第990話、強襲、所属不明機


『所属不明機体が、六番島中央都市近郊から軍事区画へ移動中!』


 その出現は、アポリト浮遊島の軍関係施設を震撼させた。

 本島の帝国城の一角、女帝警護のガーズの指令室に、急ぎ装備をまといながらゴールティンはやってきた。


 まず目に入るのは指令室の大モニター。そこには現場である六番島近郊のマップと、移動する自軍と、正体不明機が点灯している。

 管制官らは、ある者はコンソールに向かい、ある者は錯綜する通信の内容を声を荒げて報告している。


「親衛隊ですらこれか……」


 ゴールティンは苦々しく思う。混沌の場を一喝すべきか考えた時、指令室に新たに人がやってきた。


「ゴールティン殿!」

「エリシャか」


 十二騎士ナンバー3、エリシャ・バルディアが、こちらも鎧をつけながらの参上だ。普段なら寝ている時間帯のこの騒ぎである。ゴールティンにしても、わずかな眠気を振り払いながら、ここにいる。


「何事ですか!? 侵入者ですか?」

「正体不明機が、六番島に現れた。現地守備隊の当直の魔人機小隊にスクランブルがかかった」


 大モニターに表示される、アンノウンがひとつ。それに接近する三機の魔人機。


「まさか、闇の勢力が島に侵入したのですか!?」

「まだわからん」


 所属不明機体――魔人機のようでもあるが、速報に寄れば、見たことがない機体らしい。

 エリシャは苛立ちを露わにした。


「ここはアポリト浮遊島! いままで島内に敵が侵入したということはなかったというのに!」

「一応の戦闘体制ではあるが、警戒待機につく兵も、どこか弛緩しかんしていたのかもしれん。そして、いざ不明機が出現して、まるで蜂の巣をつついたような有様だ!」


 管制官のひとりが振り返る。


「所属不明機、応答なし!」

「109警戒小隊、戦闘行動。……! 所属不明機、反転!」


 次の瞬間、急行中の魔人機を示す光点のひとつが、ふっとかき消えるようにモニターから姿を消した。



  ・  ・  ・



 109警戒小隊は、ドゥエル・ランツェ三機で編成されていた。

 騎兵槍型、サンダースピナーを装備したドゥエルタイプは、地上をホバー機動で移動していた。基本的に飛行はできない型だから、地上を走る格好だ。


『所属不明機体に告げる! ただちに停止せよ! これ以上、応答なくば撃墜する!』


 小隊長機が呼びかけるが、返答はない。


『小隊長、ありゃ敵ですぜ!』


 僚機が、応じない不明機を「敵」と判断する。

 奇妙なものだ、と小隊長は思う。


 人型のそれは魔人機のようであるが、明らかにアポリト軍のどれとも違う顔だ。背中のバックパックは飛行可能なリダラタイプのようでもある。肩には盾型の装備がついている。


『魔人機の改造機か、それとも魔人機もどきか……』


 敵だとすれば、やはり闇の勢力か。あからさまに吸血鬼なら、とっとと攻撃したのだが。


『応答なしと認める! 各機、所属不明機を撃墜せよ!』


 小隊長がそう命じた時、青い不明機がターンして、向きを変えた。いつの間にか、その右腕には武装のようなものがあった。


 発砲した!

 艦艇の砲を魔人機サイズにした飛び道具か?


 アポリト軍の魔人機には、飛び道具系の武装はあるにはあるが、大半は腕部や肩部などに内蔵式である。不明機のように、手に持つ武器で射撃兵器は魔法杖くらいしかなかった。


『しかし、飛び道具など!』


 魔人機に搭載された防御障壁が無効化する!

 直撃コースだったが、小隊長は構わず、ドゥエル・ランツェを進ませた。不明機は足が速い。最短コースで追いついてやる――そう思った時、敵弾が障壁に激突、いや突き抜けてきた。


『なにぃ!?』


 ドゥエル・ランツェの胸部に敵弾――ロケット弾が直撃した。コクピットが瞬時に爆発に飲み込まれ、操縦者を爆殺。機体は糸の切れた操り人形のように、その場に転倒した。


『小隊長!?』


 僚機が驚く。防御障壁があれば、大抵の射撃武器は防げる。そんな彼らの常識が音を立てて崩れたのだ。

 所属不明機がグンと距離を詰めて、残るドゥエル・ランツェに迫る。


『くそぅ!』


 サンダースピナーを向け、不明機に突進をかける。だが敵は、小刻みなスラスター機動で、瞬間移動したような急加速を見せ、ドゥエル・ランツェの槍の死角へと回り込んだ。


 その瞬間、敵機の左手から剣が飛び出しすれ違いざまに、ドゥエル・ランツェの腰部を上下に両断。撃破したドゥエル機を壁にするように、残るドゥエルの後方へ円を描くような流れで回り込むと、ロケットランチャーを撃ち込んだ。



  ・  ・  ・



『三機目、撃墜』


 ディーシーの報告を聞くまでなく、モニターの中でバックパックごと胴体を吹き飛ばされた最後のドゥエル・ランツェが四散するのを俺は目の当たりにした。


「こっちでも効いたな。ま、当然か」

『魔人機用ブレードに使用されている魔破まははがねでこしらえた弾頭だからな。障壁を貫通するのは当然だ』


 フフン、とディーシーが笑う。

 魔人機は防御障壁を装備し、射撃武器が効きづらい。一方、近接武装のブレードは障壁の影響を受けない。


 その理由を辿ると、ブレードに使われている材質によるものが原因だ。防御障壁を形成する魔力を切断する魔破鋼。

 それで作られたブレードは障壁を無効にする。では、それと同じ材質の弾頭で出来た銃弾ならば、障壁を貫ける。タネが分かれば簡単だ。

 元の時代でも、これで障壁持ちの魔人機を叩いたんだから、そりゃ効くという話だ。


「さて、警戒機を落としたからな、こっから忙しくなるぞ!」


 六番島守備隊が、本格的に迎撃部隊を投入してくる。


「その前に、まずメタゲイト研究所に一発、蹴りを入れておかないとな」

『研究所に打撃を与えて混乱させているうちに、強襲部隊を投入。敵を一掃……』

「その間は外で暴れて、守備隊の注意を引く」


 表と中での二段作戦。頃合いを見計らって、施設の孤児たちを回収し、離脱する。


「いまさらながら、とても二人でやる作戦じゃないな」


 思わず苦笑する俺に、ディーシーもつられて笑った。


『いまさら気づいたのか、主よ。まあ、人手が必要な作戦だが、そもそも我がいる時点で、人数の不足などあり得ない』

「頼もしいね。……よし、研究所が見えてきた」


 俺はタイラントの右手のロケットランチャーと、両肩部のシールドを正面方向に指向する。肩の盾にはプラズマキャノンが内蔵されているのだ。


「くらえよ!」


 俺は操縦桿のトリガーを引いた。ロケット弾とプラズマ弾が、闇夜を切り裂いて、メタゲイト研究所の外壁を破壊した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る