第1063話、改めて見ると印象が違って見えるエルフの里
魔法文明時代に残したディーシーの遺産を拾いに行く。
それが次の俺たちの行動ではあるが、その前に前々から気になっていた件を片付けることにした。
それは、エルフの里。かつてアポリト浮遊島の一部を構成し、現在白エルフたちが住んでいる場所だ。
エルフはアポリト帝国が生み出した生物。その支配を支える種族として人間に従属していたのは大昔の話。いまは他種族とあまり関係を深めず、武装中立的に独自路線を進んでいる。
もっとも、俺は魔法文明時代に行く前から、度々エルフと交流を深めていた。その縁でヴェリラルド王国とはエルフは同盟関係にある。
俺は、エルフの空中都市ヴィルヤに連絡を入れ、これから向かうことと、もし時間が許すならカレン女王と会談をしたいと申し入れた。
他国と交流があまりないエルフの里といえど、女王様が暇であるわけではない。また貴族や王族と面談するなら、その日より前に事前に報せておくのが礼儀というものだ。
一応、事前通告とはいえ、急な会談要請など、普通は無理と突っぱねられるのがオチである。
が、カレン女王は会談を了承、すぐにでも会えると返事をくれた。
……それでは、世界樹にある空中都市ヴィルヤにポータルで移動!
「ようこそ、ジン様」
「ご無沙汰しております、カレン女王陛下」
精霊宮の中、相も変わらず
しかし魔法文明時代を見てきた俺の目には、それまで感じてきたものとはまったく別の感想を抱くことになる。
たとえば、この精霊宮という名前。……魔法文明時代からの名残だとするなら、ここでいう精霊とは、ディーシーのことだろう。
以前、訪れた時、エルフのアリンが言っていた。白エルフは精霊を信仰している。褐色のダークエルフは精霊を神に置き換え、青肌ダークエルフは、闇の神ないし邪神を信仰する……。
精霊とは、すなわちディーシーであり、彼女が反乱軍と生き残り白エルフの生存のために尽力したことは、神の遺業として信仰の対象となったのだろう。
褐色のダークエルフについてはよくわからないが、青肌ダークエルフの闇の神とか邪神というのは、白エルフを迫害、抹殺を目論んだアポリト帝国であるとするなら、筋が通っている。
創造主であるアポリトの天上人は、やがて吸血鬼に乗っ取られ、青肌ダークエルフはその尖兵として以後も、白エルフの属する反乱軍と戦った。
青肌エルフの生き残りが、なおも白エルフを攻撃するのは、魔法文明時代の遺伝子がなせる技だと思う。
精霊宮の、女王の執務室に通された俺は、さっそくカレン女王と会談に移る。
「いくつか報告があるのですが、まずは、世界樹の地下にある構造体の正体について」
「わかったのですか?」
「はい、魔法文明時代の浮遊島の一部だと判明しました」
それ自体はウィリディス軍では
「浮遊島……」
「このエルフの里は、その魔法文明時代の島の上にあるのです」
おそらくアポリト本島攻略戦の後、白エルフたちはその一帯を自らのテリトリーに定めたのだろう。……理由は、旧アポリト帝国が白エルフを一斉処分にかかった時、俺が救出したわけだが、そこにエルフたちを収容した秘密ダンジョンを作ったからだ。
俺が攻略戦で去った後、その俺とディーシーが作った施設跡を、自分たちに所縁がある場所として利用したのかもしれない。
「世界には、同じような島が他に七つあり、魔法文明時代の兵器が発掘、回収されています。そして、世界樹のあるここも、その文明の施設がある場所であり、ディグラートル大帝国も狙っています」
「大帝国がここを狙っているという予知夢は……」
「はい、古代文明時代の技術、兵器の回収が目的でしょう」
アポリト帝国人だったクルフのことだ。ここに住む白エルフたちのことなど、どうでもよいと考えているに違いない。ついでに滅ぼすなんてこともありうる。
「そして女王陛下。話は変わりますが、エルフの創世に関わる事実をお知らせしようと思います」
俺は、慎重に切り出した。
「あまり愉快な話ではないので、正直お話するのを
「エルフの創世」
カレン女王の美貌に影がさす。思いがけない言葉だったのだろう。
「これから話すことは、信じられないかもしれませんが……。それについては女王陛下のご判断にお任せいたします」
「……わかりました。お話を聞かせてください、ジン様」
こちらの口ぶりから、覚悟がいる話だろうと察したのだろう。女王は背筋を伸ばした。
「では、お話いたします。エルフは人間が作りました。古代文明人――天上人を自称するアポリト帝国人によって……」
・ ・ ・
どれだけの時間が経ったか。話している間はあっという間だった気がするが、結構な時間が経っていた。
カレン女王は、俺から知らされた話を、何度か口を挟みそうになるのをこらえて、最後まで聞いた。
人間によって作られたエルフの関係と、戦い。独立のきっかけとなっただろう新生アポリト帝国の崩壊までを、一通り聞いた後、しばし放心状態だった。
顔は青ざめ、冷めた紅茶のカップに伸ばした手は震えていた。
「正直に申しますと、にわかには信じがたいお話です……」
ようやくカレン女王はそう言った。
「ジン様は、どこでそのお話を……?」
「実際にこの目で見てきましたから」
「!?」
今度こそ、女王陛下は驚愕した。
「ですが、その古代文明は、数千年前に滅びたのでは……?」
「ええ。私の保有する転移の杖で、過去に飛ばされまして、私はアポリト帝国とエルフの関係をつぶさに見てきました」
この話のほうが、よっぽど信じられないだろうな、と俺は思う。タイムトラベルなんて、俺のいた世界だって空想だと笑われる類いなのに。果たして、この世界の人間に、過去へ飛ぶとか理解できるのだろうか……?
「何か、証拠はございますか……?」
恐る恐るカレン女王は問うた。基本的に、俺の言うことは本当だろうと信じるスタンスの彼女だが、さすがに許容できるレベルは存在したのだ。……そりゃ自分は神である、なんて言ったら正気を疑うのが自然である。
「状況証拠ならいくつか。ただ、やはり地下の構造体の中を見て判断してもらったほうが早いかもしれません」
俺は事務的に言った。
「構造体の調査のため、中に入る許可をいただきたい。一応、あなた方の先祖が後世のエルフのために残した可能性もあるので、現指導者である陛下の許可をお願いいたします」
「それは……ええ、構いません」
カレン女王は動揺していた。女王としての表情と取り
「ジン様、地下の調査の前に……少しお時間をいただけませんか?」
エルダーに――カレン女王は口走った。
「我らの祖、エルダーエルフに相談のお時間を」
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