第1023話、最後の戦いを前にして


 アミウール戦隊の旗艦『エスピス』に戻った俺は、まず艦長ら幹部たちに討伐軍本隊の作戦を説明。その後、突入部隊でもある魔人機パイロットたちを集めたブリーフィングを開いた。

 これには当然の如く、四大魔神機の少女パイロットたちも集まっている。


「最後の戦いである」


 俺は簡潔に告げた。


「艦隊を守りつつ、敵本拠地に突入。闇の勢力の吸血鬼、その他魔物をすべて倒せ」


 グレーニャ姉妹、ペトラ、リムネら女神巫女、そして彼女らに付き従う従者巫女らは、皆真剣に頷いた。

 天上教会にとっても、闇の勢力との戦いは聖戦である。彼女たちが戦う巫女であるのも、民を守り、魔を撃滅するためだ。自然と熱の入りようも違うだろう。

 細かな流れの説明後、俺は告げた。


「皆、敵の殲滅せんめつに全力を尽くせ。闇の勢力との戦いは、これで終わりにしよう。死んでいった者たちのためにも――」


 俺が瞑目し、再び目を開ければ、巫女たちも女神への祈りを捧げていた。


「戦況によっては、女神巫女の魔神機に無茶を強いることになるかもしれない。その指示があるまでは、単独行動は厳禁だ」

「任せてくれよ、団長」


 グレーニャ・エルが不敵な笑みを浮かべた。


「闇のバケモノどもは、あたしがぶっ潰してやるからよ」


 戦場を経験し、部下の死を体験したことで、エルはどこか好戦的な空気をまとうようになった。これも成長なのか、俺としては複雑な気分。


「……突っ込み過ぎるなよ」


 風の魔神機は特に足が速いからな。

 地の魔神機を操るグレーニャ姉妹の姉、ハルが俺を睨むような目を向けた。


「団長は最近、部屋にこもりがちだったけど、体調はよいのかしら?」

「問題ない。今日に合わせて休んでいたんだからな」


 本当は、そこそこ働いていました。


「最近、リムネが団長の部屋にちょくちょく入っていくのを見ているのだけど――」


 ざわっ、と巫女たちがざわつく。年若い巫女たちにもそれの意味するところは理解できるのだろう。他のパイロットたちもだ。……部下たちの前で、しかも作戦前にそういうこと言わないでくれるかなー? 士気に影響するから。


「そっちのほうに精を出しているんじゃないの?」


 日本語で考えるとこれ、二重の意味に取られかねない言い回しだな。コツコツ働く、ではなく、イチャイチャしている方の意味で言ったんだろうけどさ。ほら、男連中がニヤニヤしているぞ、まったく。


「そりゃあ、仲良くしますとも」


 リムネが口を挟んだ。ただし彼女は自分の薬指にはめた例の指輪を見つめている。明らかに、それとなく見せびらかす動きだ。


「お疲れの団長様を癒すのも、巫女の仕事ですわ」

「……」


 それは初耳だ。

 火の魔神機パイロットのペトラなどは不愉快そうな顔をしている。グレーニャ妹は、どうでもいいという表情だし、姉はリムネを親の敵のような目で見ている。


「キチンと役割を果たせば問題ない。上手くやったらデートしてやる」


 軽口を叩いてやれば、グレーニャ・ハルはジト目になる。


「自意識過剰なのだわ、団長」

「はいはい」


 詰め寄ると突き放す言い回しをするのがハルという少女だ。フラれた俺に、男どもは笑っている。


「では、諸君らの健闘を祈る! 解散!」


 全員が席を立ち、敬礼した。俺も答礼すれば、パイロットたちはそれぞれの待機する場へと移動を開始する。


「あんたには言いたいことがある」


 ハルが、リムネを見上げている。


「精々、死なないことね」

「ええ、お互いに」


 リムネがそう返すと、グレーニャ・ハルは俺を見て、舌を出した。……ご機嫌斜め。最後くらい、きちんとしておきたかった俺ではあるが。

 グレーニャ・エルはすでに退室済み。以前は、何もなくても俺のところに来てたのに、寂しいな。



  ・  ・  ・



 この戦いが終わったら……というとフラグめいて嫌なのだが、俺がこの戦艦『エスピス』の艦内を歩くのは、これが最後と思うと寂寥せきりょう感に苛まれる。

 すれ違う兵たちも、見知った顔だからか、よりそれに拍車をかける。この戦いを生き残るか戦死するかはわからないが、生きていたとしても、二度と会うことはないだろう。

 格納庫へ行く。


「ジン団長!」

「よう、ブル」


 俺の小隊の一員であるブルが声をかけてきた。


「今回で最後なんですよね」

「……おう」


 一瞬、元の時代に帰るから最後になる、と思ったが、ブルの言っている最後は闇の勢力との戦いの話だろう。


「オレ、団長の下で戦えて、誇りに思います」


 ……それ、何かのフラグ? 俺の中で、ざわざわとこみ上げてくるのは嫌な予感。


「お袋の治療も上手くいってるようで。……その、ジン団長のおかげなんで、報告したくて」


 そういえば最近は何かと忙しくて、あまりコミュニケーションが取れてなかった。おそらく前に本島に帰港した時に、お袋さんの見舞いに行ったのだろう。


「そうか。そのまま元気になるといいな」

「はい!」


 ブルは破顔した。大男の、邪気のない素直な笑顔ってのは和みだよ。


「帰ったら、お袋に会ってください、ジン団長。んで、祝勝会しましょう!」


 ブル……お前――。


 やばい。目の奥が潤んできた。俺はこの戦いの決着を見届けたら、この時代から消えるんだぞ? また戻ってくることもあるかもしれないが、二度と会えないかもしれないんだぞ……。


「ああ、いいな」


 俺は何とか平静を保つ。


「ブル、死ぬんじゃねえぞ……!」

「もちろんです!」


 ブルは胸を張った。


「ジン団長、オレは自分の役割を果たします。僚機として必ずお守りします!」

「馬鹿野郎、俺のことはいいから自分の身を守れ!」


 思わず怒鳴っていた。くそ、フラグをいくつ積み上げる気だ、こいつは!


「生き残るぞ、ブル!」

「了解!」


 俺はリダラ・ダーハ、ブルはドゥエル・カスタムに搭乗。出撃の時を待った。

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