第1041話、ちょっと行ってこよう
俺は魔法文明時代の技術を現代に応用させつつ、懸念である転移の杖の跳躍実験をすることにした。
現代での経過と、転移の杖を使って魔法文明時代に行った時の時間経過がどれくらいなのか、観測するためである。
アレティらの証言によると、俺は反乱軍に参加し、アポリト攻略戦にも参戦している。故に歴史に従い、俺はその時にあの時代にいないといけない。
肝心な時にいないと歴史が狂うので、それがないよう確かめる。……まあ、こういうチェックに抜かりがないから、うまくやれるだろうと思っている。歴史に修正力あるなら、間違っても決戦後に転移することはあるまい。
……たぶん。
ランダム跳躍だったら怖いな。あ、でもそれなら、一度行った時間の前の時間に転移する可能性もあるのか……?
などと考えていたら、身動きできなくなりそうなので、あの時代に行けるとわかっているうちに試しておこう。
「というわけで、ちょっと行ってきます」
俺は愛機であるトロヴァオン戦闘機に乗り込むと、アーリィーに挨拶した。
今回は航空機を使う。前回の転移と同じ場所に出現した場合のことを考えてだ。何故なら、転移場所は今な無き浮遊島。同じところに転移するなら、空中に放り出されるのが確定しているのだ。
ちなみに、戦闘機ごと転移できるかの実験も兼ねる。まあ、大丈夫だと思う。
「それならオレも連れてけ」
ベルさんが黒猫姿で、トロヴァオンのコクピットに入り込んだ。
「魔法文明時代ってやつを見てみたい」
「ま、いいだろう。ベルさんは自力で転移魔法が使えるし」
下見くらいならいいだろう。
「ねえ、ジン――」
アーリィーが下から言いかけたので、俺はヘルメットを被りながら答えた。
「駄目」
「まだ何も言っていないよ!」
「すぐ戻ってくるさ。大人しく待っていてくれ」
俺はキャノピーを閉める。トロヴァオン、エンジンスタート。搭載されているコピーコア『ナビ』が機体の可動部のテストを行い、オールグリーンで問題なしを伝えた。
「じゃ、やってくれ」
俺が合図すると、アーリィーが転移の杖を掲げた。範囲指定で、トロヴァオンごとオレンジの光に包まれる。
そして転移――俺とベルさんを乗せたトロヴァオン戦闘機は魔法文明時代に跳躍した。
・ ・ ・
案の定、空の上だった。
太陽が傾き、空がオレンジに染まりつつあった。
「着いたのか、ジン?」
シートの後ろの隙間に陣取るベルさんの声。
「ああ、おそらく魔法文明時代だろう」
格納庫の風景が、一瞬で外になったのだ。少なくとも転移には成功した。
「……さて、反乱軍の拠点を目指そう」
問題は、ここがアディスホーラー攻防戦からどれくらい時間が経っているのか、だ。あまり時間が経過していないようなら、最終決戦への転移が数年後とかなりそうだし、逆なら、数ヶ月とか置かずに来なくていけなくなる。……大帝国とドンパチやってて忙しいタイミングは嫌だな。
「……おや?」
「どうした、ジン」
「魔力レーダーに反応だ。……識別、ラロス戦闘機が三機、急速接近」
「お出迎えか?」
「さて、どっちだ?」
俺は、IFF(敵味方識別装置)が現状『赤』で表示しているそれを睨んだ。ナビには、この時代の反乱軍と帝国軍の識別コードが登録されていない。元の時代では、大帝国が使用し『敵』と認識しているため、現状は赤表示だ。
この敵表示を信じるなら応戦ないし逃走すべきだが、反乱軍の機体だったら――
「おっ?」
IFFに新たな反応が現れた。識別色は、薄い水色――青ならば味方なのだが、この薄い表示は果たして?
ナビが機種を特定する。そこで表示された機種名に、俺は目を剥いた。
「TF-1ファルケ戦闘機!?」
「なんだなんだ? ファルケが飛んでるって、ここ魔法文明時代なんだろ?」
ベルさんも怪訝な口調になる。
TF-1ファルケは、元の時代におけるウィリディス軍戦闘機だ。別名シェイプシフター戦闘機で、魔法文明時代には存在しない。
しかし俺は相好を崩した。
「普通ならあり得ないが、喜べベルさん。こいつはディーシーのお迎えだ」
トロヴァオン戦闘機だって独自に作れるディーシーである。ダンジョンコアである彼女にかかれば、ファルケを量産することも不可能ではない。
現れたファルケ戦闘機は三機。こちらに迫るラロス戦闘機の後方に追いすがり、空中戦に突入した。
どうやらアポリト軍戦闘機のほうは、新生帝国軍のものだったようだ。
大型だが馬力のあるラロス戦闘機に対し、小型軽量ながら高Gに耐えられるシェイプシフターパイロットの操るファルケは、ミサイルのごとく突進し、プラズマ弾を浴びせて血祭りにあげていった。
魔法通信機から、聞き慣れた女の声がした。
『ウィリディス軍戦闘機トロヴァオン1へ。……ようこそ、魔法文明時代へ』
「ディーシー、元気そうだな」
『やれやれ、ようやくお出ましか。ずいぶんと時間がかかったじゃないか』
皮肉げな調子のディーシー。
『そちらでは大帝国を始末してしまったのかな? まあ、こっちの決戦前に到着してくれたのは何よりだったよ』
「ちょっと待て」
決戦前? 俺は嫌な予感がした。
「遅刻したつもりはないんだがね」
『ああ、遅刻はしていないよ』
「確認するが、今はアディスホーラー攻防戦からどれくらい経ってる?」
まさか決戦前夜じゃないよな? 物は試しと転移したら、リハなし本番は勘弁だぞ。
『三年だよ、主』
ディーシーの言葉に、俺は天を仰ぎたくなった。
『いま、反乱軍は最終決戦に向けての準備に掛かっている最中だ。向こうにいたなら、ある程度はこっちの状況も把握しているな?』
「ああ、予習はたっぷりしてきたよ」
どうやら、最終決戦のほぼ前日に転移してしまったようだ。落とせない戦いが始まってしまった。
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