第1040話、魔法文明技術を取り入れるウィリディス軍
アリエス浮遊島軍港。俺は、ディーシーが記録を残したダンジョンコアを、旗艦コアであるディアマンテと解析していた。
アポリト軍――魔法文明時代の兵器類のデータ。確認された魔神機と、魔人機の性能。それらから開発されたTAMS-0タイラントと、対魔人機用装備などを、ウィリディス軍兵器に応用するのである。
「浮遊島遺跡から回収したアポリト軍の装備ですが――」
銀髪美貌の女軍人の姿をとるディアマンテは言った。
「ディーシーのデータのおかげで、解析の手間が省けました」
「リサイクル作戦で回収した兵器は、傷んでいる物も結構あったからな」
むしろ傷み程度で、使えるものがあったというほうが凄いのだが。
「モノがあっても解説がありませんでしたからね。ディーシーが、あちらで生きた情報を集めてくれたおかげです」
説明書なしにマシンを渡されても困るというやつだ。その説明書を、俺とディーシーが魔法文明に飛んだことで手に入れることができた。これは回収品の戦力化の時間短縮と、今後の兵器開発への技術流用の手間を少なくさせる。
「細かな技術の転用は、子細を検討するとして――」
ディアマンテが俺を見たので、頷き返す。
「航空機の推進器――エンジンを魔法文明式の物に
ウィリディス航空機は浮遊石ないし人工浮遊石を搭載して、巡航時の航続距離をほぼ無限のものにしているが、全速などの戦闘時は消費が上回り、限界時間が存在する。
魔法文明時代の飛行用スラスター技術は、この燃費効率をさらに改善し、また速度アップも見込めた。
「操縦者に魔力があれば、さらにエンジンの性能を底上げできるんだがな……」
魔法文明式のエンジン、というよりアポリト軍の魔人機は、操縦者に魔力適性を求め、その性能を引き出している。
シェイプシフター兵では若干の性能アップにしかならないが、魔法の使えるパイロットやエルフ、ダークエルフたちだと話が変わってくる。魔法文明式のエンジン、その性能をフルに引き出すことができるのだ。
「そういう理由もあって、現代の機体の防御障壁搭載についても、パイロットで左右されてしまうんだよな……」
シェイプシフター兵が搭乗する魔人機では、装置を積んでも魔法文明式の防御障壁を展開ができない。
なお、テラ・フィデリティア式の防御シールドは、戦闘機などには搭載されている。こちらは機体の魔力に依存するので、パイロットの適性は関係ない。
「搭載魔力の容量を増やす、あるいは、外部からの吸引量を増やすなどが考えられます」
ディアマンテは、デスクを操作してホログラフィックを表示した。
ソードマン。その外装に魔人機型のスラスターを脚部、肩部に搭載。バックパックのジャンプブースターも交換することで、跳躍力はもちろん、短時間の飛行ができるようになるなど、機動力が強化される。
ヴェリラルド王国では、エマン王とジャルジー公爵軍において、ソードマンが配備されているから、以後のウィリディス軍の生産分も含めて、戦力アップとしてこの改造を用いたい。
「さらに、我が軍の魔力保有パイロットや、ダークエルフのパイロットらには、魔人機の技術を応用した改良機の開発を提案いたします」
ディアマンテは言った。魔力ありのパイロットならば、魔法文明式のエンジンも、防御障壁発生装置も十二分に活用できる。
TAMS-0タイラントをベースに、その量産モデルを作るのがいいだろう。
入手した魔人機をそのまま使う――というのは考えなかった。何せ設計が数千年前のものだし。……まあ、連合国にはそのままで流すけどね。
「タイラントをベースにするなら、エースパイロット用の機体も作りたいな」
たとえば、マッドハンターとか。彼が使っていたアヴァルクカスタムは、魔神機ドゥエル・ファウストに大破させられた。代わりの機体を使っているが、対魔神機・魔人機装備を標準装備させたものを用意してあげたい。
「あとは……」
「ドラグーンなどどうでしょうか?」
戦闘機形態から魔人機形態に変形できる可変型の機体だ。
「ウィリディス航空機のエンジンなどを改修するのですから、ドラグーンも空力特性を含めて改造の余地があると考えますが」
「それだ」
人型ロボットにも航空機にも変形して使えるという欲張り設計。その分、純粋な人型、あるいは航空機を凌駕しているとは言い難い。あれこれ使えるは、得てして器用貧乏に陥りやすい。
想定された使い方があるうちは問題ないのだが、それに甘えていてもいけない。性能向上が見込めるなら、改修も視野に入れるべきである。
アポリト軍で行動しながら考えていたが、ウィリディス軍の兵器も様々な点で強化が見込めそうだった。
ということで、ディアマンテと検討を重ねた結果、スペシャル仕様と、一般仕様の兵器の研究・開発、そして配備という方針で行くことに決まった。
魔法文明式エンジンは、魔力ブーストをかけられないパイロットが操ったとしても、現行の魔力エンジンより燃費が抑えられる。交戦時間の延長を考えても、単純に空中戦能力の強化と言える。
スペシャル仕様は、ウィリディスのエリートパイロット向けとなる。ウィリディス軍において、人間のパイロットが全体から見ても少ない。それらの保護と戦闘力強化の面で、ハイエンドな機体に仕上げてしまおうというわけだ。
本来、軍隊において、質も重要だがそれ以上に数を求められる。少数精鋭というのは、正規の戦いにおいては幻想である。
だがら数を揃えるわけだが、ウィリディス軍において、その数を担っているのはシェイプシフター兵である。
であるならば、少数の魔術の使える人間パイロット用に、高コストな装備を揃えてもさほど負担ではないわけだ。
そこまで優遇するのは、俺が魔法文明時代に行き、強力な魔神機の性能の一端に触れたからでもある。
一騎当千の兵器など夢物語もいいところだ。だが、その可能性の一端を垣間見たからには、まったく無視もできない。
「それに、敵にも魔神機があるからね」
これらに対抗するためにも、質を重視した兵器も必要だ。
兵器の開発史を振り返れば、敵の性能に追いつけ、追い越せとイタチごっこが繰り返されてきたのだから。
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