第991話、暴君の猛撃


 メタゲイト研究所は、あくまで研究所だ。

 兵器の実験場はあっても、その警備体制は、あくまで対人レベルで、間違っても砲台があったり要塞だったりということはない。

 外壁を破壊し、敷地内に侵入した大型人型兵器に抵抗する手段はなかった。


「いったい、何事なのだこれは」


 メタゲイト研究所のエレホス所長は、地下研究室にて実験の最中だった。爆発音と振動、そして緊急を告げるアラームがけたたましく地下に響いている。


「所長!」


 血相を変えて駆け込んできた所員が叫ぶように言った。


「襲撃です! 未確認の魔人機が研究所を攻撃しています!」

「何だと!?」


 またも施設が揺れた。魔人機とは何だというのか、エレホス所長にはさっぱり理解できなかった。いや、それは研究所所員全員が同じだろう。魔人機なら軍だが『未確認』とついた時点で、他の組織の可能性が出てくる。


「まさか吸血鬼に島が襲われているとでもいうのか……! 軍は何をしているんだ!」


 上の施設は飾りだ。いくらやられても構わないが、遺物資料や魔術人形の研究は地下にある。謎の敵とやらが過ぎ去ってくれれば致命傷にはならない。


 だが、中央への返り咲きを目論む所長にとって、施設への被害や研究の妨害は我慢のならない事態だ。

 いっそ、研究中の魔術兵器を出すか――そう考えた矢先、別の所員が大慌てで駆け込んだ。


「所長! 大変です! 施設に、ば、バケモノがし、侵入しましたッ!」

「バケモノだと?」

「ここは危険です! 退避の準備を――!」



  ・  ・  ・



『ガーディアンを1ダースほど送り込んだ』


 ディーシーがダンジョンコアの本分を発揮し、研究所地下に複数のガーディアン・モンスターを投入した。


『施設の掃除は、さほど時間はかからんだろう』

「間違っても、孤児たちには手を出すなよ」


 俺はTAMS-0タイラントを操縦しながら、新手に備えて一度研究所の敷地外へ出た。


『その辺りの区別はつくような奴を作った。心配するな』

「頼りにしてるぜ、ディーシーさんよ」


 後は適当に交戦して、制圧までの時間稼ぎと陽動だ。


「さて、近くの軍施設にも一発、叩き込んでおかないとな」

『こちらの目的から注意を逸らして、かく乱しようというのだろう? ……新手だ。魔人機六機。リダラ・タイプ、ゴルム1、グラスが5』

「エルフの小隊か」

『空を飛んでいるから速いぞ、主』

「なら、こちらも空中戦と洒落込もう!」


 タイラントの背部、肩部、脚部のエアリアルスラスターを噴かし、闇夜に飛び上がる。

 飛行型魔人機の推進装備を用いているので、これまで装備していたブースターを噴かすより静かに、そして軽やかに機体が舞う。


 ――武器選択、マルチマギアランチャー。


 タイラントの手持ち武器が、魔力転送によってロケットランチャーからマギアランチャーに切り替わる。


「まずは、こいつの威力を確かめよう」


 索敵センサーが、指揮官機であるリダラ・ゴルムと判別した機体に、俺は照準を合わせる。

 機体編成で、どれが指揮官か分かるというのも考えものだな。狙う分には助かるのだが。


「さあ、ぶち抜いてくれよ……!」


 マギアランチャーから光系投射魔法が、光線となって放たれた。瞬きの間に標的となったリダラ・ゴルムに着弾。その防御障壁に阻まれるように見えた光弾だが、一定以下の威力までしか防げない障壁を貫通、撃破した。


 青エルフ専用のリダラ・ゴルムが墜落したことで、残るリダラ・グラス5機の動きに動揺が見られる。グラスは白エルフに与えられる防御重視の機体だ。

 この慌てぶりから察するに、次席指揮官がいないのか。

 ま、大方、上官の青エルフに『お前らは考えるな、命令に従っていればいい』と言われて自己判断力に欠けるのだろうな。差別制度の弊害ってやつだ。

 遠隔攻撃ユニット展開。混乱から立ち直れないうちに落とす!


 タイラントの肩部シールドに内蔵された浮遊攻撃端末を起動。それを飛ばして、リダラ・グラスの小隊を攻撃する。

 防御障壁付きの魔人機だから、遠隔攻撃ユニットの魔弾では防がれてしまうが、魔破鋼製のブレードを展開させて突っ込ませれば、斬撃できるという寸法よ!


 セア・エーアールのエアビットが突撃して切り刻む攻撃をするタイプなのも、対魔人機戦闘が考慮されていたんだなぁ、としみじみ。

 小型攻撃端末をうまく視認できなかったか、エルフの操る魔人機は多方向から迫る遠隔攻撃ユニットを迎撃できず被弾、損傷して墜落していく。


 コクピットは外してやった。どうも迫害され気味の白エルフは倒しづらいんだよな。

 ともあれ、向かってきた機体はすべて排除した。


「近くの軍の施設を強襲する。ディーシー、ここからはどれが近い?」

『いまの魔人機の小隊を放ってきたヘクスタ基地だな。おそらく第二陣も出撃準備に入っているだろうから、ついでに叩いてしまえ』

「了解だ!」


 タイラントはスラスターから、妖精の鱗粉のような光を放出しながら、高速で軍の施設を目指した。

 空を飛べばあっという間だ。基地には地上型のドゥエルと、空中型のリダラが、次々に動き、迎え撃とうとしている。


「ざっと見たところ9機か。……おっと!」


 基地の魔人機から魔法弾が放たれる。肩部の魔砲投射機だろう。ドゥエルタイプ、リダラタイプには、肩装甲に投射武装を内蔵している。


「飛行クジラとか、闇の勢力相手なら使えるんだろうが……」


 回避してもよかったが、こちらも防御障壁を展開して、敵弾を防ぐ。


「対魔人機の武装じゃないよな、それ」


 ――武器選択、ロングライフル。


 マルチマギアランチャーから、高速弾を放つロングレンジライフルに持ち替える。もちろん、その弾頭は魔破鋼製で、防御障壁は無効!


 スナイパーに一発で仕留められるが如く、高速徹甲弾に貫かれる魔人機。投射攻撃は障壁で防げると思い込んでいた彼らは、ろくな回避運動も取らなかったので、単なる的と化す!


「さて、こっちも建物も破壊しておかないとねぇ」


 レフトアームに、マギアランチャーを転移。右手にライフル、左手にランチャー。ヘクスタ基地の上空に侵入し、急降下。爆撃するように地上を攻撃し、基地施設を破壊していく。

 アポリト軍の兵たちが逃げ、または火災を消火しようと動き回っている。巻き込んでしまった分は気の毒だが、改めて生身の人間を銃撃するつもりはない。あくまで陽動だからな。


『主よ、ここでひとつ残念なお知らせだ』


 ディーシーが、モニターに新たな識別反応を表示した。


『カスタム・ドゥエルが二機、こちらに急行中。どうやら中央島から、十二騎士がお出ましのようだぞ』

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