第989話、メタゲイト研究所


 アポリト浮遊島の六番島にその研究所はあった。

 事前のディーシーの調査でおおよその場所は把握していたから、シェイプシフターを投入し潜入調査をさせる。

 表向きは、教会管轄の古代文明遺物研究と、地上で保護した子供たちを預かる孤児院の顔を持つこの施設。


 調査の結果、エレホス所長指揮のもと、孤児院という名の人体実験の巣窟だということが確定した。

 シェイプシフターたちが実際に見た情報を確認。……古代文明遺物の研究?


「なんてこった! こいつはアンバンサーの技術だぞ!」


 魔器と思われる兵器のほか、体を機械に繋げて、機体を操るアンバンサー戦闘機の操縦システムを、地上人孤児たちで実験していた。


「ああ、くそ……」


 俺は怒りで頭の中が真っ白になった。……何でどいつもこいつも、いつの時代も、こういう実験をやるんだ!


「ディーシー、俺、この施設を、今すぐ叩き潰したい!」

「気持ちはわからんでもないがな、主よ。まずは落ち着くんだ」


 ディーシーは、例によってコピーコア端末をいじって、研究所の見取り図、警備システム、そして警備員のデータをインプットしていく。


「そう、落ち着かないといけない……。落ち着いていられるか、と怒鳴れば解決すれば楽なんだけどね」


 俺は、頭の中で考えを巡らす。


「この研究所から、孤児たちを救い出すだけでは、また新しい子供が連れてこられるだけだ」

「同感だ。破壊するのが望ましい」


 ディーシーは頷いた。


「だがそれも時間稼ぎだろうな。この研究所を管轄している上の連中が、メタゲイトに変わる研究所をまた作るだろう」

「そう簡単にポンポンと作れないさ」


 研究成果も葬れば、その研究自体、後退させられるし、投じた資金、資材が損害に見合わなければ、以後の研究が中止される可能性もある。


「それに、これは必ずやらなくてはならない」


 俺はシェイプシフターが潜入用魔力カメラで撮影した写真を、ディーシーに見せた。


「この子供たち……この銀髪の娘。おそらくアレティだ」


 魔器らしきものに、魔力を吸われている十歳くらいの子供たち。ひとり、アレティを幼くしたような少女がいた。……後の時代で出会うよりいささか若いが。


「俺はこの子たちを保護しないといけない。これで確信した。ジンなにがしとは俺だ。俺が彼女たちを助けることは、正しい歴史だ」

「オーケー、ジン某殿。では具体的な問題を話そうじゃないか」


 ディーシーさんは、皮肉げに眉を吊り上げた。


「助けること自体は、主や我の力で可能だ。問題となるのは、助けた子供たちをどうするか、だ」

「保護するにしても、アポリトの連中に委ねるわけにはいかない」


 地上人孤児を守ろうとする天上人がいるか? いやいない。俺は思わず、頭をかいた。


「住むところ……つまり、匿う場所も用意しないといけない」

「そうだな。主のことだ、今後の活動を考えて、正体を隠して襲うつもりなのだろう?」


 ディーシーは、そこでふと笑った。


「どうする? もういっそ反乱軍とやらを主が作るか?」


 今のところ影も形も見えていない反乱軍。……おいおい、まさかそれも俺が作ったなんてことになるのか?


「反乱軍については、よくわからない。だが、もし俺が作るのが史実の通りという可能性もあるなら、準備するのも悪くないかもしれない。……いや、待てよ」


 そう言えばアレティが言っていたような。


「俺と彼女は反乱軍に加わったとか。つまり、そのうち反乱軍に合流するわけだ」


 アポリト軍を見限って。


「だが、その反乱軍がどこまでアテになるかわからんぞ」


 ディーシーは指摘した。


「事前準備くらいはしておいたほうがいいかもしれんな。案外、その反乱軍の主力は、主や我が用意したもの、という可能性もある」

「じゃあ、この世界にも俺たち独自の拠点を作っておくべきか?」

「魔法文明がどう滅びるかわからんが、反乱軍の助けになるし、もし反乱軍の独自兵力でどうにかなるなら、兵器類は元の時代で使うためにどこかに保存しておく、という手もある」

「あ、それいいアイデア」


 元の時代で発掘するように、か。


 長い年月をかけて、密かに武力を準備する。幸い、オパロ・コアがあるし、地下に一大秘密拠点を建造しておくのも悪くない。


「とりあえず、だ。これ以上、孤児たちが痛い思いをする前に救出する。しばらくは俺の屋敷に匿って、その間に、どこかに拠点を作ってそこに移そう」


 俺は遠征でアポリト浮遊島から不在ということになっているからアリバイはできる。そして浮遊島の家は留守なので尋ねてくる人間はいない。ポータルで必要物資を運び、シェイプシフターに面倒を見させる手もある。


「では、そうしよう」


 ディーシーは、ホログラフ状に研究所とその周辺地形を表示させた。


「さて、主よ。どう攻める?」



  ・  ・  ・



 その日は、静かな夜だった。


 六番島の主要都市の郊外にメタゲイト研究所はあった。アポリト軍の施設からほど近く、一般人はほとんど通らない。


 その道路上を、一体の魔人機が浮遊推進で滑るように疾走していた。

 青に塗装された機体は、アヴァルク・カスタムのようでアヴァルクではない。


 ディーシーが、魔神機や魔人機から収集したデータを元に、完成させた新型機だ。


 TAMS-0タイラント。風の魔人機系に搭載されたスラスターを噴かして、ホバークラフトよろしく浮遊移動。

 俺はそのコクピットにいて、補助としてDCロッド形態のディーシーも同乗している。


『主、まもなく研究所だ』


 モニターに表示させる索敵装置が反応する。すぐさま識別され、ドゥエルタイプ魔人機と表示が更新される。数は三機。


『アポリト軍のコードで、所属と目的の確認、同時に「止まれ」と行ってきている』

「馬鹿めと返したいね」


 某宇宙戦艦アニメのセリフが脳裏をよぎる。


『返信してやろうか?』

「結構。もっとわかりやすい方法がある」


 ――武器選択、ロケットランチャー。


 魔力転送。何もない空間からロケットランチャーが現れ、タイラントの右手に収まる。


「それじゃ、派手に行こうか!」

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