第995話、外周艦隊の危機

 

「飛行体、三〇方向より高速接近中! 総数二〇、識別、飛行クジラです!」


 艦橋に響く索敵士の報告。十二騎士の白騎士こと、ディニ・アグノスは、その美顔を歪めた。


「またも敵の増援か!」


 アポリト軍外周艦隊は、闇の勢力の空中部隊と交戦状態となっていた。


 初めは、敵飛行クジラ群が外周艦隊のテリトリーに侵入してきたという通報だった。


 敵の総数は百には届かなかったものの、それなりの戦力だ。アグノスが率いる戦隊も含め、外周艦隊所属の近隣部隊が集結し、これを迎え撃った。


 が、敵は次々に増援を投入し、外周艦隊に牙を剥いてきた。


「閣下! 航空隊の損耗50パーセントを超えました! 新手を迎撃できません!」


 艦長が切迫した声で報告すれば、索敵士が新たな報告を追加する。


「さらに敵性飛行体群、第七派出現! その数、四〇から五〇!」

「私もリダラ・バーンで防空戦に参加する!」


 アグノスは自ら魔神機を駆る決意を固めた。いまは戦力が不足している。空中戦にも対応できるリダラ・バーンは役に立つだろう。


「味方の援軍は? あとどれくらいで到着する!?」

「通信士!」

「……第三十二巡洋艦戦隊が五分で到着。ですが、第九戦艦戦隊からは依然、応答なし!」


 それを聞いたアグノスは憤怒に駆られる。


 近場にいる第九戦艦戦隊は、東方方面艦隊の所属だ。艦隊が違う上、女帝陛下の遊撃艦隊である外周艦隊と反りが合わない。


 いわゆる派閥争い。闇の勢力という同じ敵と戦う味方であるはずなのに、共同戦線もままならないことに、苛立ちを通り越して怒りすらおぼえる。


「閣下! 魔力収束現象を観測!」


 索敵士が振り返った。


「と、突然、巨大物体が出現! あ、こ、これは!」


 コンソールに向き直った索敵士が声を弾ませた。


「味方です! 戦艦『エスピス』……アミウール戦隊です!」

「ジンが!?」


 アグノスは目を見開いた。



  ・  ・  ・



 転移魔法による戦場侵入。戦艦『エスピス』は、出現と同時に、左舷側に主砲を旋回して、外周艦隊に接近しつつあった第六派の敵クジラ群を迎え撃つ態勢に入った。


 同時に、艦載機隊の展開。俺もリダラ・ダーハのコクピットにいて、右舷カタパルトからの発艦一番乗りと洒落込む。


「フルトゥナ隊は、先行しているエーアールと合流を急げ。エルをひとりにするなよ」

『了解です!』


 セア・エーアールに従う従者巫女たちのセア・フルトゥナが左舷カタパルトから発艦準備中。


 なお、グレーニャ・エルのセア・エーアールは戦隊に先んじて出撃していて、戦場の状況を報せる任務を果たしていた。


 ディーシーによる戦艦転移が行えたのも、エルからの位置座標の報告があればこそだ。


 戦艦が30センチ魔法砲を発砲する中、俺は後続機を一瞥する。


「ブル、今日の随伴はお前だけだ。遅れるなよ」

『了解、ボス』


 リダラ・ダーハ、出る! ――右舷カタパルトから大空へと打ち出される魔神機。


 外周艦隊に急接近する飛行クジラの集団。戦艦からの艦砲射撃が、標的とされた不運なクジラを撃墜するが、とても進撃を阻止できない。


 そして先頭のクジラから射撃体勢に移るのが見える。


 シールドビット展開。俺はダーハに装備されている、一見するとマントのようにも見えるそれを全機射出する。


 それぞれ意思を与えられたシールドビットは、クジラが放った光線を防ぎ、艦艇への攻撃を軽減する。


 そしてお返しとばかりに腕に仕込まれたアームキューブ――魔法砲を連続発射。飛行クジラを撃墜する。


 ブルの改造型ドゥエルも、俺発案のランチャースピア――槍を射出する銃型の武装だが、マギアランチャー機能を併せ持つ――から魔弾を放つ。


『よおし、一匹撃墜!』

「ナイスショットだ、ブル。敵の針路の正面は開けていい」

『そのままだと、旗艦にクジラが行っちまいますぜ?』

「心配無用だ。……ペトラ、準備はいいか?」

『まっかせなさい、団長!』


 火の魔神機セア・ピュールと、護衛の四機のセア・ラヴァが、戦艦の前に配置についていた。そして魔法杖プロクス改で一斉射撃。五つの紅蓮の火柱が突進してくる飛行クジラの群れを正面から炎に包み込んだ。


 大半が巻き込まれたところで、火線から逃れたクジラが数体。


「ブル、わかってるな!?」

『仕留めますぁ!』


 バラけた敵を近接戦で処理。ダーハがブレードで切り裂けば、ドゥエル・カスタムがランチャースピアの槍を撃って串刺しにした敵クジラを撃ち落としていた。……クジラならモリ撃ちか?


『ああっー、ちっくしょう! なんだよ、あれは!?』


 魔力通信機から、グレーニャ・エルの動揺した声が聞こえた。


『クジラじゃない! なんだ、アレ!?』


 敵の新型か――俺は、戦場全体へ意識を向ける。


 外周艦隊は、奮戦しているがあまり状況はよろしくない。そして飛行クジラの他に、見慣れない敵機が混じっている。


 翼の生えた竜、いやワイバーン系か? それと、同じく翼の生えた人型――闇の勢力の人型ロボットか?

 頭部は騎士の兜で、手には槍を持っている。よくファンタジー系の作品に登場する悪魔か、あるいは堕天使のようなボディを持っている。


「……ちっ、ブル。エルを支援する、ついてこい!」

『了解っ!』


 グレーニャ・エルのセア・エーアールは、護衛のセア・フルトゥナ四機と合流したが、騎士頭の人型と空中戦を演じていた。


 と、三機の騎士頭が仕掛けた連続攻撃で、セア・フルトゥナが一機、胸部を槍に貫かれて撃破された。


『なっ……!? よくもぉ!』


 パイロットは生きていないだろう。それがわかるやられ方ゆえ、目撃した者たちは激昂した。グレーニャ・エルもまたその一人だ。


『こいつめ! こいつめ!』


 エアビットを射出して、僚機を撃墜した騎士頭を四方から切り刻む。真っ黒な血のような液体を噴きながらバラバラになる騎士頭。――あれはメカではなく、魔人機サイズの生物なのか?


 交戦は続く。敵の攻撃は九波まで繰り返されたが、撃退に成功した。


 だが、外周艦隊の被害は大きく、またアミウール戦隊でも初の戦死者が出る結果となった。

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