第1048話、人類の明日のために


 俺とベルさんは、ディーシーに連れられ、反乱軍と合流した。


 俺はこの世界に残っている人類の抵抗派を探して連れてくるという任務に出ていたことになっていた。

 ベルさんがその残存抵抗派の代表という形で、反乱軍に合流した。

 転移前のヴァリサがいて、ベルさん――人間形態と握手した。


「よくぞ、三年間、生き残っていました。アポリト帝国との決戦前に加わってくれたことを嬉しく思います」

「こちらこそ。精霊様から武器をもらえたから、生き残ってこられた」


 精霊様とは、ディーシーのことである。そのディーシーのお仲間がいたから、という意味でベルさんが言った。


「あいにく、こっちの精霊様はやられてしまったが……彼女の分まで力を貸すぜ」

「よろしくお願いいたします」


 相変わらず、ベルさんは芸達者だ。精霊のおかげでやってきました。でもその精霊はもう死亡したので、反乱軍の皆様には会わせることができませんってか。


 さて、戦力が揃ったことで、いよいよアポリト本島攻略のための作戦会議が開かれた。

 元十二騎士勢である、ゴールティン、白騎士ディニ、黒騎士エリシャが揃い踏み、これまで共に戦ってきた者たち、エルフ勢などが勢揃いしている。

 そして作戦は、元十二騎士団長のゴールティンから行われた。


「今回の作戦目的は、アポリト本島に魔力消失空間発生装置を設置し、それを起動させることにある」


 歴戦の騎士の風格たるや凄まじく、ブリーフィングに参加している者たちの表情が一様に引き締まる。


「魔力消失空間さえ発生させられれば、吸血鬼どもは死滅する。そうなれば、残るは帝国が使役する青、黒エルフの部隊のみとなる。だが吸血鬼を一掃されれば、指揮能力を失った人形など敵ではない!」


 目的を果たすために必要な行動は『改造クルーザーに魔力消失装置を載せ、それをアポリト本島に突入させる』、それだけである。

 反乱軍の艦隊、戦闘機、魔人機部隊の役目は、それを果たすために、迎撃する帝国軍と戦うという、実にわかりやすいものだった。

 いいねぇ、シンプルなのは――ベルさんが、俺のそばで呟いた。


「改造クルーザーが上陸前にやられたら、今回の作戦は失敗だ。よって護衛は何が何でもクルーザーを死守せよ!」


 反乱軍将兵は頷いた。


「とはいえ、敵も、こちらの進撃に対して全力で迎撃してくるだろう。残念ながら、我が軍の戦力では、正面決戦を挑むことは不可能だ」


 何せ、反乱軍の戦力は艦隊が、戦艦3、空母1、クルーザー4、フリゲート5。うち半数がどこかしらに不調やダメージを受けている状態。

 これに機械文明時代のシズネ級ミサイル艇が5、アンバル級ライトクルーザーが1隻参戦している。これは遺跡から発掘したもの、とか理由をつけて反乱軍が使用している。


 戦闘機は50機。魔神機含めた魔人機は33機。……数字だけ見たら、アポリト本島の防衛軍とまともにやり合う戦力ではないだろう。

 ま、ディーシー曰く、どさくさに紛れて戦闘機と魔人機を増援にぶっ込むことができるようにはなっている。


「我々が採れる戦法は、ディーシー様の転移魔法陣による奇襲だ」


 ゴールティンは戦術ボードを指し示した。アポリト本島に、急接近する反乱軍。


「転移により急襲で一気に島に上陸する。だがそれでも迎撃を受けるだろう。しかし、改造クルーザーが乗り上げた時点で王手だ。各戦闘機、魔人機操縦者、艦隊各員はそれに留意し、帝国軍からクルーザーを守れ! ……陛下、どうぞ」


 指揮官からの説明が終わり、最高司令官であるヴァリサが壇上に上がった。


「皆様、これがおそらく最後の戦いです。作戦の成否に関わらず、反乱軍は戦力をほぼ失うでしょう……」


 しんと、静まり返る室内。しかしヴァリサは女帝らしく、毅然きぜんとした口調で言った。


「ですが、我々は負けるわけにはいきません。残り少なくなった人類が生き残るためには、吸血鬼を殲滅せんめつし、勝つしかないのです。人類の未来のために、必ず、勝ちましょう!」


『『『『おおっ!!』』』』


 ブリーフィングルームが湧き出った。歓声と拍手が起こり、場の雰囲気が一気に盛り上がった。

 圧倒的な戦力差を前に尻込みする者は誰ひとりいない。極限まで高まった士気。誰もが自らの使命に燃え、人類の未来のためという崇高な目的を果たそうと闘志をたぎらせた。


「いいねえ、この空気」


 ベルさんがニヤリとした。まあ、決戦前に不安がって周囲のテンションを下げるような者がいなくて、俺もホッとしている。

 全体ブリーフィングの後、ヴァリサや元十二騎士らが俺の周りに集まってきた。


「いよいよですね、ジン」

「そうですね」


 俺は頷く。ゴールティンが俺の肩を叩いた。


「よく決戦前に味方を連れてきてくれた。感謝するぞ。ベルナルド殿も、よろしく頼む」

「おう、任された」


 ベルさんこと、『ベルナルド』は手を振った。一応、元の世界へ転移した者たちはベルさんを知らなかったようなので、あまり意味はないかもしれないが偽名を名乗っているのだ。

 黒騎士ことエリシャが腕を組んだ。


「今回は大丈夫なんでしょうね、ジン・アミウール? ここ最近のあなた、危なっかしいのだけれど」

「そうかい? 俺は絶好調だよ」


 代役のシェイプシフター君のことを言っているのだろうが、今は正真正銘の俺だ。バリバリ活躍してやんよ。


「むしろご機嫌だ」


 いきなり最終決戦に放り込まれて、自棄のようなテンションだけどな!

 目を丸くするエリシャ。白騎士こと、中性的な顔立ちのディニ・アグノスが「うん」と頷いた。


「今日の団長は、頼れる団長のようだ。僕も安心した」


 そう言うと、女性にも見える金髪碧眼の騎士は俺の頬にキスをするように近づいた。


「おかえり、ジン君」


 俺の耳元で彼はささやいた。周りは接吻するようなディニのアプローチに、びっくりしてしまう。


「アグノス卿……?」

「い、今のは?」

「はて、何のことかな?」


 同僚たちの混乱を尻目に、悪戯っ子じみた笑みを浮かべるディニ。

 ……ひょっとして、こいつ。これまでいた俺が、代理のシェイプシフターだってことに気づいた?


 俺の視線に気づいたディニは、片目を閉じてみせた。……ああ、こりゃバレてるなぁ。

 ディーシーは奇跡的に俺の代理は気づかれなかったと言っていたが、何てことはない。ディニは気づいた上で、その秘密がそれ以上バレないようにフォローしていたに違いない。


 何故そんなことをしたか? 反乱軍の士気を気にしたんだろう。俺がいないとなると、特に反乱軍に協力するエルフたちが、どう行動するかわからなくなるからな。

 団結のために秘密は守った……と、好意的に解釈しておこう。


 まあ、周囲に言っている様子もないし、間違っても今、他の者たちがいる前で問いただすわけにもいかないから、そのまま墓まで秘密は持っていってくれ。

 次が最終決戦なら、この時代に介入したという歴史――俺がいられる時間は、もう残りわずかになるだろうからな。

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