第1039話、戦艦は騎士で、空母は――
空中艦について理解が追いつかないと言うエリーに、アーリィーは軍艦を人にたとえようと言った。
「人、ですか、アーリィー様?」
エリーは目を見開いた。アーリィーは頷く。
「正確には兵種かな」
おそらくエリーには、従来の騎士とか兵の種別で説明したほうがわかりやすいだろう。
「『戦艦』。軍艦の中で最強の攻防力を持った花形。たとえるなら『騎士』だね」
フルプレートアーマーをまとい、訓練された技は、徴兵された農民兵を蹴散らす。騎士は、戦うために専門の教育と装備を持ったエリートである。そして騎士の敵は、大抵は騎士である。
軍艦の中で最強の武器と装甲を持つ戦艦は、艦艇における騎士に相応しい。
「『空母』……これは魔術師だ」
前線の後ろから、魔法を飛ばすアウトレンジ要員。艦上戦闘機、艦上攻撃機、艦上偵察機などを、その広い甲板を用いて使用する様は、そのまま魔法に置き換えてもいいだろう。
「空母の大きさは、魔術師の魔力の大きさと考えれば、大体強さもわかるんじゃないかな?」
「なるほど」
エリーは頷いた。アーリィーはペラペラと艦艇資料を開いて、図を見せる。
「巡洋艦。クルーザーとも言われてるね。これはそうだね、軽装備の騎兵かな」
偵察、見回り、そして戦闘、なんでもござれの万能戦士。騎士ほど重武装ではないが、その分、身軽で動き回って何かと使いやすい。一般歩兵に比べて、そこそこ訓練されているので、それなりに強い。
「アーリィー様」
エリーは手を挙げた。
「このクルーザーですが、ライトクルーザーとかヘビークルーザーとか、さらに種類が分かれているのですが。……――ええ、武装の強弱なのはわかるのですが……」
「その理解で間違っていないよ。ライトクルーザー・軽巡洋艦は、より軽武装で小回りが利く。ヘビークルーザー・重巡洋艦は、戦艦寄りで巡洋艦の中では戦闘力が重視されている型だね」
軽巡が偵察や哨戒、護衛に充てられる傾向に対して、重巡は戦艦の補助、もしくは戦艦不在の主力としてより戦闘面で活躍する。
「あと航空巡洋艦という、艦載機を扱う巡洋艦もあるけど、これは空母を魔術師とするなら、航空巡洋艦は魔法戦士と考えればいいよ」
魔術師ほどではないが、魔法が扱える戦士。それが航空巡洋艦だ。
「次は……小型艦でしょうか」
エリーの眉間にしわが寄る。
「このエスコートというのが護衛なのはわかります。でもフリゲートとかコルベットとか、駆逐艦が、いまいちわからなくて。……性能を見比べると、どれも似たようなもののようですが」
「エスコートは護衛専門の兵士。これは解釈一致だよね。で、フリゲートやコルベットだけど……これね、ボクもぶっちゃけわからないの。ジンに聞いたところだと、国や時代によって呼び方が違ったり解釈違いがあったりで、一概には言えないらしい」
「ややこしいですね」
エリーが言えば、サキリスが口を挟んだ。
「しかし、国や時代って、おかしくないでしょうか? これら空中艦は大帝国とウィリディス軍しか使っていないのでは……?」
「シーパングではありませんか?」
「あれは、実質ウィリディスですわ」
メイド同士で顔を見合わせる。アーリィーは少し考える。
「確かに不思議な言い回しだと思う」
さすがのアーリィーも、ジンが異世界から来たことは知らない。
「あれじゃない? 時代というのは機械文明とか魔法文明のことを指していると思うよ」
「あ、なるほど、言われてみればそうですわね」
サキリスが納得顔になった。アーリィーは続けた。
「コルベット云々って使い出したのは大帝国だし、フリゲートはウィリディスと、魔法文明艦だったような……。駆逐艦って言っているのは、ウィリディスだけだっけ?」
艦種識別表をひっぱりして確認する三人。
「まあ、フリゲートもコルベットも、たとえるなら雑兵だよね。騎士や魔術師の護衛をしたり、部隊を形成したり。重要なんだけど、何でもやらされる一般兵だよ」
「駆逐艦もですか?」
「うん。ただ、徴兵された農民兵じゃなくて、適度に訓練された専門の兵士くらいの差はあるよ」
アーリィーは告げた。
「そもそも駆逐艦というのは、接近する小型艦を排除したり、敵艦隊の護衛を蹴散らしたりする役割があって、小型戦闘艦の中でもより攻撃的な任務に充てられるんだ。まあそれ以外の仕事もするから、何でも屋の一般兵ではあるのだけれど」
ウィリディス独自の神風級『重駆逐艦』なんて、まさに敵のコルベットなどの護衛艦を蹴散らすために強い武装を載せている。
「独自の言い回しといえば、ウィリディスにはそういうの多いですよね。ユニコーン級機動巡洋艦とか、トサ級突撃戦艦とか……」
自身の頬に指を当てるエリー。アーリィーは苦笑した。
「その辺りは諜報対策だったり、フィーリングだったりするらしいよ」
ユニコーン級はポータル運用をする手前、名前から転移機能を悟らせないための対策らしい。確かに、公言したら何かと危険だとアーリィーは思った。
トサ級突撃戦艦は、その構造上、突撃戦法をメインに使っていくから、ただの戦艦と区別する意味でそう付けただけだった。
つまり、正規の艦種の命名ではない。
「強いてたとえるなら、機動巡洋艦は魔法戦士の類いに入れていいと思う。突撃戦艦は重装騎兵だね。真っ正面から突撃なんて、まさにピッタリ」
「ええ、とてもわかりやすいです」
エリーは笑みをこぼした。
「アーリィー様、そういえば、この空母に似ている強襲揚陸艦は、たとえるなら何になりましょう?」
兵員や車両、魔人機などを搭載して敵地にてそれらを展開させる。それが強襲揚陸艦だ。
「これは、厳密に言うとちょっと違うんだけど、強いていうなら輸送担当の兵、もしくは後方支援系の補助魔法使いだろうね」
「前線に兵士を運ぶという点からすると、輸送兵なんだよね。実際に武器は持っていても前線で戦う艦艇じゃないし」
「名前はとても勇ましそうなのですが……強襲揚陸艦」
サキリスは肩をすくめる。アーリィーは、
「ユニコーン級機動巡洋艦も強襲揚陸艦みたいなもので、こっちは戦えるタイプなんだけど、この辺り、案外適当なんだよ」
マニアが変にこだわって、細かく分類したくなるのと同じようなものらしい。
「さすがアーリィー様。おかげさまで、軍艦のことが体感的に理解できました!」
エリーが頭を下げてきたので、アーリィーは手を横に振った。
「いえいえ。解決の糸口になったのなら幸いだよ」
「アーリィー様は博識でいらっしゃいますから」
サキリスが何故か胸を張った。
「ご主人様の高度な言い回しを、わたくしたちにも分かるように噛み砕いてご説明してくださる。さすがです」
「え、褒めても何もでないよ。ボクだってジンからの受け売りなんだから」
自分で勉強もしているけど、そんな持ち上げられるほどのものでもない。アーリィーは照れくさくなって、頬を赤らめるのだった。
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