第1013話、女帝派、救出


 その一閃は、百の光の矢となって、飛来した十五機のリダラを撃ち抜いた。


 光のシャワー。 

 セア・アイトリアーの一撃は、敵魔人機一個中隊を瞬時に撃破した。

 俺は思わず口笛を吹いてしまう。さすが魔神機。


 こりゃ多少のゴリ押しも不可能ではないな。ハリダ工廠で適当に暴れたら撤収のつもりだったが、その気になれば施設の完全破壊も可能だ。

 が、欲を出すのはいけない。目先の戦果に釣られて作戦を失敗させた例など、歴史には掃いて捨てるほど存在するのだから。

 当初の予定どおりに進めるとしよう。俺にはもう一カ所、寄るところがあるからな。


 タイラントをイター監獄へと飛ばす。監獄のある浮遊島には、外の警備を担当するリダラ・ゴルム、リダラ・コルクラが向かってきた。


「今回は、専用武器を持って来てるもんね!」


 召喚、タイラントの右アームにライフルが握られる。


「プラズマビームライフル、行けよ!」


 先手必勝、リダラ・タイプの射程外からの一撃は、敵魔人機の防御障壁を貫いた。指揮官機である青のリダラが爆散する。


 威力は申し分なし! プラズマカノンをライフルに落とし込んだ武器だからね。

 だが、このライフルはそれだけじゃないんだ。モードチェンジで――


「散弾もなぁ!」


 急速に飛び込んできた紫のリダラに、プラズマ弾発射口の下部にあるマルチガンより実体弾を発砲、魔破弾が障壁を通過し、敵機をズタズタにした。


「お前たちには、こいつのテストに付き合ってもらうぞ!」


 タイラントは、迎撃機を次々に撃墜していく。銃身のパーツを開口してのプラズマショットガン、逆に収束してのプラズマビームソード。多様なモードで、リダラ機を殲滅せんめつすると、いよいよ監獄島へと飛んだ。


「ディーシー、中の様子は?」

『ダンジョン・モンスターが、看守どもを始末してまわっているよ』


 彼女は答えたが、声の調子が変わった。


『どうやら通報されたようだ。帝国城のケーブルカーが増援を乗せて移動中だ』

「なら、そのケーブルカーが到着できないようにしておこう」

『いいのか? 唯一の外界へのルートだぞ?』

「帝国城に直行だぞ? 囚人がそんなもんに乗って脱出するか」


 浮遊島にあるイター監獄。地上との唯一の道が、多数の兵を抱えた帝国城。故に脱獄をほぼ不可能としている場所だ。……空はガラ空きだがな。


 俺はイター監獄、その建物の屋上にタイラントを降下させた。ヘルメットで顔を隠し、監獄内部へ。ディーシーにタイラントを任せ、俺は前回下見した施設内を進む。


 看守の死体が転がっている。壁や床に血が跳ね、生々しい。事前に放ったダンジョンモンスターが、敵兵を殺して回っているのだ。


 監房区画へ到着すると、囚人たちが騒がしかった。見張りがモンスターに殺された後、無人となったので、脱出できるなら今と思ったのだろう。


「おい! そこの! こっから出してくれ!」


 明らかに看守と違う格好をしている俺に、助けを求める囚人たち。


「化け物がいるんだ! 助けてくれ!」


 それはいいけど、この監獄から出た後、島から脱出する手はあるの?

 俺は、囚人の中から女帝派として収監されている人間を見かけると、その牢を開放した。


「君はいったい?」

「仲間を助けてやれ」


 俺はそう告げると、重要目標である親衛隊隊長ゴールティンの元へ向かった。そして目的地に到着、鉄格子ごしに中を覗くと、様子を見ていたのかゴールティンが立っていた。


「貴様は何者だ?」

「女帝陛下のお使いだ。貴殿を助けにきた」

「陛下の? いや、しかし陛下は――」

「死んだ、などと言うなよ。陛下はご無事だ。会わせてやるから、そこを出ろ」


 俺は牢の鍵を解除し、ゴールティンを解放する。まだ事情が飲み込めないのか、警戒するように出てくる親衛隊隊長殿。


「陛下が生きていらっしゃるというのは、本当か?」

「ここを出たら会わせてやると言った。ついてこい」


 俺はさっさと次の目的地へ。途中、ゴールティンに彼の仲間たちを助けさせて、先に行く。

 そして到着。


「エリシャ・バルディア、生きているか?」

「……」


 相変わらず虚ろなエリシャ。強気な黒騎士の姿は見る影もない。牢を開ける。


「助けに来たぞ」

「……」


 反応が薄い。さっさと動いてくれないと、面倒極まりない。いくら美女でも、お手々引いて、行動は……いっそお姫様抱っこしてやるか?


「女帝陛下がお待ちだ」

「陛下……」


 視線が動いた。何この観察日記。ダンジョンモンスターが場を一掃してなかったら、とっとと叩き出しているところだ。


「ヴァリサが迎えにきてるぞ……」

「……!」


 カッと目を見開き、勢いよく立ち上がったエリシャが俺の元に突っ込んできた。


「あなた、どういうことよ!? 女帝陛下は……い、生きているの!?」

「だから迎えに来たんだろうが」


 胸ぐら掴む勢いのエリシャ。外で待っていたゴールティンも慌ててやってくる。


「落ち着け、エリシャ。まずはここから脱出するのが先だ!」

「ゴールティン隊長……。そうですね、脱出を――いや、ここイター監獄ですよね? 脱獄は不可能では?」


 難攻不落、脱獄不可能と名高い監獄の噂はもちろん、彼女とて知っている。だがゴールティンは言った。


「そうは思うが、彼に考えがあるだろう。ここにこれたのだから」

「屋上に」


 俺は天井を指さした。


「迎えが来る。わかったら急げ」


 頷くと、ゴールティンが他の女帝派連中と上を目指した。俺も走る横で、エリシャは言った。


「本当に、ヴァリサは……女帝陛下はご無事なんでしょうね!?」

「もちろんだ」

「嘘だったら承知しないからね!」


 どうやら、いつもの調子に戻ったようだ。こちらの素性とか聞かないあたり、まだ余裕はないかもしれないが、自分の意思で体が動いているのなら問題はない。


 監獄の屋上に出る。そこには俺のタイラントがいて、空中艦格納の連絡艇が着陸していた。全長20メートル弱、三角の翼を持つ船のような外観だ。


「あの青い不明機……?」


 とっさに呟いたエリシャ。先にいたゴールティンに声をかけようとして、彼と仲間たちが呆然と突っ立って、ある方向を見ているのに気づく。


 その視線の先には、白と青の翼を持った天使の姿があった。


「アイトリアー……! ヴァリサ……っ!」


 エリシャは口もとに手をあて、感極まる。


 女帝専用にして光の魔神機。その翼ある女神を操るは、死んだと思われたヴァリサ女帝陛下のみ。その存在こと、彼女が生きていたことの証明だ。


 感動に打ち震えるエリシャに、俺はささやいた。


「連絡艇に乗ってもいいが、どうする? 女帝陛下をお守りするなら機体があるが」

「も、もちろん、お守りするに決まっているわ! でも機体は――」


 そう言いかけ、エリシャは絶句した。

 彼女の愛機にして黒騎士、リダラ・ドゥブが屋上に着地したのだ。

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