第1050話、最後の団らん
反乱軍秘密拠点から、次々と戦闘機が飛び上がる。
ファルケ、トロヴァオン、タロン、イール、そして旧アポリト軍カラーのラロス戦闘機。それら雑多な航空機が地上から浮かび上がると順次エンジンを噴かして、空へと
続いて反乱軍艦艇が飛行し、艦隊を形成する。
陽光を浴びて、残存反乱軍は征く。これまでの激戦で戦力を失い、もはや後がない。
旗艦『アンドレイヤー』には女帝ヴァリサが座乗し、決戦に臨む。
『こちらフリゲート「カルコス」。我、機関不調。艦隊に随伴できず』
うっすらと煙を引き、フリゲートが一隻脱落する。
旗艦の艦橋にいたヴァリサは、通信士に言った。
「『カルコス』に打電。基地に引き返すように」
はっ――通信士が女帝の命令を伝える中、艦長席のメギス艦長は軍帽を被り直した。
「無念でしょうな……。私の記憶違いでなければ『カルコス』はここ四年、常に前線にあった歴戦の艦だったはず」
「ええ、かなり無理を重ねてきました。これまでご苦労さまでした』
そっと敬礼するヴァリサに、メギス艦長もそれにならい、落伍していくフリゲートのほうに敬礼した。
「不吉な予兆でなければいいのですが――」
メギス艦長は複雑な表情を浮かべる。ヴァリサが司令官席から振り向けば、艦長は肩をすくめた。
「『カルコス』は幸運艦と兵たちから呼ばれていましたから」
あの脱落は不運ではなく、あの艦最後の幸運の発揮だったのではないか。つまりこれから戦いに赴く全艦が還れないのではないか、と。
反乱軍の艦艇で、今も残っている艦艇のその大半は歴戦の艦艇だ。だが戦いの中、大きな損傷を受けた艦も多く、中には大破艦の無事な部分を切断し繋げて再生した艦もある。
そんな中、とりわけ『カルコス』は被弾らしい被弾もなく、これまで生き延びた。
だがそれがいけなかった。損傷艦の修理が優先された結果、船体や機関にガタがきていたのだ。
ともあれ、18隻となった反乱軍艦隊は、アポリト浮遊島を目指し進撃するのだった。
・ ・ ・
『父さん、この戦いが終わったら――』
「やめろ、リノン。そういうのはフラグと言うんだ。前に教えなかったか?」
『えー、聞いてないよ』
タイラントのコクピットで待機している俺。先ほどから通信機は、プライベートチャンネルを用いた家族会議、もとい団らんの場を化していた。
魔法人形として育てられ、俺が保護した子供たち。今回の決戦に参加するのは、心を病んでしまったパルナ以外の四人。
アレティが、すでに改造クルーザーの魔力消失装置に組み込まれていた。……声をかけたかったが、すでに昨日からカプセルの中なので面会もままならなかった。次に会うときは未来だ。
最年長の17歳のリノン、13歳になったイオン。この女子二人は手足を実験で奪われ、シェイプシフター義手義足の治療を受けた共通点があったりする。
残る二人はロンとクロウの男子コンビ。……ただし、ロンはこの決戦で被弾し、重傷を負って未来に転移することになるだろう。
『それでね、私、ゲイルに告白されて――』
「誰だよ、ゲイルって?」
いつの間にか、恋愛をしていたらしいリノンに、思わず突っ込む俺。お父さんは聞いてないぞ!
『元アポリト軍のパイロットだよー』
『あー、あの背の高い人?』
イオンが口を挟む。
『この間、クロウが殴った人?』
え、何それ、クロウ、リノンの恋人らしい野郎をぶん殴ったのか。皆のお姉さんに、手を出そうとした輩を成敗しようとしたのか。状況はわからないが、とりあえず――
「よくやった、クロウ」
『なんでよー、お父さん。そんな悪い人じゃないってば』
久しぶりに会った娘は、ずいぶんとフランクな喋り方をするようになっていた。三年の間の変化といえばそうなのだが、いったい何があったんだ。嬉しいような、寂しいような。
『それでね、私、ゲイルにこの戦いが終わったら結婚しようって――』
「ああああーっ!」
俺は耳を塞いだ。聞きたくない、聞きたくなかった、決戦前の死亡フラグ!
この時代に残って戦後を迎えられない俺には、娘の幸せを見守ることもできないというのに。
……ロンは転移するだろうが、残りの三人はこの決戦を生き延びてほしい。不参加であるパルナも含めて、末永く幸せであってほしかった。
ぶっちゃけ、ロン以外は全員生き残ると思っていた俺だが、そういえば決戦の終わった時点で生存当確者はいないことに気づいた。転移の指輪が間に合わず戦死というパターンもあるのだ。
決戦で反乱軍が勝利する未来を勝ち取るとはいえ、彼女たちがそのまま生き残るという保証はない。
仮に生存したとしても、魔法文明の崩壊と共に残った人類には過酷な生活が待っているだろう。
だが、それでも個々の幸せを願わずにはいられない。
『アミウール団長』
通信機から、通信士官の声が入った。俺は子供たちに告げた。
「よし、プライベートチャンネルはおしまいだ。全員、生きて帰れよ。でないとお父さん、泣いちゃうからな」
俺はチャンネルを切り替える。
『作戦予定地点に間もなく到着です。ディーシー様には準備をお願いいたします』
「了解した。……ディーシー、いいな?」
『ああ、きちんとデータはトレースしている』
タイラントのコクピット内専用ソケットに収まっているディーシーである。ダンジョンコアモードの彼女だが、元の時代に帰る時は一緒だぞ。
『ジン、私です、ヴァリサです』
「陛下」
通信機から聞こえたヴァリサの声に、一瞬背筋が伸びた。
『いよいよ決戦です。勝って、
「了解。……お守りは持っているね?」
凱旋の時には、俺もヴァリサもこの時代にはいない。未来で再会のはずだ。転移の指輪はちゃんと着けているだろうが、確認せずにはいられなかった。
『ええ、持っています』
なら、安心だ。俺はひとり安堵した。
「いざという時は使えよ。そこで待っているからさ」
『おかしなことを言うのですね』
通信機から聞こえるヴァリサの声には、意味がわからないという成分が幾分か含まれていた。
『覚えておきます』
「俺もいざという時は使うからさ」
ここまで言っておけば、彼女は間違いなく、転移の指輪を使うだろう。
「わかりました。御武運を。ディーシー様、よろしくお願いします」
『心得た。すでに道は作ってある。艦隊データリンク、アポリト浮遊島へ、全艦、全航空機、転送!』
ダンジョンコアの機能、テリトリー内を転移させる魔法陣を展開。アポリト浮遊島が存在する空域までテリトリーを伸ばす中継器を利用して、無理やり範囲を増やした超長距離転送。
反乱軍艦隊は、一気に敵の膝元まで転移した。
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