第994話、子供たちに新しい生活を


 リムネは俺の味方である――


「そう断言するのは早計だ」


 と、ディーシーさんはご意見を述べた。


 リムネがもし裏切ろうとした時、早期に通報、もしくは処理できるよう安全装置をつけた。位置通報と魔力通信機能を備えたシグナルリングをプレゼントしたのだ。


「まあ、団長様からの贈り物なんて、大事にします」


 当のリムネはとても喜んでいたが、その裏で小型シェイプシフターが彼女に取り付くことで、恐るべき監視装置となる。


 同時に、もうひとつ、別に保険をかける。

 俺がメタゲイト研究所を襲撃し、アポリト軍の基地を攻撃した行為は、明らかに反逆だ。やったのがバレればマズいのは間違いない。

 その時のために細工をしておくことにしたのだ。


 まず第一に、アミウール戦隊の戦艦『エスピス』と巡洋艦2隻の精霊コアへ侵入、いざという時の艦の制御が奪えるようにした。


 次に、リムネやグレーニャ姉妹らの駆るセアシリーズ魔神機の精霊コアも、乗っ取りができるようプログラムを仕込んでおく。

 これは、元の時代に戻った後のことも考えると役に立つと思う。ディグラートル大帝国が、魔神機を回収して使っていたからね。


「魔神機のシステムにバグを仕込むのは簡単だ。もうダーハで書き換えをやっているからな」


 任せておけ、とディーシーは請け負い、その通りにこなした。


 さて、俺はアミウール戦隊での指揮と、アポリト浮遊島の改造孤児たちの面倒と、二つを行わなくてならない。

 ポータルを使えば、双方の距離はほぼないも同然なので、戦地にいても、毎日、子供たちと顔を合わせて様子を見ることができる。


 しかし常時ついてやることはできない。……と、いうことでニムとカレン、すまないが、よろしく頼む。


「お任せください、ジン様」


 二人は快く了承してくれた。……いや、まあ断らないことは知ってる。


「ジン様、よろしいでしょうか?」

「なんだい、ニム?」

「子供たちの食事は如何いたしましょうか? 私たちは浮遊島にいないことになっていますので買い出しに出れません。また、艦の食堂から15人分の食事を運ぶのは不審に思われてしまいます」

「それはこれを使う」


 俺はストレージから箱形の魔法具を取り出した。


「サバイバル用食料生成器だ。魔力を使って食材を生成する魔法具だよ」


 ウィリディスでの魔力食品を生成するのとほぼ同じもので、これを野外で携帯できるようにした。ゲーム流に言えば、MPを消費して食材を作る感じか。


 今回はキャンプ用で、クーラーボックス程度の大きさだが、ウィリディス軍では戦闘機パイロットなどに、サバイバルキットとしてさらに小型の、携帯食料生成器を持たせていたりする。


「内蔵魔力の関係上、適度に魔力をチャージする必要はあるが、当面はこれで食事の問題は解決できる。キャンプ用だから十数人くらいは大丈夫だ」

「素晴らしい道具ですね!」


 カレンが驚きながらも顔を綻ばせた。


 食事と世話の問題はクリア。

 次に、保留となっていた十五人の子供たちの名前付けだ。ひとりはアレティと決まっているが、他の子たちも名前が必要だ。


 人に名前を付けるなんて、いつ以来か? パッと浮かんだのは、ウィリディスのシェイプシフターメイドたちか? 人じゃないけど。


「……」


 子供たちは自分の名前が、しっくりこないのか、要領を得ない顔をしていた。数字呼びだったのが影響しているのだろうが、まあ、直に慣れるだろう。


「……」


 嫌なら文句を言ってもいいのだが、この子たちは自分の意見を言わないんだよな……。


 さて、次だ。アポリト浮遊島の俺の屋敷に地下室を拡張したものの、子供たちをずっとそこにいさせるわけにもいかない。

 アポリトの天上人たちの派閥争いの巻き添えで、敵対派閥からの嫌がらせや攻撃があった時、地下に謎の子供たちがいました、なんてスキャンダラスなネタを提供するつもりはないのだ。先の研究所攻撃の犯人バレも困る。


 が、俺もこの時代のことはほとんど知らない上に、遅かれ早かれアポリト浮遊島と天上人文明は滅びるのが未来で確定している。


 どういう崩壊の仕方をするのかわからない以上、どこが安全なのか、と言われると……うーん。


 そして考えた結果、ひとつの結論にたどり着く。

 このアポリト浮遊島、その中のひとつ、のちの時代にエルフたちが里とした島。


 どういう理由で本島から分離して地上に落ちたか知らないが、エルフたちの子孫が生き残っていた場所だから、可能性はある。少なくとも、まったくわからない場所よりはマシだ。


 元の時代では、エルフの里とその周辺をディーシーが魔力スキャンしている。現代の状態と比べれば、アポリト人たちに気づかれない場所のひとつやふたつ、見つかるだろう。


「最近の主は、我を酷使し過ぎているのではないか?」


 不満を漏らすディーシー。色々やってもらっているのは事実だ。


「君がいないと、できなかったことが多いのは確かだね。……感謝してる。ありがとう」

「……しょうがないな」


 チョロいディーシーさん。


「働き過ぎの主を持った、我の不幸と諦めよう」

「おい」


 ともあれ、仕事が早いディーシーである。俺がポータルや転移魔法を使うから、移動に費やす時間は最小限。

 候補地を下見し、場所を確定する。さっさとダンジョンクリエイト機能で、秘密の隠れ家を作り上げた。


 それができたら素早くお引っ越し。子供たちが少しくらい外に出ても、アポリト人と接触さえしなければいい場所へ移動だ。

 室内ばかりではなく、ちゃんと外の空気も吸えないと成長によろしくない。ただ、迷子になっても困るので、各自、シグナルリングを持たせておく。


 俺は、子供たちと交流を深めつつ、戦隊での作戦活動の二面生活を送る。


 アレティに会うという課題はクリアしたが、彼女はいまだ俺とほとんど会話をしていない。元の時代での慕いっぷりを見ていると、このまま帰ってしまうのは歴史が変わりそうでアウトだと思う。


 もう少し良好な関係になるように交流しないといけないし、その上で、俺が戻った後、残される者たちのことも考えないといけない。

 十五人も子供を保護したが、後の時代で関わるのは今のところアレティのみ。他の子はどうなってしまうのか? 文明が崩壊で生き残れなかったのか、あるいは生存したのか。


 後、何かやり残しや見落としはないか。……ええっと、次は反乱軍に所属するんだっけか?


 反乱軍……反乱軍ねぇ。

 そいつら、どこにいるの?

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