第984話、アミウール戦隊、出撃!


「さて、女帝陛下は何だって?」


 帝国城から帰ってきた俺に、ディーシーはそう問うてきた。


「俺に以前助けられた礼を言いたかったらしい。あと、島の外の土産話を所望された」

「何だそれは」


 ディーシーは鼻をならす。


「女帝派だの大公派だのうるさいから、てっきり主を勧誘するかと思ったのだがな。拍子抜けだ」

「残念ながら、あの女帝陛下にそういう思考はなさそうだ」


 俺は、ヴァリサ陛下とのやり取りを思い出しながら言った。


「何なら、変身の魔法で成り代わっても、彼女は気にしなさそうだ。むしろ軟禁にも似た生活から抜け出せて、喜んだりして」

「シェイプシフターでも送るか? このアポリトを支配できるぞ」

「いや、老人会があるから、たぶん無駄だ」


 貴族院、特に老人たちが支配しているほうを、『老人会』と称する俺。女帝という飾りは顔さえ同じなら代わりはできるが、実質支配しているのは古き老人たちだからな。あまり意味はない。


「ただ、老人会と女帝陛下について調べておきたい。……いいお歳という割には、あの女帝の思考がかなりお子様過ぎる」

「使い魔を出そう。どうせ非合法な調査だろう」

「俺のほうでも、シェイプシフターを出しておこう」


 1ダースほどのシェイプシフターを連れてきている。スフェラはいないが、諜報員としての経験も戦闘員としても頼りになる。いざとなれば増やすこともできるし。


 ディーシーは、アポリトを離れるから、彼女の使い魔以外にも仕事ができるやつを置いておく。


「さて、お仕事だ」


 他にも調べていることはあるが、新たな調査の結果を知るまでは、この世界のために闇の勢力との戦いで時間を潰そう。


 かくて、俺たちはアポリト軍港に行き、従騎士のブルや、エルフメイドのカレン、ニムと合流。出撃準備の整ったアミウール戦隊は出撃した。



  ・  ・  ・



 俺のエルフメイドをいじめないように、と、戦隊の乗員やダークエルフ系兵士たちに通達した。


 というのも、俺はお世話係兼護衛として、カレンとニムを連れてきたからだ。……正直なところ、家に彼女らを置いていくのが心配だったのだ。


 通達はしたが、メギス艦長曰く、『偉い人が個人従者を連れ歩くことはよくあること』と、特に問題視されなかった。


「それに白エルフは魔力が豊富ですから、団長のような魔術師には必要でしょう」


 要するに、エルフと身体的接触をすることで魔力の充足を図るというやつだ。このアポリト文明では、それが割と一般に浸透しているらしい。


 ……なるほどね、結構な差別がありながら従者として白エルフが与えられたのは、俺が魔術師だったからか。


 いまさらながら、カレンが夜のお世話に積極的に見えたのは、そういう目的のために作られたからかもしれないな。


何でだろうと思いながら、そういうものだろうとボンヤリ思っていたから、初めて理由を知ったな。


 ともあれ、兵たちが白エルフに悪態や陰口を叩くようなことがないといいんだが……。無理かなぁ。


 さて、護衛でもある彼女たち白エルフだが、俺に与えられた二人はスペックが高かった。


 戦闘技術に関しては、ニムが高く、戦闘用ダークエルフ兵とも互角以上。カレンは肉弾戦においては、護身レベルである一方、魔法を操る能力が高く、俺が魔法を教えると早くそれに順応した。


 そして、二人とも魔人機の操縦ができる。

 スティグメも、俺が得体が知れないから、何でもできる人材を寄越したのかもしれんな。


 彼女たち白エルフに与えられる魔人機は、基本的にリダラ・グラスという低スペック機だ。

 リダラ・グラスは、リダラシリーズの中で、防御性能が比較的優れている以外は、ローコストで生産されている。


 いわゆる雑兵だ。味方の盾として最前線へ突っ込め、と白エルフを駒のように使うための機体である。

 俺とディーシーは、当然のごとく、このリダラ・グラスを改造した。


 白エルフの魔力に依存した機体なので、大気中からの魔力を集中する吸収装置を追加してパイロットの負担を減らす。さらに飛行機能を強化する各部スラスターの追加と、索敵装置の強化。


 俺は彼女らを、アポリト軍の教本通りに最先頭を行かせるつもりはない。基本は俺がリダラ・ダーハで出る時に支援機として随伴してもらう。艦隊との通信補助や索敵、遠距離からの砲撃を担当させるつもりだ。


 ちなみに、話は少し変わるが、アポリト軍において魔人機の小隊は五機で編成される。


 俺のリダラ・ダーハに、エルフふたりのリダラ・グラス改。これに俺の従騎士になったブルの改造型ドゥエル、ディーシーのオリジナル機を含めた五機が、団長専属小隊となる。


 ブルの改造型ドゥエルは、彼の戦闘スタイルに合わせた大剣装備。本来は飛べないドゥエル・シリーズだが、飛行できるようにブースターユニットと各部スラスターを増設。盾を持たないゆえに、強化型防御障壁装置を仕込んである。


 ディーシー機は、ヘプタ島で見せたパワードスーツ・タイプをモデルにした機体で、女性型を連想させる曲線などはそのままに、セア・シリーズ魔人機に似たパーツが追加で装備されている。特に腰部アーマーがスカートのように見えなくもない。……何だか女の子らしさマシマシといった感じだ。


 閑話休題。


 アポリト浮遊島出発の翌日。アミウール戦隊は、地上都市へと迫る闇の勢力と接触した。


「敵は地上部隊。オークとゴブリンの混成、およそ三千体」


 旗艦『エスピス』の艦橋。通信士が偵察機からの報告を読み上げる。


 この時代にもゴブリンとかオークっているんだな。俺は意外に思いつつ、メギス艦長に顔を向けた。


「こいつらの排除が、今回の任務か?」

「植民地の保護は、我々、軍の仕事ですからな」


 艦長は眉間にしわを寄せた。


「進行方向にある町バーデンには、守備隊が駐屯ちゅうとんしているはずですが、この規模は荷が重いでしょうな」

「こういう事例の処理の定番は?」

「魔人機で蹴散らす、といったところでしょうか。ただ、今回、少々敵の数が多いですが」


 ちょっとしたダンジョンスタンピードの規模だからな。


「巨人に踏みつぶされるというのはたまらんだろう」


 魔人機とてチマチマやっていたのでは埒が明かない。だが――


「魔神機を出そう。巫女たちの力を試すにはちょうどいい」

「はっ、魔神機に発艦を要請します」

「バックアップの態勢を取るのを忘れるな。僚艦にも伝えろ」


 俺の命令は直ちに、各部署へ伝わる。二隻のヘビークルーザーも、ダークエルフ兵の乗る魔人機リダラ・ゴルム、コルクラを待機させる。


 そして巫女たちも出撃準備にかかる。今回のメインはセア・シリーズ各機。魔神機四機と、随伴の魔人機十六機となる。


 初戦としては、観戦気分でいられるかな?

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