第986話、地上人と、食物の話
アミウール戦隊は、東部植民地を周回するコースで航行した。
闇の勢力は断続的な攻撃を東部植民地に行っていて、現地守備隊がこれに応戦。アポリト浮遊島本島から派遣され援軍と共同して、闇の勢力の侵攻を阻止していた。
だが、今回、闇の勢力の圧力が強いと聞く。俺たちアミウール戦隊は、戦線を突破した敵の撃破、いわゆる火消し役に回った。
飛行クジラ群とは二度ほど交戦。アミウール戦隊の魔神機各機が空中戦に対応可能だったから、手数で押されることなく、クジラ群をそれぞれ
魔神機だけでなく、僚艦搭載のダークエルフ兵の駆るリダラ部隊も、騎兵槍型の武装、ファーガソルスピナー改を用いて、クジラ退治に貢献。量産型魔人機でも有力な対艦装備が有効であると実証した。実に喜ばしいことだ。
俺の中で、人型兵器を用いた空中戦の経験が蓄積されていく。
それにしても闇の勢力、か……。
この時代には、こいつらがいるんだよなぁ。魔法文明が滅びる頃には、こいつらも滅びているのか。
アーリィーたちのいる元の時代には、闇の勢力なる言葉は耳にしたことがない。飛行クジラはいないし、吸血鬼の伝説は小耳にはさむことはあったが、この時代のそれとは似て非なる。
ディーシーと記憶の照らし合わせを行ったところ、ここまでの俺の介入で元の時代で変化は見られない。ヴェリラルド王国や連合国、そして大帝国、数々の冒険の記憶、そこで会った人もきちんと合っているし、違和感もない。
歴史のレールの上から逸脱はしていない。だがそれは魔法文明が滅びる文明だから、現代にほとんど影響がないのか、歴史修正は不可能ゆえ、俺が干渉したのを含めて正史だからなのか、判断がつかなかった。
後者だとしたら、果たしてどこまで絡むのか正しいのか。……ま、その場合は、なるようにしかならないし、やったことが正史であるなら、やれるところまでやればよかろう。
さて、各地に侵攻する闇の勢力を地元部隊と共に撃退するアミウール戦隊だが、俺はとうとう、この時代の地上世界を見ることになった。
まずは天上人たちの駐留都市。これはアポリト浮遊島のようにファンタジーでありながら、ツルツルしたメタリック感が合わさった、見方によっては近未来のようにも見える街並みがあった。
巨大な外壁に囲まれていて、外敵撃退用の砲台などが備えられている。魔人機ではないが人型の作業機械も使われていて、超古代文明と言われるだけのことはあった。
この文明が滅びなかったら、元の時代はどこまで発展していったんだろうな……。
アポリト浮遊島とさほど変わらない環境の駐留都市。だが一方、地上人たちの集落はと言うと……。
「時代が違うんじゃないかな、これは?」
「いえ、間違いなく地上人の集落ですよ」
旗艦の艦橋から見る地上人の集落は、中世もかくやの木と藁の屋根という質素かつ原始的な佇まい。厚着をしているような衣服もどこか毛皮を重ねただけで、みすぼらしい。
天上人らと比べれば、まさに天と地ほどの差があった。
「連中は、我々アポリトが手を貸さねば、ろくな生産力もなく、奪い合うだけの蛮族ですからな。天上人に管理されて初めて、まともな生活が送れるのです」
これがまともな生活だと? 俺はその感想を胸のうちに留めた。
その管理ってのも、どうせ搾取するだけの植民地支配だろう。この地上人が、元の時代の人間たちの先祖ということになるのか。
いや、天上人もそうか。魔法が現代にまで残り、たとえばアーリィーやサキリスが魔神機の適性を見せたのを考えると、彼女らの先祖に天上人がいた可能性は高い。
「団長?」
メギス艦長が怪訝な顔をしたので、何でもないと首を振っておく。
「地上人を管理と言ったが、アポリトは彼らに何をもたらした?」
「秩序と、外敵たる魔物や闇の勢力からの守護でしょうな」
艦長は即答した。
「その代わり、彼ら地上人は魔石の採掘と、古代文明遺産の発掘のほか、労働力として我らの文明を支えております」
俺から見たらアポリトも古代文明なんだがね。そこからさらに古代などというのは、ディアマンテらテラ・フィデリティアや機械文明時代のことを言っているのだろう。
「いわゆる『機械』か」
「はい。我らアポリトの技術や兵器も、それら発掘された古代文明の遺産を解析したものが元となっていますからな」
飛行する軍艦、人型無人兵器をアレンジしたもの。魔力動力とはいえテレビやその他自動機械もそうだろう。一方でプラズマカノンなどの兵器は再現できなかったようだが……。
「そういえば、地上人たちは農業はやっているのか?」
「農業でありますか?」
一瞬、不思議そうな顔をしたメギス艦長だが、すぐに理解したようだった。
「はい、食料などは自分たちで作らせております。アポリトにも上納されておりますが、地上でできた作物は一般人はともかく、お偉いさんたちは食さないでしょう」
そういう上級民はアポリト浮遊島で作られた作物を摂っている、と艦長は答えた。
「何故、お偉い様方は、地上で生産された食べ物を摂らないのか?」
「はあ、蛮族と見下している民の作ったものの品質を疑っているのではないでしょうか?」
「……ふむ、もっともらしく聞こえる」
要するに、バッチいお前らの作った食材など、腹壊しそうだから食えるか! ということだろう。
言い方は悪いが、元の時代でも食材によっては現代のように気軽に食べられないものもあるから、わかると言えばわかる。
ウィリディスの魔力生成食材は、その点安全だが、それ以外の食材は品質の悪いものも容赦なく料理にぶちこんでいたから、きちんと調理が必要だった。
生食が流行らないのも、そのあたりに理由がある。誰だって食中毒で死にたくない。
……なるほどね、俺もそのお偉いさん待遇だったんだな。
アポリト浮遊島での生活で俺が食べていた食材は、ほぼ魔力生成食材だった。これはダンジョンコアであるディーシーに確認したから間違いない。魔力を摂取できると、彼女もバリバリ食べていたからな。
……しかし、そうなると、ふと疑問が浮かぶ。
「艦長、昨今、アポリトの天上人たちの間に、魔力を操る力が落ちているという話を聞いたことがあるかな?」
「は、軍でも問題になっていますからね。十年前に比べて、入隊する新兵の魔力基準値の平均が下がっているといるとか」
おお、体力不足の若者よ! ってか。この文明だと魔力不足か。
「私の若い頃は、もう少し天上人兵も多かったのですが。……今ではダークエルフの兵が増えましたね」
「ひょっとしてだが、その魔力低下は、食べ物に関係があったりしないだろうか?」
「食べ物、ですか?」
メギス艦長が目を丸くした。
「もしや、地上の作物を摂取した結果、能力が落ちていると? 確かに地上人は魔力に乏しいですが、それも食物が影響している……?」
「いま俺はかなりいい加減なことを言っているがね」
それに、俺は別に地上の食べ物のせいとも言っていないが。
そうとは知らず、メギス艦長は続けた。
「しかし、考えられない話でもないのでは? 地上人の作る作物は一般人は食べておりますし、それが長い時間をかけて、徐々に影響してきているという可能性も――」
「確証はない」
そう釘は刺しておく。むしろ魔力生成食品に慣れ過ぎて、魔力が素早く取り込めるから、その分、魔法を使うと余分に外に出てしまうという説は? 栄養を摂り過ぎと、吸収しきれずに排出してしまうというアレだ。
それに加えて、天上人は便利な道具に囲まれて魔法を使う機会が減ったから、魔力をコントロールする能力が落ちているとか。
でも、一般人は地上の作物を食べていると言っていたな。どうも、原因はひとつだけではなさそうではある。
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