第980話、艦隊演習、アミウール戦隊
インスィー級戦艦『エルピス』を旗艦に、コサンタ級重巡洋艦『アエトス』『グラウクス』の二隻がついた、計三隻が、アミウール戦隊である。
俺はディーシーと共に、『エルピス』の艦橋に上がった。
全長250メートル、アポリト軍の主力飛行戦艦である。
二本の砲身が出た連装の30センチ魔法砲を四基、艦首に魔法魚雷発射管四門を装備する。魔法文明艦艇の例に漏れず、ラインや色々な場所に三角形の意匠が見てとれる艦だ。
艦内は、機械文明時代の艦艇同様、金属で作られた未来的な作りになっていて、気密が完璧なら宇宙にでも出られるのではないかと思う。
鉄と油、レトロ感溢れる大帝国の空中艦と異なり、キラキラピカピカしたSFな印象だ。かといえばテラ・フィデリティアのような機械機械過ぎず、少々ファンタジーではある。
艦長席に座るは、四十代半ばのアポリト軍人であるメギス。顎髭をはやしているが、短く揃えていて、こざっぱりとした感じだ。中肉中背、あまり特徴がない人物である。
「団長」
敬礼をするメギス艦長。俺も答礼する。
「すまんな、艦長。急な演習に付き合わせて」
「いいえ、バルディア卿は、大公閣下のことを快く思っていませんからな。団長殿のせいではありますまい」
このメギス艦長は、大公派派閥の将校である。それゆえか、外見上、半分以下の歳くらいにしか見えない俺に対しても、それなりの敬意を払ってくれている。
今回の艦隊演習は、先の言葉どおり、本来の予定にはない急なものだ。俺の部隊が作戦行動に入る前に、その艦隊運用能力を見る必要がある、とバルディア卿が言ってきたのが発端だ。
「部隊演習で負けたのが、相当悔しかったらしい」
「はは、あの突撃姫はプライドが高そうですからな」
艦長が笑った。
俺は、艦長席から右手方向にある司令席に座る。十二騎士団長専用席というやつだ。少人数で動かせる魔法文明艦艇だけあって、艦橋の広さの割にクルーは少ない。
そして半分がダークエルフである。……アポリト軍にいる人間の数よ。この文明がそう遠くない未来に滅びるというのは、こういうところにも出てきているのではと思う。
「しかし、団長。これはいじめですよ」
メギス艦長は不満を露わにした。
「こちらは三隻。向こうでは三倍の九隻。戦闘機の数も向こうが優勢なれば、普通にやったらこちらに勝ち目はありません」
「普通にやれば、な」
俺は、特設された専用席に座るディーシーへと目をやる。
「こちらが普通にやってやる道理はない。勝てるさ、艦長。こっちは魔神機が使えるんだぞ」
「はあ、作戦は承知しておりますが……その、本当に可能なのでしょうか? 前代未聞といいますか、これまで戦術としては考案されたことはあっても、実現は不可能だと思われていましたが……」
「何事にも最初はあるさ。それに魔神機を活かすためにもこの戦術は有効だ」
俺が言えば、メギス艦長は口元を歪める。
「まあ、あちらさんも、魔神機が艦隊戦で使えないと高をくくっていますからな。こちらは空中戦対応のリダラシリーズと、セア・シリーズの風属性機がありますが……」
「せいぜい艦隊防空程度という認識だろう。確かに魔神機を殴り合いの機械と思っているお嬢様には、想定外だろうよ」
俺が苦笑すれば、索敵手のダークエルフが振り返った。
「艦長、まもなく演習指定空域に入ります」
「うむ。……団長、まもなく本番ですな」
「戦闘配置だ」
「戦闘配置、発令! 偵察機、発進!」
艦内に警報が鳴り響く。オペレーターにより、演習であることが放送されるが、艦隊乗員はすでに承知している。
俺は、ディーシーに呼びかける。
「準備はいいか、ディーシー?」
「ああ、テリトリーは展開している。もっとも、範囲が広すぎるから適当に絞った上の空打ちだがな。……おっと見つけた。偵察機は必要なかったな。敵艦だ。インスィー級戦艦3、コサンタ級重巡洋艦6だ。戦艦1に重巡2の三セット」
「バルディア卿も、くそ真面目な配置だな」
「自信があるのでしょうな」
メギス艦長が皮肉げに口を歪める。
「分散すれば各個撃破ですが、そのような隙は見せんでしょう」
「密集していればいいというものでもないことを、教育してやらんとな」
俺は艦長に視線をやった。
「各魔神機隊、発艦準備。僚艦にも伝えろ。奴らの度肝を抜いてやる」
「ハッ。……しかし、度肝を抜くのは、たぶん我々も同じだと思いますよ」
ふふ、軍艦サイズで試すのは、俺も初めてだよ――とは心の中に秘めておく。
「ディーシー? いけそうか?」
「ああ、場所さえわかれば、そこに魔力を限定すればいいからな。さて、まず、どの
「そうだな……まずは『アエトス』からだ」
「承知した。空間転移設定、『アエトス』前方100。出現転移空間、敵艦隊、中央隊と左翼隊の中間!」
「よし、転移魔法陣、展開!」
その瞬間、旗艦の右前方を行く重巡『アエトス』の前方に光の魔法陣が形成され、すぐにその艦艇を飲み込んだ。
俺の目には、さながら重巡がワープしたように見えた。しかし初めて軍艦が、転移魔法陣で転移する様を見たメギス艦長やクルーたちは驚愕して声も出なかった。
転移陣自体は、アポリト島にも無数にあって軍も使っているが、せいぜい車両程度のサイズ。二百メートルもの大型物体の転移は、さすがに想像の外なのだろう。
「『アエトス』、敵艦隊中心に転移した」
ディーシーが淡々と報告した。ダンジョンコアをお得意の、ダンジョン内転移魔法陣を応用した、巨大物転移だ。なので、俺のポータルや転移とは少々毛色が違う。
「よし、続いて、『グラウクス』を転移」
「『グラウクス』前方、100に転移魔法陣設定。目標、敵艦隊右翼隊側面――」
・ ・ ・
バルディア艦隊は、戦闘機による先制攻撃のあと、艦砲射撃でアミウール戦隊を撃滅しようとしていた。
何の
その点、指揮官であるエリシャ・バルディアは完璧だった。
だが転移してくる艦艇は、まったくの想定外だった。もっともそれは彼女だけではなく、バルディア艦隊の誰ひとり、予想だにできなかったことだ。
艦隊の真ん中に、突然出現したアミウール戦隊の重巡洋艦は、その場で搭載する魔人機であるリダラ・ゴルム、リダラ・コルグラを展開しつつ、艦首側の22センチ魔法砲を手近な重巡に撃ち込んだ。
ちなみに実際の攻撃であり、当たれば被害が出るが、全艦は防御障壁を展開して演習に臨んでいる。この被弾によって障壁を失った時点で、撃沈判定となるのだ。
突然、出現した重巡は手当たり次第に撃ちまくりながら、バルディア艦隊の後方へと抜ける。魔法文明艦艇は前方と側面には主砲を向けられるが、後方への武装が弱い傾向にある。
そのため、不意をついたアミウール戦隊の重巡は砲撃で、敵の障壁を削ったが、一方のバルディア艦隊重巡は砲を向ける前に、射線外へと逃げられてしまう。
反撃しようと各艦が転舵をはじめたバルディア艦隊だが、そのど真ん中にアミウール戦隊旗艦が出現し、混乱を拡大させた。
そして旗艦『エルピス』から発艦した魔神機の圧倒的火力が、艦隊中央に吹き荒れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます