第1052話、不時着、グラウクス


 紫の光が戦艦を撃沈した。

 その威力に、俺は驚いた。帝国城に、そんな強力な要塞砲が設置されたのか?


『気をつけろ、主!』


 ディーシーが警告の声を発した。


『帝国城の上に、未確認の機体だ。その周りに魔力の収束が見られる! また撃ってくる!』


 くそっ、あんなもん直撃を受けたら、戦艦はもちろん改造クルーザーも危ないぞ。


「こちらタイラント。敵に第二射の兆候ちょうこうだ! 全艦回避行動!」

『来るぞ!』


 ディーシーの声。直後、またも紫の輝きが放たれた。それは反乱軍艦隊に伸びた。

 回避――間に合うか!?


 遅まきながら、艦隊が回避機動を取り出した。その光は、旗艦『アンドレイヤー』の左舷の張り出しを両断し、左舷エンジンを吹き飛ばした。

 さらに後続する改造クルーザー『グラウクス』の右舷シールドとそれに隣接する右舷エンジンブロックを融解させた。


 被弾部が爆発。『グラウクス』が高度を落とし、墜落――するかに見えたが、浮遊島に差し掛かったことで、その地表に滑るようにぶつかった。

 予定では減速をかけて、ソフトなランディングの予定だった。だが減速前の被弾、急な軌道変更が全てを狂わせた。


『グラウクス』の艦体が跳ね、速度を落とさないまま浮遊島の奥へと突き進んだ。障害物のほどんどない平原でバウンドしたのがいけなかったか、まるで『水面を水切りして飛ぶ』のようにヘビークルーザーは世界樹のある根元――その近くにあった町の近くでようやく停止した。


「……爆発はしなかったけど」


 大丈夫なのか、あれは? 俺はタイラントを世界樹へと向ける。よりにもよって本島に近い場所に改造クルーザーが落ちるとは……。

 何にせよ、魔力消失装置が発動すればそれで終わりなのだが、飛翔する敵の姿を見るにまだ動いていないようだ。


「まさか、今ので故障したとかないよな……?」


 歴史の流れでは、魔力消失装置が発動する。もしトラブったら、歴史通りに進ませるために、俺たちで何とかするしかなくなる!

 通信機が先ほどから『グラウクス』を呼び出すもので溢れている。しかし応答がない。通信設備がやられたか、乗員らがあのハードランディングで死傷者だらけになっている可能性もある。


『「アンドレイヤー」より、各航空機、魔人機部隊へ』


 旗艦からの通信が入る。


『「グラウクス」を死守せよ。繰り返す、「グラウクス」を死守せよ。魔力消失装置が作動するまで、敵の侵攻を阻め!』


 そうするしかないよな……!


 俺がタイラントで向かうのと同じように、ベルさんが操るレアヴロード、ニムたちエルフ兵のリダラ・グラス改が動く。


 艦隊の残存艦は、二手に分かれた。さらに危険な奥へと進む艦と、反転する艦。旗艦『アンドレイヤー』は奥へ、残るもう一隻のインスィー級戦艦とアンバル級軽巡以下などは、後ろから迫る飛行クジラや新生アポリト軍の艦艇を迎え撃つ構えを取った。


 戦力差は絶望的。長くなれば長くなるほど、反乱軍は窮地に陥る。


「まったく、さっさとやらないとマジでやばいぞ……」


 このアポリト浮遊島にいる吸血鬼軍が集まってきてしまう。転移で距離を詰め、電撃的に急所をついたのに、トドメが刺せないなんてナンセンスだ。


「確か、『グラウクス』の直掩には、ディニとエリシャがついていたな……」


 魔神機リダラ・バーン、リダラ・ドゥブの白、黒騎士コンビだ。未来で発見された時、アレティの魔力消失装置のあった廃墟艦の近くで二機が発掘された。……まさかまだくたばってないよな!?


『主、第三射だ!』


 ディーシーが報せた直後、紫の一閃がよぎり、俺はとっさに機体を横滑りさせた。


「意外と近かった!」


 だが避けられなかったリダラ・グラス改が一機、吹き飛んだ。


「くそっ。……あの上から撃ってる奴が厄介だな! あれは何だ?」

『魔人機……よりもサイズが大きいな。こんな機体は今まで確認されていない!』


 ここにきて、タルギア皇帝は新兵器を送り出してきたらしい。魔人機よりも大きいとは、巨大人型兵器ってことか?

 とりあえず、その厄介な奴から始末をつけるか。


「俺とベル……ナルドで、例の光線を撃ってくる奴を仕留める。残りの者は『グラウクス』へ急行しろ!」

『おう!』


 ベルさん、ここではベルナルドって名前なのだが、慣れないなこれ。


『了解です!』


 他の機体が改造クルーザーへ向かう中、俺のタイラントとベルさんのレアヴロードが本島方向へ飛ぶ。通信機ではなく、念話でベルさんに呼びかける。


『その新型、使い勝手はどうだ?』

『普通の魔人機より、性能はよさそうだが……』


 少々不満げな声が返ってくる。


『オレの改造機の足元にも及ばんな。改造していいか?』

『ご自由に。どうせ終わったら、元の時代に戻るんだ』


 その間にも未確認機が接近する。さらに護衛機も少数。――ディーシーの記録によれば、反乱軍からは『ナイト』と呼称される吸血鬼側の騎士型メカだ。背中に悪魔のような翼を持つ、空中戦にも対応したやつだ。


『でもまあ、コイツの本領が魔法ってのは、割と悪くねえな!』


 ベルさんの操るレアヴロードが腕を、敵機へと向ける。さながら魔術師が魔法で敵を狙うが如くの動作。ライトニングの魔法が連続で放たれ、ナイトを瞬く間に三機、撃墜する。


『いい調子だ』


 さすがベルさん。

 さて未確認機だが――リダラタイプの魔人機に似た頭部形状をしている。肩が機体サイズに対して異様に大きく、腕もまた丸太のように太い。下半身もがっちりしているが、何より目立つのは背中に背負っている大型の装備。二つの打ち上げロケットのような形をした巨大なパーツ。さらに亀の甲羅のような装甲が左右に伸びていてそれ自体、魔人機サイズ並の大きさがあった。


 色は、全身紫系のカラーだ。重装甲人型メカ、と言ったところか。

 フン、とベルさんが鼻で笑った。


『ずいぶんとズングリしてやがんな』

「固そうだが、あまり素早くなさそうだな」


 俺の初見の感想はそれだ。……というところで、巨大機の胸元に紫色の光が溢れる。


「またあれを撃ってくるか!」


 先制の一撃が放たれた。くるとわかってりゃ避けるのも造作もない、さ!

 俺は回避と同時にお返しの一撃――両肩のプラズマキヤノンを発射した。光弾は確実に、巨大機の胸部を捉えたが、直撃の瞬間、防御障壁によって弾かれてしまった。


『へ、面の皮は厚そうだ!』


 ベルさんのレアヴロードが、マギアランチャーを撃ち込んだ。同ランチャーにしてはやたら強い光の弾は、おそらくベルさんが自身の魔力でブーストさせたものだろう。

 だが、これもまた巨大機は無効化した。


 巨大機が両腕をこちらに向ける。すると拡散型の光弾が連続して発射された。

 スラスターを噴かして回避。タイラントとレアヴロードは、光の散弾の網を何とかかいくぐった。


『くっそ、めんどくせぇ!』


 ベルさんが吼えた

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