第1056話、アンバル級巡洋艦『ネフリティス』
改造クルーザーを死守せんと奮闘するゴールティンら魔人機部隊。
その頃、島の外縁部の艦隊戦は、終局に見えて、いまだ終わらなかった。
アンバル級軽巡洋艦が快速を飛ばし、新生アポリト軍艦艇や飛行クジラを寄せ付けず、次々に沈めていたのである。
このアンバル級の名は『ネフリティス』。ディーシーが想像に創造を加えたアレンジ製造艦だった。テラ・フィデリティアの所属ではないオリジナル艦である。
そしてそれを操るシップコアは、ディーシー自身のコピーコアであり、その艦長も、ディーシーを模した姿をしている。
搭載する主砲は、15.2センチプラズマカノンから、20.3センチヘビープラズマカノンという新開発した砲が搭載されている。
このヘビーカノンは、テラ・フィデリティア製ブラズマカノンを、魔力式粒子加速装置と同魔力式増幅装置で強化したものだ。プラズマカノンの光弾に比べて、短いサイクルで連射されるヘビーカノンは、威力はもちろん速射性能で上回っている。
この新兵装を搭載した『ネフリティス』は、軽巡には難敵だった魔法文明重巡を相手にしても互角以上に立ち回れる火力を獲得したのだ。
『敵クルーザー、撃沈!』
シェイプシフター砲術長の報告に、艦長を務めるディーシー2――略してディーツーは、キャプテンシートで頷いた。
「次の目標の選定は任せる。私に楽をさせてくれ」
『アイ、マム』
それでなくても――ディーツーは、口元を歪めた。
シップコアをダンジョンコア用にセッティングした当艦は、ディーツーの魔力により機関出力や防御シールドの強度が強化されている。
投入魔力で強くなる……。言ってみれば、アンバル級の姿をした魔神機のようなものだ。
ジンの中ではわずか数日だが、ディーシー側からすれば三年の月日が流れている。当然、兵器も進化していた。
先ほどから、多数の敵艦を相手取っている『ネフリティス』は、六基ある主砲を別個の敵クルーザーに向けていた。それでも連装砲一基で、一隻の敵を牽制ないし打撃を与えられる強力なヘビーカノンゆえではあるが。
『敵フリゲート四隻撃沈! しかし、飛行クジラ群、上方より急接近! 速い!』
「高速型か。これは私が引き受ける」
アンバル級のVLS――垂直発射口が開き、対艦ミサイルが八発発射される。
「魔力生成ミサイルだ。存分に喰らえ!」
独自に武器製造ができるディーシー、そのコピーコアを制御しているのだ。魔力がある限り、無尽蔵にミサイルを放てる。
連続したミサイルの斉射に、飛行クジラ群はたちまち全滅する。
「
自分で索敵できるディーツーだが、艦の制御だったりに魔力を集中するために、任せられる部分はシェイプシフター兵に任せる。
『シズネ1、シズネ3が健在。他は反応なし』
ディーツーは眉をひそめる。
「『ネフリティス』他二隻のみか……」
二隻のシズネ級ミサイル艇は、『ネフリティス』の両舷後方について、随伴している。速度自体は問題ないが、なにぶん装甲が薄い。
しかし搭乗している白エルフたちは、必死に『ネフリティス』の護衛を続けている。12.7センチプラズマカノンと小粒ながら、飛行クジラやフリゲートを迎撃している。
『艦長、正面より敵戦艦二隻!』
「新手の戦艦か。さすがにこいつらは厄介だな」
敵地だけあって、新生アポリト軍はどんどん戦力を送り込める。その気になれば、今まで戦っていた艦艇の十数倍の戦力を投入可能なのだ。
――まあ、その気になれば戦力を投入可能なのは、こちらも同じなのだがね。
ディーツーは、ひとりほくそ笑む。シェイプシフター砲術長が振り返った。
『艦長、主砲を向けますか?』
「いや、ここは転移でご退場願おう」
ダンジョンコア特有のテリトリー内転移魔法陣。それを活用すれば、クラスが格上の艦艇にも対抗できるのだ。
――そうそう、この辺りで戦う限りは、全部、私のテリトリーなのだ。
ディーツーは、接近しつつある二隻のインスィー級戦艦に対して魔力を伸ばし……。
「ああ、そうだ。何も二隻を飛ばす必要はないか」
一隻を転移魔法陣に突っ込ませて。
「出口を、もう一隻の目の前にしてやれば……」
インスィー級戦艦の一隻がもう一隻に真横から突っ込んで――激突!
艦体に突き刺さり、装甲をえぐり、内部の機械をグチャグチャにして爆発する。
『敵戦艦二隻、轟沈!』
「よし、魔力消滅装置が発動するまで、我が戦隊は敵艦艇を足止めする!」
ディーツーは宣言するように言った後、レーダー手に視線を向けた。
「航空戦のほうはどうなっているか?」
『現在、二十機ほどが敵戦闘機と交戦中』
航空隊、いまだ奮戦中。数では圧倒的に劣勢である反乱軍航空隊が、なおも戦闘を継続している。
一騎当千、歴戦のパイロット揃い……というわけではない。
・ ・ ・
『ゲイル、後ろに敵機だ!』
トロヴァオン戦闘機の後方に、新生アポリト軍のラロス戦闘機が二機、食らいついてくる。
フットペダルを蹴り、操縦桿を捻れば、トロヴァオン戦闘機は敵の放つ黄色い魔法弾を回避。さらに急旋回を決めて、追っ手の背後に回り込んだ。
ディスプレイの照準線に二機のうち後ろのラロス戦闘機を捉え、ゲイルはトリガーを引いた。トロヴァオン戦闘機のプラズマカノンが青い光弾を放ち、その一機を撃墜した。
「くそっ、まわりは敵だらけだ!」
反乱軍パイロットであるゲイルは、思わず声を上げた。アポリト島上空は、少数の反乱軍機と多数のアポリト軍機のドッグファイトが繰り広げられていた。
ラロス戦闘機もブラックバットも、とにかく数が多い。敵機を撃墜している間に、ゲイル機に迫っていた別の機体が、ファルケ戦闘機によって撃墜されていく。
――誰だか知らんがありがとう!
ゲイルは、歴戦のパイロットだ。まだ二十歳で三年前の反乱軍結成時は、新人パイロットだった。
だが航空隊では、もはや古参の部類に入っている。あの頃からの生き残りで、いまだパイロットなのは、最古参の者も入れて三人しかいない。
ゆえに、後から入ったパイロット連中の顔はだいたい知っているのだが、そんな彼は戦いの中、違和感を感じていた。
航空戦序盤に、割と味方機は撃墜された。やはり飛行時間が二桁の新人に決戦の空は厳しかったのだろう。ベテラン勢でも何人か落とされ、このまま数で押しつぶされるだろうという嫌な予想はついていた。
にも関わらず、航空戦はまだ続いている。数で不利なのは変わらないが、ゲイルは味方航空機はすでに『五十機以上がやられている』という感覚があった。
しかし味方機は、常に二十機近くが戦場にいる。
「クサントン、駄目だ! そっちは――」
また一機、仲間のトロヴァオン戦闘機が火だるまになって墜落した。怒りが込み上げる中、ベテランパイロットとして冷静な部分がささやく。
――俺の知っているパイロットは、あと何人残っているのか?
ここは、すでにゲイルの知らない友軍機パイロットが多く飛んでいる空となっていた。
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