第1004話、子供たちと遊ぶ

 

 地下エリアに下りる俺とレウ。ダンジョンエリアの他に、作業場エリアがあって手先が器用な子供たちが、道具や魔人機をいじっている。


「やってることは、研究所と変わらず兵器いじりなんだよな」


 俺が苦笑すれば、レウは否定した。


「好きにやれるのはここだけだよ。研究所では、むしろいじられるほうで、あれは苦しいし、痛かった」


 レウは表情を歪める。


「ノルマ達成できないと、とことん貶めてきて。……でもここじゃ、それはないし。おかげで体調もいいんだよね」

「過度なストレスを受けていた反動だな」


 会社を思い出して、俺も苦い気持ちになる。その点、ここでは肉体や精神を削る罵倒や苦痛、強制はない。


 作業場エリアは、巨大な格納庫でもある。そこはディーシーの力であるダンジョンなので、表と中の大きさは等しくない。

 だからというわけではないが、魔人機が複数置かれていたりする。余所から調達などできないので、ディーシーが魔力で作り上げたものである。……世界樹が近いと魔力が豊富にあっていいよねぇ。


 男の子たち用にリダラ・タイプ、女の子たちはセア・シリーズと、それぞれが独自の改造を施されていた。

 外見上、大きく変わっているのが、火属性機のセア・ラヴァであり、三機あるそれぞれが髪状のパーツが追加され、うち一機は、魔神機であるセア・ピュールと同じツインテール仕様になっていた。……色がピンクだったりするのは、子供たちの趣味なんだろうな。


「結局、僕たちは、こういうことしかできないんだ」


 レウが、子供たちが魔人機を整備したり、動かしているのを見ながら呟いた。


「あの研究所から離れても、あそこで学んだことが根底にあって、そこから逃れられない」

「特技は特技だよ」


 俺は、こちらに気づいて手を振ってきた子供たちに手を振る。


「これまで学んできたこと、その中で活用できるものがあるなら使えばいい」

「……うん」


 レウはコクリと頷いた。すんなり納得はしていないようだが、それでも前向きに捉えようとしているようだった。

 俺は話題を変える。


「さて、レウ。魔法と魔人機、どっちから見ればいいかな?」


 そういう約束だったからね。男の子組最年長の彼は、俺がいなくなった後も子供たちを引っ張る存在になるだろう。


 そのポジションの自覚があるのか、俺から積極的に戦う術や魔法を学ぼうとする。なお、十二騎士選抜大会での俺の戦いぶりを収めた記録映像は、教本代わりになっていたりする。


「じゃあ、まずは魔法格闘から、かな」


 上着を脱いでシャツ姿になるレウ。細い見た目だが、鍛えられた筋肉質な体をしている。これも強化された肉体というやつか。


 何人かの子供たちが集まってきた。たぶん、腕試ししたい子たちだろう。ここじゃ、順番待ちされるほど人気者だからね、俺。



  ・  ・  ・



 メタゲイト研究所が研究していた魔術人形は、魔神機の操縦者や、魔法兵器を運用するために作られた。


 女神巫女を研究所から送り出す、という目標を掲げ、その成功第一号は、現在の水の魔神セア・ヒュドールに乗るリムネ・ベティオンだ。

 それに続けとばかりに実験や調整、そして訓練が繰り返され、女神巫女候補として四人が育成されていた。


 上からディア、アリシャ、アレティ、イリスだ。


 なお男の子組も、次世代の十二騎士入りを目的に、レウ、ロン、クロウが調整されていた。

 他の子たちは、機械との融合実験だったり、他の魔法兵器運用に用いられていた。


 そんな経緯があって、魔神機組は、魔法や戦闘術のほか、魔人機を使わせても上手にこなした。いや、年少組のアレティとイリスは少々、技術に不安があるが……。

 ただ、魔力のポテンシャルは、むしろ年少組のほうが年長組より高い。これもそれまでの研究による成果だろうが、何とも皮肉なものである。


「アレティ、お父さんと勝負するかい?」

「遠慮します」


 11歳のアレティさん、実に淡泊。反抗期ですか、この子は? 元の時代で会った時は素直な子だったのだが……。まだ信頼度が足りないのか、俺に冷たいんですけど。

 そういや、あの時も割と距離感が掴めなかったが、こういう性格だったからかもしれない。


 他の子と違って模擬戦をしたり、積極的に話かけてくることもあまりない。大人しく、手間が掛からない子、というのが今の印象だ。


「おとーさん、イリスとしょうぶするの!」


 一番ちっちゃいイリスは積極的だ。

 いま遊んでいるのが、魔法で浮かせたボールをぶつけ合って、場外へ弾き飛ばすというゲームだ。魔法のコントロール訓練で、言ってみれば、浮遊するビット兵器を魔法で制御する術だ。


 初心者は一個。熟練者は、複数のボールを同時に飛ばす。上級者同士だと、術者は床に座ったまま、その上で十数個のボールがぶつかり合うとかいう異様な光景が見られる。


「ちなみに、イリスはいくつボールを操れるんだい?」

「むっつ!」

「おお、凄いな」


 子供たちの中で、最大ボール浮遊数タイ記録だ。最年少だが魔力ポテンシャルの高さを見せつけてくる。


「ふっふっふ……」


 何やら不敵な笑みを浮かべて、ヴァリサが近づいてきた。ここにきて、このボール制御ゲームを知った彼女は、どんと胸を張った。


「わたくし、12個できるわ」

「……マジ?」


 子供たちの倍である。「嘘だぁ」と聞いていたメランが言えば、ヴァリサは眉を潜めて「嘘じゃありませんー」と子供っぽく返した。もうすっかり馴染んでいるなぁ。


「見ていなさいよ……」


 そう言って、ボールを浮かせるヴァリサ。本当に12個を同時に浮かせてみせて、メランや他の子たちも驚く。


「すげぇー!」

「……すごくないもん」


 イリスが何故か拗ねていた。6個操れると自信たっぷりに言って、俺に褒められた矢先だっただけに、水を差されてご機嫌ななめなのだろう。……可愛いやつめ。ぐりぐりと撫でてあげよう。

 ヴァリサがゲームに参戦した結果、子供たちと彼女の戦いを見学することができた。覚えたゲームもコツをつかむと圧勝しはじめた。


 さすが女帝専用と言われる光の魔神機の操縦者であるヴァリサ。ビット兵器のコントロールのレベルも高いということか。

 ……あれ、彼女はオリジナルでなくコピーだけど、魔神機も動かせるんだろうか?


『主、聞こえるか?』


 ディーシーからの魔力念話が聞こえた。


『何だ?』

『例の光の魔神機があるとされるハリダ工廠だがな、さっぱりお手上げだ』


 ヴァリサがいるので、これまでよくわかっていなかった光の魔神機の調査を再度行っていたのだが――


『女帝がいないと開かないプロテクトで覆われている。こちらからは探れない』


 魔力スキャンすら不可能な魔法金属体の中に、収納されているらしい。


『わかった。ありがとう。引き上げていいよ』


 さて、どうしたものか。ヴァリサに協力を仰げば、プロテクトも破れるだろうが、どういう理由で説得するのが確実だろうか?

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