第1005話、全種類をコンプリートしたい気持ち


「プラモデルが増えたな」


 俺が言えば、子供たち一番の巨躯の持ち主であるサントンが優しく笑った。


「うん。ディーシーママが欲しいモデルをくれるんだ。ボクはそれを組み立てる」


 以前、ディーシーが魔人機の模型をパチパチと作っていたが、それがプラスチックモデルもどきとなって、子供たちの玩具になっている。

 特にサントンは、製作だけでなく塗装や改造もやっている。時代が時代ならプロモデラーを目指していたかもしれない。


 彼の棚には、これまで作った魔人機コレクションが並んでいる。ドゥエルシリーズ、リダラ・シリーズ、そして最近は、セアシリーズの四大女神機がラインナップに加わっていた。

 なお、彼のお気に入りは『タイラント』。メタゲイト研究所を襲撃した際の俺の愛機だが、彼にはヒーローのように見えたのだろう。


 余談だが、原型となるパーツを魔力生成で作っているディーシーさんも、その製作スキルが上がっていて、現在の品には最初から色がついている。


「それに頑丈になったんだ」


 サントンは棚のそばにあるジャンクパーツを一瞥いちべつした。


「最初のは、ポーズもとれて稼働できたんだけど、構造があまり強くなかった」


 魔法をかけて、手で触れずに動かすという遊びをしたサントンだが、他の子供たちがそれを見て、とある思いつきを実行した。

 つまり、プラモデル同士のバトルだ。どこかで見たような、玩具を戦わせる遊びだ。……まあ、その結果はひどいもので、乱暴にプラモデルを扱えば壊れる。


 例のボールを浮遊するゲームも、ボールではなくプラモでやったらリアルだ、なんて壊れるのも含めて楽しんでいた子供たちだったが、制作者であるサントンは大変悲しみ、そして激怒した。


 ふだん怒らないと評判だった彼のそんな姿は、子供たちにトラウマを刻むことになる。怒られると反発することもあるのだが、サントンの心底ガッカリした背中は、怒りよりも悪いことをしたという想いにさせた。


 結果、プラモでは戦わないというルールが暗黙の了解となった。

 でも、俺は密かに、プラモバトルを訓練の一環で使おうと思っている。繊細なプラモを壊さずにバトルで使う、という一歩上の魔法技術向上のために。その際は、自分で作ったもので戦わせるつもりだ。サントンから借りるとか、外道な真似はできん。


 閑話休題。


 俺は、サントンと彼の作品を、ヴァリサに見せる。


「光の魔神機って、どういう機体なんだ? 軍でも普段は封印されていて、中々見ることができないって話だけど」

「ジンは、見たことないの?」

「ない。……なあ、サントン、見てみたいよな?」

「うん、見たい」


 子供の好奇心を利用して誘導する大人。魔神機の情報はお持ち帰りしたい。


「描くものある?」


 ヴァリサが光の魔神機を絵に描くと言った。どんな機体なのか、期待して待つこと数分。


「できた! これが『セア・アイトリアー』よ!」


 魅力的な笑みを浮かべ、ヴァリサが披露したそれ。……なんじゃこりゃ。

 残念なことに、彼女に絵のセンスがないのは一目でわかった。まあ、素人にロボ絵は難しいよなぁ。


「これは、翼か……?」

「下に伸びてるのも翼っぽい……」


 四枚の翼を持つ人型。天使を模しているのだろうか。だが翼のスケールがかなり大きい。風のセア・エーアールも四枚翼だが、それよりも二回りほど巨大だ。

 それに腕のところについているのは盾、いや剣か? 機体の全長ほどもある巨大剣が腕にひとつずつマウントされているようだ。 


 頭部にはアンテナ状の突起が五本くらいあるが、顔の造形は絵が下手過ぎてよくわからない。

 女性型シルエットが特徴のセア・シリーズにあって、足先の形状などにそれらしさがあるが、パッと見だと、普通に人型メカっぽい。


「やっぱり実物が見たいな」

「そうだね」


 サントンも同意した。


「ヴァリサ、これ見に行けないかな?」

「稼働テストは無期限延期になっているのよね……」


 ヴァリサが考え深げな顔になった。


「あんなことがあった後だから。……定期的に動くか試験しないといけないらしいのだけれど」


 何せ、封印の中に格納されているから、とヴァリサ。彼女が言うあんなこととは、女帝暗殺未遂事件のことだ。俺が女帝陛下に覚えられ、現在に至るきっかけを作った事件である。


「正式な行事ではなく、こっそり忍び込めないか?」

「忍び込む?」


 ヴァリサが目を丸くした。


「それって悪いことじゃない……?」

「普通に考えたらよくないね。見るだけさ」


 それのどこが悪い。俺がそう言えば、ヴァリサも見るだけなら悪くないか、と口にした。


「だけど正規の手続きを踏んでいると、いつになるかわからないだろう?」


 そもそも正規の手続きって何だ? 光の魔神機の起動テストやらをやれと言って、よしやろうと上層部が決めるのに、どれくらい時間がかかるだろうか?


「ヴァリサが女帝の権限をちらつかせれば、すぐにできるなら話は別だが」

「うーん、どうかな。ああいうことは、わたくしの一存では、これまで決められなかったから」


 彼女は肩をすくめた。

 では駄目だな。近々、大きな作戦があり、俺もそちらに駆り出されそうだから、のんびり待っていたら間に合わない。


 具体的な潜入の手を考えていたら、ドタドタと子供たちの駆ける音が近づいてきた。何だ……?


「父さん、大変だ!」

「どうしたレウ?」


 駆け込んできたのは、レウとリュト、ロンだった。


「帝国城が爆破されたんだ!」

「何だと!?」

「っ!?」


 聞き違いかと思った。俺も驚いたが、ヴァリサは思わず口もとを手で押さえていた。


「爆破されたってどういうことだ? まさか、闇の勢力が……?」

「違うよ! とにかく、居間にきて、まだ映像で流れているから!」


 というわけで、魔力テレビジョンのある居間へと走る。他の子供たちも集まっていて、流されている映像に注目している。


『――女帝陛下の御座す天守閣が爆破されました。現在、救出作業が行われていますが、女帝陛下の安否の確認はとれていません』


 女帝の間やプライベートルームがある塔が爆破されたという報道。

 アポリト浮遊島の中央島、その頂点にある帝国城の天辺が赤々と燃え上がっている。すでに日が落ち、夜の帳が下りた中でのそれは、特大のロウソクのようだった。


『犯行はエルフ操縦のリダラ機が使用され、犯人は爆死した模様です』


 緑カラーの魔人機。大破した白エルフ用の機体が画面に映る。


『これを受けて、頻発する白エルフによるテロ攻撃であると断定、貴族院は非常事態宣言を発令し、アポリトに存在する全ての白エルフを拘束、収容すると決定を――』

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