第1027話、敵地上陸
アディスホーラー浮遊島へ、突撃隊形にて進撃するアポリト軍討伐艦隊。インスィー級戦艦の主砲が、進路上に集まっている空中クジラを正面から貫通し、四散させる。
闇の勢力の識別コードを発している限り、攻撃できない闇の魔物たち。集まってきているのは、せめて進路を妨害しようとしてか。
しかし魔弾も放てず、直接の体当たりもできない空中クジラは、アポリト軍からは単なる巨大な的か障害物にしかならなかった。
飛行型リダラが電磁ランスを手に小型飛行クジラや飛行型魔物を撃退する中、アミウール戦隊も進む。
俺はリダラ・ダーハを操り、戦隊の進路上の敵を掃討していた。相変わらず敵の反撃はない。今のうちに数を減らしておく。
「リムネ、やれるか?」
『はい、団長様』
水の魔神機、セア・ヒュドールが護衛機と共に密集する敵集団の中へと飛び込んでいく。反撃がないのをいいことに突出しているが、もし攻撃されたら、四方八方から集中砲火を浴びて助からないだろう。
見守る俺は、いつ攻撃があるかヒヤヒヤしながら、それを見守っていた。
『護衛機、ご苦労様でした。後は任せて、射程外へ待避を』
『了解』
水の魔人機セア・プルミラ四機が、ヒュドールから離れ、逃げるように距離をとった。そして水の魔神機は、その力を解放した。
『吹き荒れろ、氷雪。我が敵を氷の棺に封じよ――アイス・コフィン!』
セア・ヒュドールを中心に吹雪のような現象が発生。猛烈な冷気が周囲の空中クジラの集団に襲いかかり、見る見るうちに凍らせていく。飛ぶ力を失い、氷の塊となったクジラが次々に墜落していく。
圧倒的な冷気のフィールド。その範囲にいれば、味方の魔人機とて凍ってしまう。故に単機で突出する格好になったが、その効果は絶大だった。
艦隊正面にいた闇の勢力が数が一挙に半分以上減った。
まったく、範囲内は全部氷結とか、おぞましいね。敵にはしたくはない、と俺は改めて思う。
ともあれ、リムネはここまでだ。広い範囲への攻撃魔法である。いかに女神巫女といえど、魔力の消耗が激しいだろう。
「よくやった、リムネ。後退しろ」
『はい、団長様。お待ちします』
この戦いの決着がつく前に戦線を離脱する。彼女とは、そのように話がついている。戦闘の前半で活躍すれば、後半抜けやすくなるだろう。
敵のいない空間を、悠々と飛行するセア・ヒュドール。護衛機が素早く戻り、さらに進撃する討伐艦隊に合流する。
敵の数が減ったことで、アディスホーラーの前面の守りが弱くなった。この隙を見逃さず、討伐艦隊は島へと肉薄する。
残りの飛行型魔物が戦線に開いた穴を埋めようと集まってくるが、攻撃してこないのでは嫌がらせにもならない。
『主、艦隊の前衛が、島の上空に侵入した』
ディーシーの報告。先陣を切るコサンタ級クルーザー戦隊がアディスホーラー浮遊島の先端にあたる小島に差し掛かる。
構造自体は元の時代で俺たちウィリディス軍が使用するアリエス浮遊島とほぼ同じのアディスホーラーだ。地上部分は基地施設のほかは岩盤で覆われた見るからに島といった地形をしている。
ただし、アリエス浮遊島は自然があったが、ここでは地面が剥き出しの荒野じみた地形をしている。
そんな地上には、闇の勢力の魔物が集まりつつあったが、クルーザー部隊は艦砲射撃で地上を吹き飛ばしつつ、艦体下部に抱えてきた魔人機揚陸ポッドを切り離した。
揚陸ポッドは地上を滑るように着陸すると、ハッチを開いた。搭載されてきたドゥエルタイプ魔人機が、次々にポッドより飛び出して、地上戦闘を開始する。
空の魔物と違い、陸の魔物は、上陸したアポリト軍へ襲いかかる。それらと激しい陸上戦が繰り広げられた。
『前衛部隊、第一降下地点に上陸開始』
『主力部隊は、中央島へ進撃。第二降下地点に陸戦隊を上陸させよ』
通信機からは、艦隊司令部から発せられた報告や命令が聞こえてくる。討伐艦隊主力部隊は、前衛部隊が戦闘を行っている小島を超えて、アディスホーラー中央島へ向かう。
空母から発艦した戦闘機が、空中クジラの接近を阻む中、戦艦群の魔法砲がそれぞれの方向に光弾を放ち続け、突破口を開く。
だがアディスホーラー島も黙っていない。基地の防衛施設である要塞砲が地上にせり上がり、遅まきながら迎撃を開始する。そのメイン武装は、機械文明時代のプラズマカノン。直撃を受けたインスィー級戦艦が、防御シールドを撃ち抜かれ艦体に激しい火花と爆発を撒き散らす。
『上陸地点に、敵大型魔獣、多数!』
主力部隊の上陸を阻むように、闇の勢力側も地上部隊を展開させていた。巨大な蛇型、腕がハサミになっている恐竜のようなキメラ、そしてマッドゴーレムもどきが大挙している。
あれでは上陸が難しそうだな。俺は指示を出す。
「ペトラ、本隊の上陸地点の敵をまとめてなぎ払え!」
『了解、団長!』
火の魔神機セア・ピュールが魔法武器プロクスを構える。
『いっけぇー!!』
ツインテール魔神機の持つ大型杖から灼熱の炎の柱が放たれる。地獄の業火もかくやの炎が、魔獣たちを飲み込み、瞬く間に灰へと変える。
百を超えたであろう魔人機サイズの魔物が上陸地点から消滅した。
刹那、無人の荒野と化したその場所に、艦隊主力は到達する。降下地点手前で力尽き、墜落する戦艦が土砂を撒き散らし、爆発を生む中、無事な艦艇から魔人機や生身の兵中心の陸戦隊がアディスホーラー本島へ降り立った。
俺は、その間にも艦隊の脅威となる要塞砲を閃光剣にて切断。援護に回る。地上では魔力通信の数が増大する。
『大型の魔獣は魔人機に任せろ!』
『吸血鬼どもが出た! 魔法で焼き払え!』
陸戦隊も、ゾンビじみた吸血鬼兵と交戦に入ったようだ。
噛まれると吸血鬼化してしまう厄介な敵が歩兵というのも面倒なものだ。
制圧部隊を送り込んだら、艦隊は空の敵と地上施設への艦砲射撃を行って援護する。アミウール戦隊もその任務に就く。
「ハルとペトラは地上の支援。エルは空中の残敵を掃討しろ」
『了解』
『あー、空の敵って言ってもなぁ』
グレーニャ・エルが退屈そうに言った。今のところ、空の敵は案山子も同然であり、戦闘というより掃除をやっているようなものである。
だが、彼女のぼやきもそこまでだった。
『全艦および空中対応機、警戒せよ。敵の増援が出現。識別コードを無視して攻撃してくる!』
新たに入った緊急電。ほらみろ、と俺は心の中で呟いた。
『エル、お待ちかねの敵だぞ』
『エルが余計なことを言うからぁー!』
ペトラが悪態をつけば、当のエルは笑い飛ばした。
『あたしが片付けてやればいいんだろう? セア・フルトゥナ各機、あたしに続きな!』
風の魔神機セア・エーアールが突風の如く、新手への迎撃に向かう。
空と陸、アディスホーラー浮遊島を巡る戦いはなお激化する。
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