第1051話、本島攻略戦


 アポリト浮遊島。アポリト帝国の誇る超巨大浮遊島であり、中央島を八つの世界樹付きの島が囲む。

 今では、大公から皇帝を自称するタルギアが支配する吸血鬼の島と化している。


 その正面空域。突如、光のリングが無数に現れ、空間が歪んだ。そこから飛び出すは全長250メートルのインスィー級戦艦、全長200メートルのコサンタ級ヘビークルーザーほか、フリゲート、コンカス級空母、アンバル級ライトクルーザーに、シズネ級ミサイル艇。

 そしてトロヴァオン、ファルケといった各戦闘機。


 18隻の艦艇、48機の航空機が、巨大浮遊島へ一直線に向かう。

 旗艦『アンドレイヤー』の艦橋でメギス艦長は声を張り上げた。


「索敵、報告せよ!」

「魔力レーダー、方位3-3-0に敵艦艇を捕捉。クルーザー4、哨戒部隊の模様!」

「方位0-5-0に飛行クジラ群。およそ二〇! 針路変更、当艦隊に向かってきます!」

「敵さん、反応が早いな」


 メギス艦長は右手を振り上げた。


「全艦、突撃隊形を維持しつつ、直進! 島に取り付く!」


 もっとも近いのは五号浮遊島である。艦隊は速度を上げる。


「全艦へ、『グラウクス』を死守せよ! 死んでも守れ!」


 改造クルーザー『グラウクス』。かつてアミウール戦隊に所属し、現存する最後のヘビークルーザーだ。反乱軍に籍を置いて戦ったが、大きな損傷を受け、大改装を受けた。

 アレティを収容した魔力消失装置は『グラウクス』にあった。


「島より多数の迎撃機が飛翔!」


 レーダー士が報告する。


「機種、ブラッディバットです!」


 新生アポリト帝国軍の生体兵器――要するに吸血鬼側の戦闘兵器だ。コウモリ型のその機体は小型で軽量。対空、対地、対艦攻撃をそつなくこなす汎用性を持つ。

 なお性能自体は、反乱軍戦闘機のほうが勝っている。厄介なのは、質ではなく、その数の多さである。

 魔力レーダーには、雲霞うんかの如く押し寄せるブラッディバットが表示される。


「迎え撃て!」


 反乱軍戦闘機隊が、ただちに迎撃に当たる。ブラズマ弾や空対空ミサイルが放たれ、コウモリ型兵器を撃ち抜き、撃墜していく。

 その貧弱な装甲は、二〇ミリ機関砲でも充分に引き裂けるほどで、貫通したブラズマ弾が、後続機を引っかけてさらに撃墜するというラッキーな事態も引き起こした。


 逆にいえば、それだけブラッディバットが密集する大群であるとも言える。

 ブラッディバットの胴体に装備された魔法機関銃が、針のような光弾を吐き出す。密集からの光弾は、さながら雨のような弾幕となり数機の反乱軍戦闘機を絡め捕った。


 防御シールドが耐えた機もあったが、あまりに連続して被弾したためにシールドのエネルギーが切れ、被弾、爆発する機体もあった。

 インスィー級戦艦の30センチ魔法主砲が光を放つ。コサンタ級ヘビークルーザーも22センチ魔法主砲で、密集しながら飛来するコウモリ型兵器をまとめて吹き飛ばす。

 一撃で複数機が爆散するさまは、本来なら喜ぶべきことだが、あまりに敵機が多すぎて焼け石に水だった。


 数で押すブラッディバットの大群が、反乱軍艦隊に襲いかかる。間近まで飛来して魔法機関銃を撃ち込んだり、小型爆弾を投下する。艦艇の防御シールドがそれを阻止するが、やはり数の猛攻によってシールドが削られていく。


「重巡『ティケー』損傷、速度低下!」

「フリゲート『ケラス』、爆沈!!」


 艦隊の被害報告が、艦橋に響く。


「空母『メントル』被弾!」


 艦隊唯一の空母が飛行甲板から火の手を上げていた。さらに格納庫部分が吹き飛び、その炎は艦全体に拡がっていく。

 誰がどう見ても、数分以内に沈むのは確定的だった。


「ミサイル艇『ガロプラ』、被弾。戦列を離れる!」


 相次ぐ損害。メギス艦長は肘かけを握りしめる。旗艦『アンドレイヤー』にも敵の攻撃が連続するが、すべてシールドが防いでいる。ゴリゴリ削られているが……。


 ――だが、浮遊島はすぐそこだ……!


 五号浮遊島が眼前にあるのだ。あと一分もあれば――


「艦隊は、結界シールドに差し掛かります!」


 結界水晶――アポリト浮遊島は外敵からの攻撃を防ぐ結界に守られている。


 本来なら、敵が侵入しようものなら、この結界によって防がれ、逆にやられてしまう。だがアポリト軍の艦艇は、その艦体に結界通過用のコーティングが施されている。

 つまり、反乱軍艦隊は、この浮遊島の防御をすり抜けることができるのだ。


 なお、このコーティングは、ウィリディス戦闘機やアンバル級軽巡、シズネ級ミサイル艇にも施してあり、全艦が結界を突破できるようになっている。結界があるのがわかっているのだから、対策するのは当然である。


 反乱軍艦隊は、次々と結界を越える。その間にもブラッディバットが艦隊や航空隊にじわじわとダメージを与え、その数を減らしていく。


「結界を通過!」

「よおし、魔人機部隊を出せ! 島は目の前だ!


 メギス艦長の指示が飛び、魔人機を収容していた戦艦、重巡から艦載機が展開した。



  ・  ・  ・



 ようやく出番だ。俺はタイラントを、旗艦の右舷カタパルトより発艦させた。飛行型の機体とはいえ、空中戦では航空機が相手というのは分が悪い――ということで、ギリギリまで待機していたわけだが。


 プラズマビームライフルで、接近するブラッディバットを撃ち落とす。……数が多いな、この野郎。

 両肩のシールドブラズマキヤノンを向かってくる敵集団に指向。同時に腰部、脚部のマルチキューブを拡散モードにセット。


「くらえよっ!」


 一斉発射。強烈なるプラズマ弾と散弾となった魔法弾がシャワーの如く、飛来したコウモリどもを、まとめて掃除する。


「シールドも装甲もない機体など……!」


 武装をライフルから、魔力換装でマルチマギアランチャーに切り替える。戦艦主砲にも匹敵する魔法弾を放射。光の剣で斬るが如く十数機を光の藻屑へと変えた。


『さすがだな、ジン』


 レアヴロード――タイラントに似た反乱軍魔人機が前に出る。リダラ・ダーハカラーはゴールティンの機体だ。

 マギアビームライフルに加え、シールドビットを展開して、ブラッディバットを蹴散けちらしていく。


 子供たちのセア・ラヴァ改、リダラ・ゴルム改、レアヴロード、エルフたちのリダラ・グラス改が戦闘に加わり、艦隊の進路を切り開いていく。

 艦隊が――アレティの魔力消失装置を乗せたクルーザーが、島に到達するまであとわずかだ。


 その時、アポリト中央島の帝国城から、紫の閃光が走った。

 光は、旗艦の右前方を進んでいたインスィー級戦艦、その装甲を真っ二つに引き裂き、続いて、その艦体を爆発させた。


 戦艦が、たった一撃で轟沈したのだ! 敵さんも、簡単にこちらを上陸させるつもりはないようだ。

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