第1028話、闇の勢力の逆襲


 闇の勢力が新たな空中戦力を投入した。

 迎撃に向かった戦闘機部隊が遭遇したのは、サメ型の飛行魔獣と、手が異様に長い、翼の生えた人型だった。


 アポリト軍の主力であるラロス戦闘機が突撃するが、飛行サメは海の中を泳ぐように変幻自在の動きを見せて反撃。そのヒレは金属さえ引き裂く刃。すれ違いざまに戦闘機を両断していく。

 あまりの速さにパイロットたちは困惑する。魔砲の光弾を、ひらりひらりとサメは避けて、空中を蹴るように加速、アポリト機を切り捨てていく。


『ちぃー、中々速いじゃないの!』


 飛行サメの動きに追従するは、グレーニャ・エルのセア・エーアール。ブレードで飛行サメを真っ二つに引き裂く。

 だが、そんな動きができるのは風の魔神機のみだった。セア・フルトゥナ、そしてエルフたちのリダラ・ゴルム、コルグラではとても真似できない。


 飛行サメに翻弄ほんろうされ、撃墜されていく魔人機。さらに翼を持つ人型も、闇色の魔弾を放ったり、肥大化したような巨腕を振り回して、アポリト軍に打撃を与える。


『新型かよ、あの悪魔型!』


 闇の勢力の翼を持つ人型は、悪魔型と呼称されているが、今回のタイプはこれまで確認されていなかった。

 それもそのはず、今回の悪魔型は上級吸血鬼たちが操る闇の勢力版魔人機なのだ。


『なめんなっての!』


 エアカッターを展開するセア・エーアール。標的となった悪魔型が四肢と翼を裂かれて墜落する。


『どうだ! ――って!?』


 一瞬の隙を突かれた。真上からダイブしてきた飛行サメが、セア・エーアールの背中の翼を二枚、引き裂いたのだ。直角降下は、完全に死角だった。


『くっそ!』


 飛行ユニットをやられ、墜落するセア・エーアール。必死に機体を立て直すグレーニャ・エルの目に接近する悪魔型が映る。

 護衛機のセア・フルトゥナを、クローアームの一撃で胴体を貫通――パイロットは死んだだろうことをエルは察した――した後、エーアールにトドメを刺そうと突進してくる。

 機体の立て直しで、迎撃どころではない。


『やばっ――』


 死を予感するエル。しかし、その瞬間は訪れなかった。

 高速飛来した砲弾が、悪魔型を貫き撃破したのだ。


『本当に、手のかかる妹だこと……!』

『姉貴!』


 土の魔神機セア・ゲーが飛行しながら、両肩のレールガンで長々距離狙撃をやったのだ。

 本来、飛行能力がないセア・ゲーだが、ジン・アミウールが戦隊所属機に積ませた飛行ユニットで、空中対応機体ほどではないにしろ飛行が可能となっている。これがなければ、グレーニャ・エルは命を落としていたかもしれない。


『エル、一度、後退しなさい。態勢を立て直す』

『それは、機体が制御できたらの話……だ!』


 なおも高度が落ちていくセア・エーアール。


 ――こりゃ、マズいかも……!


 エーアールを立て直せなければ、待っているのは地面に叩きつけられての墜落死だ。



  ・  ・  ・



 悪魔型と飛行サメの数は、合計で二十と少数だった。

 しかし、討伐艦隊の脅威となりつつあった。


 これまでただの的だった飛行クジラの中で、悪魔型に制御された個体が、遠隔攻撃ユニットよろしく、攻撃を開始し始めたのだ。

 飛行クジラの八連魔弾が、小型フリゲートを撃沈し、飛行サメの体当たりがクルーザーの機関を食い破り、爆発させる。機関を失い、全長二百メートルのクルーザーが墜落していく。


 戦艦主砲は、飛行クジラを狙撃できても、素早過ぎる飛行サメを追尾できず、悪魔型を捉えられない。

 それならばとリダラ・ゴルム、リダラ・コルグラのエルフ魔人機が電磁スピアで仕留めに向かう。だが飛行サメの動きを追えず、返り討ちにあっていった。


 特に飛行サメは正面に防御障壁を展開していて、アポリト軍の射撃武器を防ぎつつ、そのまま障壁ごと体当たりを仕掛けてきた。

 アポリト軍討伐艦隊は、識別コードのおかげで数の劣勢を跳ね返したが、今度はわずかな敵機の反撃で壊滅の危機にさらされたのだった。



  ・  ・  ・



 空の情勢が怪しくなってくる少し前。俺はリダラ・ダーハで、上陸地点周辺の警戒と援護に徹していた。

 制圧部隊が、アディスホーラーを掌握できればよし。できないようなら、俺の手で闇の勢力を本拠ごと潰すために様子を見ていたのだが、そこで思わぬ接触があった。


『団長』


 それは陸戦型魔人機の十二騎士カスタムだった。機体名はドゥエル・ボーゲン。魔法クロスボウを複数装備した、中・遠距離戦機体である。

 パイロットは、十二騎士であるクルフ・ラテース。……そう、クルフ君である。


「君も来ていたのか?」


 十二騎士で、一応、俺の配下ということであるが、それぞれ別の任務に就くことも多いため、共同戦線を張るとかあまりなかったりする。


『大公閣下より密命を受けていましたから』


 クルフの『密命』という言葉。それでは俺も知りようがないな、と納得する一方、とてつもなく嫌な予感がした。

 大公の密命ということは、ひょっとしたらこの戦況が『当初の予定通りではない』ことを知っているのではないか?


『プライベートチャンネルを』


 クルフは秘匿回線にするよう、言ってきた。普通に魔力通信で流すには、まずい内容を含んでいると暗に告げていた。……嫌な汗をかいてきた。


「プライベートチャンネルだ」

『団長、討伐軍の動きがおかしいです。彼らは外周艦隊を撃滅したのち、撤退するはずでした』


 ああ、クルフは、本来の計画を知っていたのだ。それを知っているということは、思いの外、タルギア大公に近しい人間だったようだ。


「そう、撤退するはずだった。だが状況は、討伐艦隊が闇の勢力を制圧しようと動いている」


 俺がそう仕向けたんだがね。


『どこでおかしくなったのか、皆目見当もつきませんが――』


 クルフは言った。


『このまま島を制圧されるようなことになれば、カノナス殿の身が危うい。そうなれば大公閣下の御身にも危険が及ぶ恐れがあります』

「だろうね」


 闇の勢力と繋がっていた、というのは、アポリトの民の大多数には受け入れられないだろう。

 もっとも計画通り、封緘命令書にあった外周艦隊撃破後、撤退せよという指令も、遅かれ早かれ疑問に思う者もいただろうけどさ。


『カノナス殿を脱出させる必要あります。それが不可能な場合は口封じが必要かと……』


 クルフの声はとても冷たかった。


『我々で、彼らより先にカノナス殿の身柄を確保しましょう』

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