わり、人々は魔法以外の方法で生きる術を獲得していった」

「人間、というか生命の適応力って凄いと思う」


 できないと思っていたことを克服する人間の強さ。適応して進化する生命……。


「あの頃は苦労した」


 ふっ、と何故か黄昏たそがれるディーツー。


「何せ魔力のほとんどがなくなった世界だ。唯一魔力が生成され続けたのが世界樹のみという状況だったから、私はここを離れることができなかった……」

「世界樹は魔力を生み続けていた?」

「わずかだがな」


 ディーツーは苦笑した。


「魔力が消えた世界にあって、唯一魔力を保ったのが世界樹だ。それがなければ世界樹はとうに枯れていただろうよ。だが見てのとおり、世界樹は青々としたまま健在だ」


 世界樹、すげぇなぁ……。


「それでも、私は体を保つ程度の魔力しかなかったがな。おかげで写真は残してやれたが、ダンジョンコアの私でさえ魔法がほぼ使えないありさまだった」

「あ、ひょっとしてここを管理していた人間というのは……」

「そう、私の手の届かないところの面倒を見てくれた」


 ニムの言っていた管理者も、この施設維持のために働いていたわけだ。なるほど、そりゃ管理者だわ。 


「苦労をかけたな」

「なに、それがディーシーから託された私の存在意味だ」


 使命を果たし、ディーツーは晴れやかな表情を浮かべた。


「世界に魔力が戻り、私は、この施設の維持と、ディーシーが各地に残した秘密拠点の再稼働を行った。主殿、戦力はきちんと整備したぞ」


 巡洋艦『ネフリティス』の他、同改型クルーザー、ウィリディス軍の各種航空機、白エルフ用の魔人機リダラ・シリーズなどなど。


「……空母は? ほら、ステルス機能に特化したという幽霊空母」

「あれはディースリーに任せて、別の場所だ」


 ディーツーは答えた。


「エルフの里の地下構造体は無事だろうとディーシーから聞いてはいたが、実際に開けて確認したわけではなかったからな。主殿が施設を訪れる前に何かあったら困るので、念のため別場所に分散させたのだ」


 用心深いことだが、確かにここは封印されていたが、中の様子はあの頃はまだわからなかった。ピラミッドや王家の墓が、墓荒らしにやられているが如く、誰かが云千年前に手を出していないという保証はなかったわけだ。

 結果は杞憂きゆうに終わったわけだが、未来のことはわからない。


「それで、主殿。話は変わるが、この長い待ち時間のあいだに、独自に研究していた代物があってな」

「ほう、独自研究とな?」


 いったい何を研究していたんだい、ディーツーさんよ。


「ディーシーから聞いたのだが、主殿は、サントンによくロボット兵器の話をしていたそうだな?」

「サントン、なるほど……」


 魔法人形の子供たちのひとりで、大人顔負けの体躯ながら、大人しく、またメカモデルの玩具おもちゃを作る趣味があった。今でいうインドアなプラモ少年と言ったところか。


「そのサントンに、スーパーロボットなる超兵器の話をしたことがあるとか」

「覚えがある」


 はっきりいつとは覚えていないが、一緒にディーシー製作の魔人機モデルを組み立てながら話をしたことがあったと思う。


「で、それがどうしたんだ?」

「私も、後世のために守り神というべき、スーパーロボットなるものを作ってみた」

「……何だって?」


 スーパーロボットを作った?


「マジですか、ディーツーさん?」

「うむ。色々、面白い素材があったから、それを組み合わせていたら、まあできてしまったというべきか」


 会話しながら乗ったエレベーターが、地下深くの階層へ降りる。ドアが開き、室内の明かりが一斉に灯った。


「正直、私はスーパーロボットの実物を見たことがないので、守り神というものを想像し、ゴーレムに似たようなデザインとしたが」


 ドン、と奥に立っているのは、ズングリとしたスタイルの一機のゴーレム……いやスーパーロボット。


「……短足に見えるのは、ゴーレムがベースだからか?」


 なんとまあ、スタイルはお世辞にもよくない。というか、スーパーロボットと言うには、かなり無骨で、腕とか特にふとましい。

 しかしその大きさは現在の人型兵器の二倍くらいあった。


「見た目はアレかもしれんが、こいつは従来の魔神機などとはまったく違う」


 ディーツーは、それを指さした。


「タイプA、仮コードはT-A。ちなみにこいつは一号機だ」

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