第1062話、お早いお帰りでした
光が消えた時、アリエス浮遊島基地の格納庫に俺は立っていた。
真っ先に、転移の杖を持ったアーリィーが視界に入り、ついで人間姿のベルナルドことベルさん。そして傍らにディーシーがいる。
「……今度は、全員無事だな」
心底ホッとした俺。アーリィーは転移の杖を持ったまま、腰に手を当てた。
「お早いお帰りで」
「うん、ただいま」
今度は数日で帰ってこれたが、アーリィーの姿をみて、何もかも安心しきっている俺がいた。ちゃんとディーシーがいるから特に。
「トロヴァオンはどうしたのかな?」
「俺の愛機なら、ちゃんとストレージにしまって……ないわ」
魔法文明時代に置いてきてしまった! 俺はディーシーを見た。
「ああ、我の秘密基地の格納庫にある。最終決戦の前だったから、回収はこの時代になるだろうということで、保存庫にしまってある。安心しろ」
「後で回収しに行こう」
ディーシーが魔法文明時代に作った複数の秘密拠点。そこでは未来の――つまり今のためにウィリディス兵器が生産、保存されている。
拡大する大帝国の戦力に対抗するためにも、これらの秘密拠点を再稼働させる必要があるだろう。
……まるでタイムカプセルを掘り起こす気分だ。
俺が不在の三年間で、ディーシーが独自に進化させた兵器群を回収すれば、現在のウィリディス軍の強化にも繋がる。
アンバル改級『ネフリティス』や、幽霊空母などもあの時代から保存されていれば、こちらの戦力になるに違いない。
考える俺に、アーリィーが言った。
「ベルさんから聞いたけど、アポリト浮遊島攻略戦の直前に転移しちゃったって?」
「そうだよ。危うく、介入のタイミングを逃すところだった」
どこまで話したのか、と聞くと、ベルさんは俺たちより一分程度先に転移したらしく、今言った以上のことはまだ聞いていないとのことだった。
「ともあれ、もう魔法文明時代に転移する必要はないと思う」
これで、歴史のことを気にすることなく、ディグラートル大帝国との戦いに集中できるだろう。
そう言ったら、アーリィーは転移の杖を見ながら、ため息をついた。
「ボクも、一度魔法文明を見てみたかったんだけどね。たぶん、ダスカ先生も同じだと思うよ」
でも――彼女は笑った。
「ちゃんと無事に帰ってきてくれたからよし! お帰り、ジン。ディーシー」
・ ・ ・
俺は帰って早々、休憩の間を惜しんで作戦室に向かった。
アポリト攻略戦を終えて、その後の状況と現在をあらためて確認するためだ。
「アポリト各島が分離したのは、おそらくディーツーたちがやったんだろう」
表示された世界地図には八つの光点がある。世界樹遺跡こと、アポリト浮遊島の各島。
「横倒しだったりしたのは、魔力消失空間の中で移動中、制御を誤ったか、浮遊の力を失って墜落したんだろうな」
俺からの報告を受けたディアマンテ、アーリィーは頷いた。
「しかし、謎は残りますね」
「うん、アポリト浮遊島は、本島を含めて九つあるって聞いたけど……」
しかしゲルリャ遺跡から回収された地図の記録によれば、世界樹のあった島のみしか記されていない。
「本島は、どこだろう?」
「それを確かめる手掛かりは、今のところ一つだ。――ディーシー」
俺が
「我は、あの時代に複数の秘密拠点を作った」
地図に新たな光点が表示される。秘密拠点は十数もあって、かなり広い範囲に散らばっている。
「おそらくこの中に、我のコピーコアである、ディーシー2、ディーシー3が眠っている。こいつらに聞けば、本島の位置も掴めるだろう」
「俺たちは、現在、連合国やその他の国々に武器を貸与、供給して、対大帝国同盟軍を形成している」
そのために、旧アポリト浮遊島の遺跡から魔人機をはじめとした魔法文明時代の兵器を回収し、それらを戦力化や分配を行っている。
「これに加え、ディーシーがあの時代に残してくれた兵器を集めることは、大帝国戦で大いに活躍するだろう」
単に数が増えるだけではない。アンバル改『ネフリティス』の搭載するヘビープラズマカノンは、現在のウィリディス軍艦艇の攻撃力を上げる。
幽霊空母『プネヴマ』『タブシャ』のステルス技術は、現在の通商破壊フリゲートの能力や、新型艦艇にも応用できる。
魔人機レアヴロードも、量産型魔人機としてウィリディス軍の魔人機戦力に加わる。
ディーシーは、ディアマンテを見た。
「兵器のデータ自体は、我が記録したものを、ディアマンテに渡そう」
「お受けします。魔法文明時代の戦闘と兵器、しかと分析させていただきます」
銀髪の女性軍人姿の旗艦コアは、深く頭を下げた。
アーリィーが俺のほうへ顔を向けた。
「これで、ウィリディス軍はますます強化されるね」
「……そうだな」
「どうしたの?」
ヒスイ色の目を向けながら、アーリィーは小首をかしげる。
「いや、ディグラートルのことだがな……」
「例のクルフか?」
黒猫姿に戻っているベルさんは、視線をこちらに向けてきた。
「あいつは、あの時代でも特に確認されていなかったんだろ?」
「そうなんだけどさ。気になっていることがあるんだ」
俺はディーシーを見やる。
「三年の間に、世界を覆っていたモンスターの数が減っていたと聞いたが……それって新生アポリト帝国軍が、いずれ来る地上支配のために関係していると思うんだ」
「まあ、いつまでも老人どもの遺産に地上が支配されているのは、かのタルギアとて不満だろうな。遅かれ早かれ、掃除はしただろう」
「それで、ワールドコアも潰していたと思うんだが、それの幾つかを、クルフが回収したんじゃないかと思うんだ」
「それは……」
ディーシーが口をつぐんだ。俺はディアマンテへ視線を滑らせる。
「最近、大帝国の戦力が急に増えたのが、偵察報告で上がってきていたはずだが……」
「はい、ズィーゲン会戦の後、本国に四百隻近い艦艇が駐留していると、シェイプシフター諜報部が報告していましたが――」
「その四百が、急に増えたな、と違和感を持っていたんだよな、俺は」
最初は、大帝国が制圧したアポリト浮遊島の一部から回収して、さらに施設をフル稼働させたと思ったのだが――
「もしかしたら、俺たちがやっているように、ダンジョンコアを使って、軍備を本格的に配備しはじめたんじゃないかって今では思うんだ」
つまり――
「クルフは……ディグラートルは、ただ魔法文明時代の兵器を使っているんじゃなくて、さらに強化されたものも作り出して使っている可能性があるということだ」
あいつは、この戦争をゲームとして見ている。最初からそれらを出していれば、もっと楽できたのに『敵』と値する相手が出てくるまで温存していたに違いない。
自分が楽しむために。楽に勝ってはつまらないと言わんばかりに。
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