第1014話、女帝派、浮遊島より離脱


 イター監獄の屋上に膝をつくリダラ・ドゥブ。そのハッチが開いてパイロットが降りた。

 エリシャ・バルディアは目を回している。


「どうして、私の魔神機が、ここに……?」

「動かすだけなら問題ない。お前の機体だ。早く行け」

「わ、わかったわよ! 礼は後でするからね!」


 そう言い残し、エリシャは愛機リダラ・ドゥブへと乗り込んだ。


 代わりにアリシャが、俺の元にやってくる。ヘルメットのバイザーを下ろして素顔が見えないので、俺以外に素性バレはしない。


「いまの人、私に似ていたような……?」

「かもな。連絡艇へ」

「はい!」


 他の女帝派囚人らが乗る連絡艇へ走るアリシャ。……実は、彼女に名前をつけた時、俺もエリシャに何となく雰囲気が似てると思って、今の名前をつけたのよね。たぶん血縁関係ではないだろうけど。


 俺はタイラントに乗り、戦況の確認。


「ディーシー?」

『アポリト軍は現在、混乱の最中だ。我が情報を撹乱しているからな。だが現地の部隊がそれぞれ独自の行動をとり、目下、こちらに向かってきている』


 ハリダ工廠から撤退した部隊は、今イター監獄の周りで敵魔人機や航空機を迎撃中。


『女帝陛下のセア・アイトリアーのおかげで、戦線は維持している。が、あまりモタモタするのは感心しないな』

「もう撤退するだけだろう? 軍港や基地を襲撃した回収部隊は?」

『こちらもすでに所定目標を確保済みだ。集合地点へ向かっている』

「オーケー。それじゃアリバイを作りましょうかね」


 俺はペダルを踏み込み、タイラントを飛翔させる。


「各機へ、浮遊島より離脱。集合地点へに向かえ!」

『了解!』


 監獄島周辺で交戦していた子供たちの改造魔人機、奪取したリダラ・ガルムが順次、機体を翻す。


 ヴァリサのセア・アイトリアーもまた、エリシャのリダラ・ドゥブと合流。黒騎士を従え、退避に移る。


『ジン、貴方も合流してくださいね』

「はい、女帝陛下」


 俺は、帝国城へとタイラントを向ける。専用ライフルから、マルチマギアランチャーを魔法転送による変換。


「さあて、大公閣下。監獄の騒ぎ、城から見えているよな? なあ?」


 おそらくセア・アイトリアーの姿も、帝国城から観測できただろう。女帝派に兵器と人員を確保されて今、どんな気分?


 と、冗談ぬかしている間に仕事をしようか。


「ディーシー、ダーハを出せ」

『了解した。転移から到着まで、約三十秒』

「その間に、帝国城に攻撃!」


 俺は操縦桿のトリガーを引いた。マルチマギアランチャーから光弾が迸る。山のように巨大な帝国城に爆発が起こる。


「これだけデカいと、マギアランチャーでも大した打撃は与えられないな」


 口を動かしている間に、二発、三発と撃ち込む。ついでに両肩のプラズマカノンも連射。城壁が砕け、火の手が上がる。それでも規模に比べたら、微々たるものである。


「というわけで、大公閣下のいらっしゃるフロアを狙って――」


 モニターの映像を拡大、ピンポイントに狙いをつける。テラスにタルギア大公とスティグメの姿が見えた。


「はい、そこにいた!」


 カウント、索敵センサーに映る移動体を刹那で確認、タイミングを合わせて――シュート!


 マギアランチャーの光が伸びて、大公らのいるテラスへ直撃――その寸前、リダラ・ダーハがあいだに割り込んだ。シールドビットを展開して、大公を狙った一撃を弾いた。


「ディーシー、ドンピシャ!」

『恐ろしいほど正確だな、主よ』


 呆れ声のディーシー。


『タイミングがズレて大公を吹っ飛ばしたほうが、面倒がなかったと思うのは我だけか?』

「気持ちはわかるがね、それじゃ歴史が変わってしまう。たぶん」


 反乱軍が発生してアポリト帝国と戦い、文明は滅びる。いま大公を始末してしまったら、流れは一気に女帝派に流れるだろう。指導者を失った大公派は鎮圧され、アポリト文明が滅びない可能性も出てくる。


 いや本当、ここで決着がついたほうが早いんだけどな。闇の勢力が残っている段階で、反乱騒動に決着がついたら、帰るべき未来がなくなってしまうかもしれない。


「さて、大公閣下に俺の活躍は見せつけた。あとはダーハと鬼ごっこしながら撤収だ」


 ディーシーによる遠隔操作によって動いているリダラ・ダーハ。団長専用魔神機は、俺が動かしていると周囲は思い込んでいる。


 その俺が、大公閣下の目の前で、敵対勢力の機体と戦ってみせれば、アリバイとしてはこれ以上ないだろう。闇の勢力を始末するまで大公派を演じるというのも、なかなか面倒なものだ。


 離脱するタイラント。それを追うリダラ・ダーハ。浮遊島を蛇行するように飛行しつつ、ダーハを支援しようとやってきた敵機を、ちまちまプラズマビームライフルで狙撃、流れ弾に見せかけて撃墜しつつ、先に離脱した女帝派部隊と合流を目指す。


 島から離れたところで、リダラ・ダーハは帰投させる。転移魔法でダーハのコクピットに移動すれば、誰も気づきはしないだろう。


 肝心の軍から強奪した戦力だが……。ふむふむ、戦艦5、クルーザー6、空母1、フリゲート9か。

 アポリト軍全体から見れば、大した戦力ではないが、かといって馬鹿にするほど少ないわけでもない。奇襲で奪った白エルフたちの奮闘を考えれば、上出来と認めるべきだろう。


 中央の戦艦に、セア・アイトリアーの姿があった。我らが女帝陛下が率いる艦隊ってか?

 俺はタイラントをそちらへと進ませる。その途中に、リムネや子供たちの魔人機が集まってきた。


『お帰りなさい、ジン様』

『父さん、おかえり!』

「はい、ただいま。みんな、お疲れ」


 それぞれを労っていれば、エルフたちが駆るリダラ・グラスもまた、俺の機の元に集う。


『お帰りなさいませ、ジン様!』

『ご無事で何よりです、ジン様』

「君たちも無事そうで何よりだ」


 何とも熱烈な歓迎だ。嬉しいね。

 そうこうしているうちにタイラントは、中央の旗艦に到着。その艦載機用甲板に着艦。格納庫に向かえば、パイロットスーツ姿のヴァリサがいて、その周りにゴールティンやエリシャ、女帝派の面々が集まっていた。


 大方、女帝陛下の無事に感激し、また今回の救出劇で改めて彼女に忠誠を誓うとかやっているのだろう。

 タイラントを下りる俺。さて、このヘルメットは、もう外していいのかな?


「ジン・アミウール、よく戻ってくれました」


 ヴァリサが先手を打って、俺の名前を呼んだ。これはさっさと顔を見せろという流れですね、わかります。


「ジン・アミウールだと……!?」


 周りから驚きの声が上がる。素顔をさらしてやれば、その驚きはさらに加速した。彼らからしたら、俺は大公派だと思われているからね。

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