第1000話、女性に年齢を聞くのは……
ヴァリサ女帝陛下は、外の世界に強い関心をお持ちだ。
アポリト浮遊島の外、闇の勢力の戦いの話にも、興味深く耳を傾けてくださる。こうしていると、本当に年若い娘であり、前々から感じていた実年齢との
要するに、ギャップだ。
「どうしましたか?」
俺がマジマジと見つめていたせいだろう。女帝陛下は小首をかしげられた。
「いえ……失礼ながら、陛下は大変お若くあります」
「貴方だって、若いでしょう?」
いたずらっ子のような笑みで返された。確かに、俺の見た目は二十歳前後だ。中身は三十だがね。
「どうですかね。見た目が全てではありませんよ」
「意外と年上?」
「陛下の実年齢を知りませんから、何とも」
そう
「ふふ、いくつだと思いますか?」
「……そうですねぇ」
俺は顎に手をあて、真面目ぶる。女性に年齢の話はタブーだが、これまた答えにくい問いかけだ。
若くサバ読んであげるのが無難なのだが、なにせ女帝陛下は外見と中身がかけ離れているので、あまり若くし過ぎてもヘソを曲げられる恐れがあった。……まあ、実年齢より高く言われるよりはマシだろうけど。
「世間での肖像画よりは、お若く見えます」
「よい答えです。でもまだ遠いですね」
ニヤニヤされている女帝陛下。質問する方は楽しいだろうな、こういうの。
しかし、世間での肖像画は三十代くらいに見えるやつだが、まだ遠いとは? 肖像画より若くが、正解っぽい響きに感じられたが、それだと世間一般の年齢と真逆を言っていることになる。……そうなのか?
あるいは、以前抱いた荒唐無稽な想像であるヴァリサ女帝陛下のクローン説が、実は当たりだったとか。
「まさか十代?」
冗談のつもりで言ってみれば、彼女はクスリと笑った。
「正解です。実は三日前に、ようやく二桁を超えたの」
……はい? マジで?
さすがに面食らう。二十代に見える娘が、実はまだ十歳。俺が保護した魔術人形の子供たちの年少組じゃないか!
女帝陛下は声をあげて笑った。
「あはは、知っていてその答えじゃなかったんですか? おっかしい。貴方の驚く顔が見られたわ」
「そりゃ驚きますよ」
実年齢より外見が年上なんて、一般女性的にはどうなんだろうか。
「貴方は秘密を守れる人だから言いますけど、わたくし、ヴァリサ女帝陛下のオリジナルではないのです」
「複製ですか」
クローン説が正解だったとは。外見はオリジナルのまま、実は中身は入れ替わっていましたってか。
老人たちの操り人形なら、外見だけ整っていればいいわけだ。
中身が幼いわけだ。外の興味津々とか、メンタル面は調整できなかったのかね。……メンタル調整までしていたら、さすがに胸糞が悪いが。
「わたくしは、三人目、いえ、たぶん四人目だと思うの」
ヴァリサ女帝陛下、そのコピーだという少女は言った。
「この帝国城の地下深く、浮遊島内の施設でわたくしは作られた。時々、夢でわたくしが複数いて培養カプセルに浮いている光景を見るのだけれど、たぶんそれ本当にあったことだと思う」
「……よろしいのですか?」
俺は息苦しさを感じて襟元を広げた。さすがに、この話は公にできることではないだろう。
「いいのです。いえ、本当はよくはないのだけれど、わたくしと貴方の関係だから」
「どのような関係でしょうか?」
「お友達、でしょうか」
恋人と言われなくて、ホッとした。
「ちなみに、あなたのことを知っている人間は?」
「ここではエリシャが知っています。でも他は……どうかしら? わたくしを作った者たちは当然知っているでしょうけれど。あー、後は貴族院のお爺さま方たちかしら」
お爺さま方、ね。そういや、俺もまだお目にかかっていないんだよね、アポリトを支配している連中には。
ペラペラと喋ってくれるのは、俺のことをすっかり信用してくれているからだろうか。たかだか数回のお茶会で、よくも信じられてしまったものだ。
これも世界を知らない箱入り娘ゆえかもしれない。
「……さすがに引きました? わたくしが、本物のヴァリサではなくて」
「驚きはしましたけど、別に引くことでは」
妄想が当たっていたってことで、納得しかけている分、正気は保てている。
「引かれたら嘘です、と言うつもりだったのですが……その必要はなかったようですね」
えへへ、と、女帝の姿をした少女は笑う。
「やはり、貴方は、わたくしのお友達です」
「それは光栄です」
もし嘘だったら、迫真でしたね。それとも、俺が馬鹿正直なのかな?
「一度見てみたいものです。あなたの生まれた場所を」
アポリト浮遊島本島、帝国城の地下なんて怪しさ満点だ。クローンが製造できる地下施設など、このアポリトの中枢にも近いだろう。
こっちは調べを進めていたが、まだまだ底が知れないな、魔法文明は。
「うーん、わたくしとしては案内してあげたいのですが」
細い顎に指をあて、考える女帝陛下。
「さすがに貴方を連れていくのは、お爺さま方がお許しにならないでしょうね……。でも、どうしても行きたいのなら、何か手はないか考えましょう」
「……いいんですか?」
「わたくしのお友達のためですもの」
ヴァリサは満面の笑みを浮かべた。これが十歳の娘の無邪気さよ。まるで心が洗われるようだ……。
「それで、ジン。わたくしもお友達として貴方にお願いがあるのだけれど」
「何でしょうか?」
「わたくしを、外の世界に連れ出して」
何気に爆弾ぶっこんできたぞ、このクローン娘。
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