第1018話、せっかくなので土産をもらってきた


 アポリト城地下、浮遊島の中枢にある貴族院の秘匿施設内。俺は、そこで天然ダンジョンコアの製造工場を発見した。

 ……いや、人の手で作っているのだから天然なんて言い方はおかしいのだが。


 機械文明時代のサフィロやディアマンテのような人工コアと区別するとこうなったのだ。呼び方も考え直したほうがいいかもしれない。


 それはともかく、端末を操作して、ワールドコア・プロジェクトなる資料に目を通した。無数に作られたダンジョンコアが、すでにこの世界の至る所にばらまかれ、帝国貴族院――老人たちはそれを使って、この世界を管理、運営していくつもりらしい。


 この施設は、その老人たちの、世界を管理するための研究施設なのかもしれない。女帝のクローンを作って、アポリト帝国を影から支配し、世界中に設置したダンジョンコアを使って地上を統治、運営する。

 闇の勢力という外敵に変わる新たな支配システムの構築を図っているのかもしれない。


 そうか。

 タルギア大公が、古き貴族院である老人たちを排除しようとしているように、老人たちもまた大公に頼らない支配の形を模索しているのか。

 闇の勢力は、おそらく大公の管轄なのだろうな。だから老人たちも、自分たちで独自の支配プランを持とうとしているわけだ。

 ……仲が悪いことで。大公派、女帝派、そして老人会か。


 さて、老人たちの企みの一端を知ったところで、折角だからお土産をもらっていこう。

 予備として保管されているダンジョンコアを、全部もらっていく。……どうせしばらくは使わないんだから、ストレージにしまって持ち出しても当分バレないだろう。


 仮に発覚したとて、施設自体が大公すら知らない存在。ここを管理する老人たちが騒ぎ立てたとして、大公や軍に泣きつくこともできないだろう。

 俺は、保管庫に行き、ダンジョンコアを回収していく。シップコアの量産でこの手のものは見慣れているかと思ったが、人様が作ったダンジョンコアが大量にある光景は壮観だった。


 合計五〇個。……ダンジョンコアのバーゲンかな。お得感満載過ぎて緊張するわ。やってることは泥棒だしな。

 そのうちいくつかは、この世界の反乱軍のために使わせてもらおうかな。ディーシーに調整させよう。


 回収が済んだら、施設内探索に戻る。浮遊する十字架や、施設内のスタッフを回避する。相変わらず、人間が人形みたいで怖い。


 今度のフロアは、やたらリザードマンのドラゴン進化形のような人型モンスターが、格納庫に並ぶ人型ロボット兵器みたくカプセルの中で培養されている。……こいつは見たことがないな。新型か?


 秘密施設の見学は続く。

 魔人機工場があり、アポリト軍とは異なる機体の整備、開発を行っているようだった。そこで魔神機用精霊コアの先行量産品があったので、これも複数をちゃっかり回収。

 他の島でもあったエルフの生成ポッド工場は、この施設内にもあった。そこより深部へと向かうと、ついに発見した。


 人の、いやヴァリサ・クローンの製造施設が。液体の満たされたカプセル内に浮かぶ美女――それが一〇体もあると。


「こんなにクローンを作ってどうするつもりなんだ……?」


 保存用に布教用、さらにその予備まで揃えていますってか。

 これはあれかな、人間の記憶を別の体に移植する実験か何かで増やされたのだろうか。まあ、普通に予備なんだろうけど、こんなに数はいらないと思うんだ。


 近くの端末を操作して情報を読み取る。が、クローン体の状態などのデータしかなく、どういう目的で作ったのか、などはわからなかった。


 長居して、警備に察知されては面白くないので、俺は撤退した。興味深い謎もあるが、どうしても知らなくてはいけないことでもあるまい。

 老人たちの野望の欠片も確認できたので、今回はお暇しよう。……二度と来るかはわからないが。



  ・  ・  ・



 拠点に戻った俺は、ディーシーに回収したダンジョンコアを出した。


「主よ。……この数のコアはいったいどうしたんだ?」

「貴族院の爺様方が、せこせこ作っていたやつだよ。全部、使えるようにしておいてくれ」

「どこで手に入れた……とは聞かないぞ。帝国城の地下に行くと言っていたものな」


 ディーシーは、俺がストレージから出したコアのひとつを両手を掴む。 


「全部と言ったが、いったい幾つあるんだこれは?」

「五〇個」

「五〇! ……ああ、もう」


 さすがのディーシーさんも呆れ顔だ。


「聞いて驚け。もう世界にはこれと同じものが無数にばらまかれている」

「ふうん……」

「淡泊だな。もしかしたら、お前のご先祖様かもしれないぞ」

「我のか?」


 怪訝けげんな顔になるディーシー。俺は施設の端末で見た仕様を思い出す。


「魔力による再生に、コアの増殖機能もある。おそらく、世界中にあるダンジョンコアの生き残りが、後の時代にも残っていたんだと思うね」

「なるほどな。我の元となったものが……」


 ディーシーは何やら遠い目になった。


「もしかしたら、この時代から我らのいた時代まで残っているコアもあるかもしれないな」

「かもな」


 俺は同意すると、話を戻した。


「全部と言ったが、制御できるようにする作業は別に一度にやらなくてもいいぞ。ただエルフたちの避難所や、これから作るだろう反乱軍拠点にも専属の管理コアがあると便利だろうから、その分は早めに仕上げたい」

「オパロ・コアだけでは全部を賄いきれないからな。我が楽をするために、こき使ってやるとするか」


 ディーシーは、やれやれと肩がこったという仕草をする。


「主、我も忙しい。闇の勢力との決戦も近いのだろう? とりあえず二〇個くらいもらっておく。残りは帰ってからにしよう」

「そうだな」


 数個ずつコアを出していた俺も、二〇個で打ち止めにしておく。出しても、今は無理だからと、ストレージに戻すのも面倒だからね。


「それで、帝国城の地下はどうだった?」


 ディーシーが聞いてきた。


「ダンジョンコア以外に何か収穫はあったか?」

「魔神機用の精霊コアを自力で作っていたよ。一応、いくつか回収した」

「魔神機用クラスのコアか。それは面白いかもしれんな」


 他には、亜人やモンスターの研究施設、ヴァリサの複製体の製造装置の話をした。


「――確証はないが、もしかしたら老人たちは、不老不死の研究をしていたのかもしれない」


 女帝のクローンを作り、それをすでに何体か使っているか。今のヴァリサが四人目とか本人が言っていたような。


「診断データを見た限りだが、どうも記憶の移植もやっていたようなんだ。引き継いだ個体に、先代の記憶について確認している痕跡があった」

「だから、不老不死の研究か?」

「記憶を持ったまま、若い体へ」


 小説や映画で見たやつだ。もっとも、確証はないけど。

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