第1007話、白エルフの解放
さあて、忙しくなってきやがった。
仕組まれた女帝暗殺事件により、アポリト浮遊島中の白エルフが拘束され、処刑される。
これは阻止しないといけないやつだ。
何故なら、元の時代には白エルフたちがいる。ここでアポリト人により白エルフが全滅させられたら、歴史が変わってしまう可能性が高い!
スティグメは、新しい白エルフを作ると言ったが、今回の騒ぎがあった以上、当面、白エルフが作られることはないと思う。民の感情を鎮めた矢先に、またすぐ白エルフを量産するのは考えにくい。
闇の勢力との最終決戦が近づいている。まるで彼らを歯牙にもかけないようなスティグメだったが、このアポリト文明は滅ぶ運命にある。
そしてそれは、おそらく反乱軍との戦いにおいてだ。この反乱軍というのは、白エルフたちのことではないか。
というか、そもそも反抗勢力がなければ、反乱が起きない。そして現状、アポリト人と戦う動機があるのは白エルフだろう。
……新しく従順なタイプは反乱しないだろうしな。
この手探りで、歴史を左右する問題をぶつけてくるのやめてくれないか。百パーセント確信がもてないから、心臓に悪い。
では、どうするべきか考えよう。
白エルフを救えるだけ救わねばならないが、彼らをどうやって救出するのか? そして救ったとして、エルフをどこに住ませるか? 食料の確保を含め、生活させていかねばならない。
メタゲイト研究所から、魔術人形の子供たちを救い出した時と同じ問題だ。ただし規模は、その比ではない。
……ダンジョンか。
シェルターとしては悪くない。むしろその強固な外装は、大抵の攻撃にビクともしない。魔力さえ確保できるなら、モンスターを出没させる代わりに木の実とか食料を生成することもできるだろう。
むしろ、今、俺の打てる手ではそれが最上の案だ。
「どう思う? ディーシー?」
ダンジョンコアである彼女に相談してみれば――
「それが得策だろうよ。こっちには我とオパロ・コアがある。場所についてはよいとして、問題になるのは――」
「エルフをどう救出するか、だな」
表立って動けば、完全に反逆者だ。俺としては、闇の勢力と決着がつくまでは、アポリト軍の一員として行動したいんだよな。あいつらは、のちの歴史のためにも滅ぼしておく。……そういえば、大公派と闇の勢力が繋がっている可能性を疑ったんだっけ? やれやれ、面倒だなぁほんと。
「マッチポンプ作戦でいくか?」
ディーシーが提案する。
マッチポンプ作戦――かつてエツィオーグの少年少女を救出するために、彼らを移動させる命令を発しておき、潜入させたシェイプシフター兵たちと細工して大帝国を欺いたやつだ。
「エルフを処刑する場を、変装したシェイプシフター兵たちに固めさせ、アポリト人を閉め出す。処刑している風を装って、白エルフたちを転移で逃がす。よし、それでいこう」
こちらは手駒が少ない。エルフたちは処分される場所に集められるのだから、そこで横取りしてしまおうということだ。
アポリト人たちが白エルフを処分していると思い込めば、エルフたちがごっそり消えても気づかないし、追いかけてくることもない。
「ディーシー、処理場のデータは出せるか?」
「ああ、表の施設は、以前に調べ上げているからな」
浮遊島を調べた甲斐があったというものだ。一部アポリトの重要施設が黒く表示されないところもあるが、必要な時に大体の記録が出てくるのはありがたい。
「さあ、どう攻めるか」
・ ・ ・
スタフィテ焼却場――アポリト浮遊島にあるゴミ焼却施設である。ここでアポリトに住む白エルフたちが処分される。
施設の焼却場は、煮えたぎる灼熱のプールがあって、普段はそこに不要なゴミを放り込んでいる。アポリトの連中は、このプールを使って、白エルフを骨まで溶かそうというのだ。
次々に施設へと運ばれてくる白エルフたち。アポリトの保安部隊が睨みを効かし、抵抗するエルフは容赦なく殴り、蹴る。
女帝暗殺の実行犯ではなくても、白エルフというだけで悪という思考が、軍人や警官たちの頭にあって、暴力を振るわせた。
アポリト人に対して従順である白エルフたちも、昨日までとは変わってしまった環境に戸惑っている。処分されるという不安と恐怖は、その顔を強ばらせる。手枷をはめられ、焼却炉へ死の行進をさせられるエルフたち。
絶望が足取りを重くさせる。これまでの人生を振り返り、唐突に捨てられ殺されようとしている現状に、憤りと理不尽を感じる者が少なくなかった。
――どうして我々がこんな目に……!
――あんなに人間に尽くしてきたのに!
嘆き。怨嗟。それらがない交ぜになって、エルフたちは進んだ。道を外れれば、向けられた凶器によって殺される。もはや、どちらを向いても、死しかなかったのである。
そして焼却炉のあるフロアへと、エルフたちは到着する。入り口をくぐれば、灼熱の焼却設備――ではなく、広大な洞窟のような空洞の中。
エルフたちは、先にいた大勢のエルフたちの姿に目を見開く。驚いたことに、そこにいたエルフたちは手枷をはずされ、思い思いに談笑したり、喜びを分かち合っていた。
連れてこられたエルフたちも、そんな先にいたエルフたちによって枷をはずされていく。
「もう大丈夫だ。私たちは助かったんだぞ!」
「え……?」
まだ事情を飲み込めないエルフたちに、事情を知っているエルフが説明した。
「後がつっかえるから前へ進んでくれ。我々エルフはアポリト人に殺されるところだったが、それをよしとしない人によって逃がしてもらったんだ」
「そんな……」
「いったい誰なんだ、その人は?」
困惑するエルフたちに、説明を買って出たエルフが奥を指さした。
「あの方だ。十二騎士団長、ジン・アミウール様だ!」
空洞の奥には、二機の魔神機が立っていた。一機はアポリトに住む者なら誰もが知っている十二騎士団長機、リダラ・ダーハ。
そしてもう一機は魔神機のように見えて、魔神機ではない青い機体。それを見たあるエルフが声を上げた。
「あ、あれは、六番島の軍の基地を襲撃した機体じゃあないか!?」
先日、島全体が厳戒体制に置かれた騒動の機体だ。多くの人にとっては初めて見る機体だが、極一部に実際に目撃した者がいた。
「そうだ。あの騒動、ジン様が起こしたモノらしい。何でも軍がしていた秘密の人体実験の施設があって、それを攻撃したんだそうだ」
それは反乱では――エルフたちは思った。だが同時に、そういう立場の人間だからこそ、処分されかけたエルフを救おうとしてくれたのかもしれない。
「何故、エルフを助けてくれるんだ……?」
しかし中には、わからないと思う者もいた。仕えていた人間に裏切られたと感じる者にとっては、所詮、ジン・アミウールも人間ではないか。
「あの人は、エルフに好意的なんだそうだ。仕えている白エルフにも道具としてではなく、人と同じように接していたらしい」
そうなのか――納得する者、納得できない者、反応はそれぞれだったが、アポリト浮遊島の白エルフたちは、社会的に処分されたが、実際は生き延びることになった。
続々と、焼却場に送られてくる白エルフたち。世間はそれらの処分が行われていると信じて疑わなかった。エルフたちは連行されたが、焼却炉のある部屋から転送魔法ゲートによって、安全地帯に解放されていったのである。
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