第1053話、悪夢の再会


 かつての帝国城――バシレウス・ブリコラカス城へと改名、改築された居城で、タルギア皇帝は、反乱軍艦隊とそれを迎え撃つ新生アポリト軍の戦いを観戦していた。


「我に逆らう愚か者どもめ」


 大モニターに映し出される戦闘の様子に、皇帝は不敵な笑みを浮かべた。


「よくもまあ、本土に乗り込んだものだ」


 すでに反乱軍艦艇は十を切った。新生アポリト軍の飛行クジラ、戦闘艦艇群が、残存艦を始末しようと出撃、集まりつつある。

 元より数では圧倒的な差があるのだ。タルギアは余裕を持って戦場を、ショーのごとく見下ろすことができた。


「所詮は、最後の悪あがきか」


 五号浮遊島に乗り込んだ艦隊、そのうち墜落した一隻のクルーザーが突出した格好になっている。


「……?」


 反乱軍の魔人機が、墜落した艦に集まりつつあった。その奇妙な動きに、タルギアは眉をひそめる。

 何か企んでいるのか。――いや。


「巨人機が始末してくれよう」


 その巨人機は、すでに敵戦艦一隻を轟沈させている。強力なドラコーン・カノニの破壊力に、タルギアは満足していた。

 そして巨人機――『ピレトス』は、反乱軍の魔人機と交戦している。

 戦っているのは、ジン・アミウールの魔人機『タイラント』。


「あの裏切り者め……」


 反乱軍の戦力として、同軍を支えていた機体だ。その存在なくば、当に反乱軍は壊滅していたに違いないと、タルギアは思っている。


「ピレトスよ。ここを奴の墓場としてやるのだ!」



  ・  ・  ・



 巨大魔人機――略して巨人機と呼ぶか。それが放つ魔弾をかいくぐりつつ、俺はタイラントを機動させていた。

 地上に降りて、浮遊島の平原を滑るように走らせる。巨人機はその巨体ゆえ、地上で高速機動をしている相手に追従するのは困難なようだった。


「でかいってのは、考えものだよなぁ!」


 プラズマビームライフルを撃ち込むが、あくまで牽制だ。何せ巨人機の防御障壁と装甲が、今のところこちらの攻撃を全てシャットアウトしている。


「まあ、あの対艦砲は使えないようだがな」


 インスィー級戦艦を撃沈したあの強力な砲は、小回りが効く魔人機には照準をつけにくいようだ。

 絶えず後ろへ回り込もうとするタイラントには、砲口を向けることすら叶わない。


『それにしても堅いな!』


 ベルナルドこと、ベルさんのレアヴロードが反対側から仕掛け、巨人機の注意を分散させる。


『魔人機でやるのはハンデなんだよな。それでやらなきゃならないのが魔王様の辛いところよ』


 まあ、やるんだがね――レアヴロードが肉薄する。巨人機の胴体に魔力収束パンチをぶちかます。

 本当なら、そんな挙動をすれば魔人機のマニピュレーターがイカれるのだが、ベルさんの魔力が作り出した壁が自壊を防ぐ。


 魔力収束パンチで、巨人機のその巨体がズンと持ち上がった。重量差を考えても、その威力の凄まじさがわかる。


『そうれ、もう一丁!』


 レアヴロードの拳が、再度、巨人機を後退させる。


『ジン!』

「あいよ!」


 俺はタイラントを加速させて、ベルさんのレアヴロードが打撃と共に弱らせた防御障壁の隙をついて巨人機に取りつく。


「外が駄目なら、中から吹っ飛ばせってね!」


 解体、砕けろよっ! タイラントの腕から魔法が放たれる。それは内部からメカを解体する。魔力が巨人機の内部を駆け巡り、その部品を解体していく。

 それがわずか一、二秒の間に起きるので、まるでタイラントが殴ったことで十数枚重ねの瓦が割れるか如く、巨人機がバラバラになった。


「一丁上がり!」


 巨人機は、砕けて部品が散らばる。と、その中に、パイロットらしいシルエットがあって、モニターごしに俺の視界に入った。


『母チャンヲ……母チャンヲ――』


 ゾクリと俺の背筋に冷たいものが走った。何故ならその人間は上半身だけ吹っ飛んでいたが、いつか見たアンバンサーの改造人間だったから。

 機械と死体を組み合わせた異星人のアンデッド兵器。何故、魔法文明時代に、アンバンサーの改造人間が――だがそれを考える前に、俺は心底言葉を失った。

 その人間は、かつてアミウール戦隊にいて俺の従騎士にもなったブルだったのだ。


「なんで、お前が――」


 ディーシーから聞いたブルは、アディスホーラー戦の後、反乱軍に属して戦い、未帰還になった。

 戦死扱いだったが、生きていたというのか。新生アポリト軍は捕らえた人間を、アンバンサー技術の改造人間兵器にしたということなのか……?


 ここでもあの異星人の遺産が……!

 解体魔法は、機械の部品も混じっているブルだったものの命脈を断った。


『吸血鬼どもめ』


 ディーシーが発言した。


『あれは異星人の技術だろう。死体を動かすゾンビ兵器だ。奴らはブルの死体を利用して作り上げたのだ』


 許せないな、とディーシーは吐き捨てた。


『反乱軍で去年まで戦った仲間をあのような姿にするとは……』


 この時代に残ったことで、俺よりも付き合いが長いディーシーは、ダンジョンコアロッドの姿であっても悲しみと憤りを滲ませた。


『これはより負けられないな』


 ディーシーは強く言った。


『ここで死んだ反乱軍の者たちをゾンビ兵器として利用されるなどという行為は許容できん』

「まったく同感だ」


 かつての戦友を失った悲しみは、敵への怒りへと転化した。


「許せないよなぁ……!」

『ま、オレたちは勝つんだけどな』


 ベルさんがクールぶって言った。


 戦闘は続く。

 魔力消失装置を搭載した改造クルーザー『グラウクス』の周りは、押し寄せる新生アポリト軍の吸血鬼兵器と、反乱軍機による攻防が繰り広げられていた。

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