第1054話、奮闘する者たち
ディニのリダラ・バーン、エリシャのリダラ・ドゥブは迫り来る新生アポリト軍の兵器を撃破しつつ、改造クルーザーを守っていた。
敵地だ――ディニは、目の前に迫っていた吸血鬼魔人機『ナイト』をリダラ・バーンのホーリーブレードで両断した。
空から舞い降りる
だがリダラ・バーンも飛行が可能な魔神機だ。白き騎士が空を駆け、魔を打ち倒す。
「ここから先は通さない!」
その後ろには、沈黙する改造クルーザー。その中の魔力消失装置が動けば、形勢は逆転する。
それまでは、ここを死守する!
ディニは徐々に消耗しているのを感じながらも、なお奮起した。伊達に十二騎士ナンバー2ではない。
「エリシャ、そっちは!?」
『いま、忙しい!』
威勢のいい声が返ってきた。ディニのリダラ・バーンが戦う反対側では、エリシャのリダラ・ドゥブが、やはり敵の侵攻を阻んでいた。
『魔力消失装置は!? 魔力消失装置はまだ動かないの!?』
「割と、手を貸さないとやばい感じ?」
飛び込んできたナイトを切り捨てつつ、ディニは確認する。
『別にあなたの手を借りるまではないわ! それに、こっちへ来たら、そっちの守りはどうなるのよ?』
「そういうこと。だから頑張って!」
『頑張ってるわよ! あなたも死なない程度に奮戦しなさい!』
しかし新生アポリト軍も次々に侵入者を排除しようと集まってくる。ケローネ四脚型自動戦車が、這い回る虫の如くやってきて搭載している魔法砲を撃ってくる。
遠目からだと、巨大な筒を背負ったカメのように見えるケローネ戦車は、目のように見える魔法砲のほか、背負っている筒状の大型魔法砲を武器とする。
この大型魔法砲が馬鹿にならない。直撃すればシールドのエネルギーが削られる上に、連続して被弾すれば魔神機とて危ない。
――これはよくないな……。
リダラ・バーンは肩の魔法砲で、遠距離の戦車を叩くが、リダラ系は近接戦向けの騎士型。射撃戦はどちらかと言えば苦手だ。
数で押されると、こちらがやられるばかりか、守るべき改造クルーザーも危ない。
――切り札を、使うか?
踏み込んでくるナイトを排除しながら、ディニは目まぐるしく思考を働かせる。
リダラ・バーンのフル・オープンモードであれば、光の速さで距離を詰めて、遠距離の敵も『近接して』一掃できる。
ただし、その魔力の消費は凄まじく、適性のある操者が操っても、ほぼガス欠状態となってしまう。
つまり、目の前の集団を片付けられても、次の集団のおかわりがあれば、もはや止める手段がなくなる。
そしてここは敵地であり、増援は限りはあれどドンドン投入可能だろう。つまり、切り札を使うのは、魔力消失装置が発動する少し前あたりが理想である。
が、その装置の発動がまったくわからず、また本当に発動するかも今では怪しい。
「さすがに二機ではしんどい……」
ディニはその美麗な表情を歪めた時、敵後方のケローネ戦車が複数吹き飛んだ。
『アグノス、バルディア!』
「ゴールティン隊長!」
レアヴロード・カスタムと近衛のリダラ・ガルダ、エルフたちのリダラ・グラス改が駆けつけたのだ。
それぞれの魔人機は携帯するマギアライフルやマシンガンなどを撃ちながら、戦車やナイトを撃破していく。
『間に合ってよかった……!』
ゴールティンのレアヴロードが、ディニのリダラ・バーンのもとへと降り立つ。
『とはいえ、敵が集中してくるのは時間の問題だ。魔力消失装置のほうはどうなっている?』
「現状は不明です」
ディニは報告した。
「通信が
周りは敵だらけだ。
『誰かを、艦内によこす必要があるということか……!』
『ならば、わたしが行きます!』
志願者が現れた。この声は、確かジンの保護していた少女の――
「イオン?」
『はい! わたし、見てきます! 魔力消失装置にはアレティ姉がいるので!』
まだ十代の少女のはずだ。魔人機の扱いには長けるが――心配して止めようと思ったディニだったが……。
『わかった。中の様子を見て報告してくれ。魔力消失装置の状態もだ』
ゴールティンが先に指示を出した。
『他の者は、絶対に敵をここから通すな!』
イオンという少女の安全のためにも、それがベストかもしれない、とディニは思った。
セア・ラヴァ改から、パイロットスーツ姿の少女が降りて、外部ハッチから艦内へと入っていく。
『頼んだぞ』
ゴールティンの声が魔力通信機から聞こえた。
『我々の命運は、あの少女と魔力消失装置に掛かっている』
・ ・ ・
反乱軍艦隊は激戦を展開していた。
女帝座乗の戦艦『アンドレイヤー』は巨人機『ピレトス』のドラコーン・カノニの攻撃による被弾で機関に異常が出ていた。旗艦を守るフリゲートらと共に、よたよたと改造クルーザーのほうへ移動する。
一方、島の外へ離脱したインスィー級戦艦『パトリオティス』とアンバル級軽巡洋艦、シズネ級ミサイル艇は、旗艦の後方を脅かすべく迫る新生アポリト艦隊へ突撃を敢行した。
『パトリオティス』は新生アポリト軍のクルーザーを主砲にて沈めるが、その巨体ゆえ、敵からの集中砲火を浴びていた。
防御シールドはすでになかった。艦体の至る所から火の手を上げつつも、果敢に敵艦の懐に飛び込み、剣士が剣で敵を両断するが如く、近接射撃の一撃で撃破していく。
戦艦でありながら、鬼気迫るものがあった。ひたすら敵へと艦首を向ける。全身傷つき、血に塗れながらも、ただひたすら敵を求める戦士のように。
「敵戦艦、接近!」
「砲撃、来ますッ!!」
『パトリオティス』が、新生アポリト軍のインスィー級戦艦の主砲の直撃に揺れた。
「右舷機関、損傷!」
「隔壁閉鎖!」
爆発が連続し、『パトリオティス』の速度と高度が下がるのが艦橋にいてもわかる。
「まだだーっ! まだ沈んではならん! 主砲が撃てる限りは!」
艦長がキャプテンシートを掴み、衝撃に耐えながら叫んだ。さらなる振動が艦を襲う。
艦首の甲板が吹き飛び、魔法砲がはじけ飛ぶ。
「アルファ、ベータ砲使用不能!」
「本艦をぶつけろ!」
満身創痍の『パトリオティス』が敵戦艦に突進する。敵艦は取り舵を取り、回避行動を取りつつ、主砲を発砲。『パトリオティス』の艦橋を吹き飛ばし、艦長以下を爆殺した。
だが『パトリオティス』の突進は止まらず、敵インスィー級戦艦の後部に艦首から突っ込み大爆発と共に道連れにしたのだった。
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