第985話、四大魔神機の猛攻
『セア・エーアール、グレーニャ・エル、はっしーん!』
戦艦『エスピス』のカタパルトから、先陣きって飛び出したのは風の魔神機。右舷カタパルトから、風の機体が飛び出す一方、左舷カタパルトには火属性機がスタンバイ。
『セア・ピュール、ペトラ・ストノス、出るわよ!』
飛行ユニットを新たに搭載したツインテール魔神機が射出される。何とも元気なものだ。
風機体が発艦した後の右舷カタパルトに上がるは土属性機。
『セア・ゲー、グレーニャ・ハル。出るわ』
陸戦型の土属性機も、アミウール戦隊の機体は飛行ユニット付きだ。
左舷カタパルトも火属性機に続き、水属性機が発艦に取りかかる。
『セア・ヒュドール、リムネ・ベティオン、発進します』
こちらはおしとやか組か。性格出るなぁ。俺は通信機のスイッチを入れる。
「旗艦から、各巫女へ。地上の魔物どもを一掃してくれ。攻撃方法は各魔神機に一任するが、味方機の行動には注意を払うこと。各小隊機は、魔神機を支援だ」
『りょーかーい!』
『了解、見てなさいよー、アタシのセア・ピュールが全て焼き払ってやるわっ!』
『任せて、団長』
『承知しました、団長様』
四人からの返事の後、各巫女からも了解の返事が来る。やりとりを見守っていたメギス艦長が頷いた。
「まずは、新生女神巫女たちのお手並み拝見ですな」
そうだな。……そういえば魔神機の戦闘を実際に目にするのは初めてだな、俺。
地上を東から西へ、近場の町へと進むゴブリンとオークの混成集団。偵察機から送られてくる魔力映像で確認しながら、俺は既視感をおぼえる。……こいつら数千年経っても、ほとんど変わらないんだな。
あるいは同じに見えるのは外見だけで、中身は全然違うかもしれないが。
ひとつの軍勢が移動する中、空から魔神機が襲いかかる。それぞれ分かれて、四方向から戦闘開始。
『吹っ飛ばすぜー! エアリアルバスタァー!』
セア・エーアールが両肩から竜巻じみた強烈な風の渦を放ち、地上の雑兵どもを虚空へと吹き飛ばす。
『エルなんかに負けるもんですか! プロクス、焼き尽くせっ!』
セア・ピュールが手にした杖型武装を、敵集団に向けると灼熱を放射。さながら俺のバニシング・レイにも匹敵するだろう炎で、一気に焼き払う。
『潰れなさい……!』
セア・ゲーの両肩の武装が振動を発振。範囲内のゴブリンやオークが、その場で膝をついて動けなくなる。やがて地面に無数の亀裂が入り、その陥没じみた地割れに敵は飲み込まれた。
『氷葬……。ここがあなたたちの墓場よ』
氷のマントをまとったようなセア・ヒュドールが地表に下りると、たちまち周囲が凍りつき始めた。為す術なく魔物たちは凍り、氷の柱へと閉じ込められていく。
圧倒的な魔神機の力。人型兵器にゴブリンやオークが敵うはずもなかったが、恐るべきは魔神機。
……こりゃあ、援護の必要もなかったかな?
見守る俺だが、風と火の魔神機は、なぎ払うタイプの攻撃で大半を仕留めているが、ちょこちょこ討ち漏らしがあって、援護の魔人機が掃討にかかっていた。
その逆に、まったく支援が必要なかったのは水の魔人機セア・ヒュドール。範囲内が全部凍結とか、絶対に敵に回したくないわ……。
『ハル、あなた、けっこう敵を残しているんじゃない? ダメよ、そんなんじゃ』
ヒュドールのリムネが、グレーニャ・ハルの持ち場の敵まで氷結させていく。地震と地割れで、かなりの打撃を与えたセア・ゲーだが、どうも息のある奴がそこそこ残っていたようだ。
『余計なお世話なのだわ、リムネ』
ハルが言い返すが、どうもこの二人の会話が刺々しい。
ともあれ、三千はいた魔物集団は、魔神機によって鎧袖一触だった。
改めて、魔神機の強さを感じた。元の時代に戻れば、このうちの何機かとぶつかるのだろう? 嫌だ嫌だ。
帰還命令を出し、帰還してくる魔神機とその随伴機を見やり、俺はこっそりため息をついた。……ま、魔神機が手元にあるうちに仕掛けをしておくがね。
・ ・ ・
士官食堂で食事を取ると、何故か女神巫女たちが集まってくる。
最初はグレーニャ姉妹が団長専用の部屋に押しかけてきた。だがそこで食事だと手狭なので食堂でご飯にしたのだ。
その結果、他の女神巫女までやってきてお食事となった。……俺付きのメイドであるカレンとニムとは一緒にご飯できなくなってしまった。
さて、俺、ディーシーと、四人の女神巫女が同じテーブルを囲んでの食事となるのだが、自慢げなグレーニャ・エルと赤毛のペトラが、どっちが優れているかどうかで低次元な争いをはじめる。
「いいや、あたしの方が多く倒したね!」
「吹き飛ばした中に生きていた奴もいたでしょうよ。その点、アタシは灰も残さず消したのだから確実よ」
「ちゃんと数えたのかよ!?」
「アンタだって、数えたの!?」
その一方で、グレーニャ・ハルとリムネが静かに毒舌を交わしている。
「ハルってどうしても地味よね」
「大きなお世話なのだわ。派手にやることばかりが戦いではないわ。むしろ、無駄だわ」
「あら、物事には自然とその人の深層が見え隠れするものよ。あなたが地味なのは、そういう人間だからよ」
「そういうあなたは趣味だけでなく性根も腐っているのだわ」
……うん、もう少し仲良くできないものかね。せっかくのご飯も味気ないというか……。あ、薄味なのは元からか。
「お前ら、うるさい」
無表情のディーシーさんが淡々と口を挟んだ。
言い争っていたエルとペトラが押し黙り、ハルとリムネも、ほぼ同時に互いにそっぽを向いた。
ここでは精霊、神のお使いということになっているダンジョンコアが喋ると、巫女たちは何故か大人しくなる。
「たかだか三千程度の敵で盛り上がるとは、おめでたい連中だな」
ディーシーが少女たちをまとめるお姉さんに見える不思議!
「我と主は、オーク相当の魔物を一度に二十万を蹴散らしている。お前たちの戦果など、カスだ。誤差に過ぎん」
……それ、ケーニゲン領を襲った蟻の亜人二十一万を、バニシング・レイで撃退したやつか?
突然の戦果自慢に俺は口元が引きつるのを感じた。案の定――
「せんせっ、マジか! すっげぇー!」
「それ本当なの、団長! 二十万ってウソでしょっ!?」
「とても信じられない数なのだわ」
「詳しく! 詳しく聞きたいです、団長様」
彼女たちはもちろん、食堂で食事をしていた他の士官たちからも注目されてしまう。
「ディーシー……?」
「嘘は言っていない」
素知らぬ顔のディーシーさん。
その後、どうなったかは言うまでもないだろう。
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